1/14 僕は共和主義者(なのか)

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僕があちこちで話している「仕事と用事」の話をする。契約に基づいて、求められた結果を出すために働くのが「仕事」、対して別に強制力はないのだが、誰に言われずともやることで特定の共同体を維持していく働きが「用事」。用事の具体例は例えば「倒れた獣害対策用の柵を立て直す」とか「落ち葉が詰まった神社の参道を掃除する」とかそういうの。都会育ちで「仕事」しか知らなかった僕は、7年前に山梨の山の中の小さい集落に引っ越して「用事」の世界を知った。用事はめんどくさい、が仕事と違って競争や優位性を求められることがなく、なんとなくやっているとなんとなく学びがあったり、仕事関係では縁ができないであろう地域の人たちとご縁ができたりして、なかなか悪くない。

出社する必要も、会議室の重苦しい時間に耐えなくてもいいリモートワークは、生産性を最大化するために物理世界とのフリクション(摩擦)を限りなくゼロにするように技術革新を起こしていく。スーツ苦しい〜隣のおじさんがタバコ臭い〜みたいなストレスなく結果に集中する、ということは一見良さげに見えるが「もう言い訳できないよね?結果出すためにひたすら頑張ってね」ということにもなり、フリクションがないだけに無限に結果を求められるストレスも発生してしまう。

ひたすら生産性を試される苦しみのバランスを取るために、「用事」が大事、というのが僕の主張。僕は山の中に引っ越してかなり本格的な用事の世界に強制突入してしまったが、都会でもサークル活動したり、編み物とかガーデニングしてみたり、料理でもいいし、なんなら味噌とかパンとか仕込んでみたりするのもナイスな「用事」だよ。リアルな物質とか、微生物とか、ふだん仕事では会わなそうな誰かとのフリクションが「用事」では楽しさや刺激に転化したりする。

何の摩擦もないツルツルの人生は味気ない、とはいえ仕事にフリクションがありすぎると心や身体を病む。だから用事でフリクションを楽しみましょう。いずれ知能のシンギュラリティが起こって、人間が肉体を捨てるまでは僕たちは具体である身体と付き合っていかなければいけない。身体は外界とフリクションを起こしながら世界を認知する。だからフリクションを排除しぎると存在している意味がわからなくなってしまう。ほら、通勤時間とか飲み会とか減ったぶんだけ、家族とか地域とか趣味の用事に時間使ってみてもいいんじゃない?

お昼は道の駅プロデューサーの金山さんがランチしにくる。道の駅の運営を全国でしている小売のプロに発酵デパートメントはどう見えるのか?とドキドキ。売り場を一通り見た金山さん「いやーーーー欲しいものしかないっす!めちゃ良いです!」と褒めてくれてひと安心。商品爆買いしてくれた後、敷地自体に人の流れがないので、後はどう認知を高めていくかですね。僕の趣味で解決策のアドバイスを後日送ります!と言い残して颯爽と帰っていった。なんて素晴らしいアニキや…(感謝)

午後からお店近くのただいま発酵中スタジオに移動してポッドキャスト収録。相方のいっしーと、撮影&編集担当のジンくん(僕の元四代目書生。今はリクルートでディレクターやってるデキる男子)で集まって4時間に渡る長時間収録。番組8本ぶんを撮ってぐったり。1〜2月のテーマは「麹概論」と「カール・フォン・リンネ」の二本立て。麹を微生物学/化学/醸造学的な切り口で解説する全5回と、リンネの時代にどのように近代分類学の基礎ができたのか?18世紀のヨーロッパではなぜ博物学が隆盛したのか?などについて話す全3回。酵素の分子モデルを空間的に解説したり、リンネの弟子が中東や南米で死にまくる悲運などについて盛り上がった。

1月下旬から2月中旬にかけて順次配信されるのでお楽しみに。
(あ、#10から毎週更新から週2更新になります。週イチだと話足りないので)

ラジオ収録後、朝日新聞の記者石川さんとおしゃべり。朝日新聞のエース記者ながら『さよなら朝日』という本を出版して、極右愛国主義者もリベラルも批判している骨太なジャーナリストなのだが、本人はめちゃ発酵が好きなチャーミングなお兄さん。アゴタ・クリストフの小説の話で盛り上がり、最近の社会運動(ブラック・ライブズ・マターやMeToo運動)の陥穽についての話を聴く。詳しくは石川さんの著書を読まれたし。帰り際に「ヒラクさんの立場は共和主義者的ですね」と言われる。僕は親世代の進歩主義的なリベラルではないし(だったら発酵の仕事なんてしてない)、かといっても愛国保守でもないし、経済やテクノロジー第一のネオリベラリズムとも違うし、だいぶ古典的なカテゴリーではあるが共和主義者。なるほど確かにそうかもしれない久しぶりにモンテスキュー読み直そっかな。

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