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ザ・プレミアム・モルツ〈香るプレミアム〉。日本人のためのエールビール

GWはひたすらDIY三昧。休憩のビールがおいしいぜ。
最近ヒラクがよく飲んでいるのは、サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ〈香るプレミアム〉」。

これね。
量販店で買える日本のビールとしては最高峰の出来だと思っているのですよ。

上面発酵と下面発酵

このビール、実は普通に売っているビールとは製法からして違うのです。
ビールには、大きく分けて「ラガービール(下面発酵)」と「エールビール(上面発酵)」の二つの製法があります。

でね。
ふだん僕たちが飲み屋さんで「とりあえず生!」と頼むビールは前者の「ラガービール」。これは、低温で発酵させるキレのあるスッキリしたビール。酵母が下に沈んでくるので「下面発酵」と言います。世界で流通しているビールの90%以上がこの「ラガービール」。ルーツはドイツで、デンマークやチェコなどで発展しました。なんといってもパイオニアはカールスバーグとバドワイザー!

対して。
「ザ・プレミアム・モルツ〈香るプレミアム〉」は、後者の「エールビール」なのですね。ラガービールよりも高温で発酵させる、フルーティな香りのコクのあるビール。酵母が上に浮かんでくるので「上面発酵」と言います。ラガーよりも起源は古く、イギリスで発展しました。有名どこだとギネスやバスペール・エールですね。

大手ビールメーカーのラインナップは、基本的にはほとんどラガー。なのですが、コイツは珍しくエールなのですよ(実はリリースは去年だったんだけど、限定生産で普通の量販店では買えなかった)。

日本人のためのエールビール

今までエールビールで一般流通していたのは長野の地ビールメーカー、ヤッホー・ブルーイングの「よなよなエール」。このブログの読者はファンも多いと思います。

そんでね。
よなよなエールもおいしいんだけど、僕の好みでいうとサントリーのプレモルに軍配が上がる。なぜかというと、これは「日本人のためのエールビール」を目指して作られているからなのだな。

「よなよなエール」は、エールビール特有の「香りの華やかさ」や「味の深み」を表現している。ところがこれは、実は「日本人のビールの好み」に相反してしまう。
夏の暑い日に、バーベキューで飲むビールはキンキンに冷えていてほしいし、グッと飲み干して「うめーーーー!」と叫びたいでしょ。

ところが、エールビールは冷やすと香りと味が飛んでしまうのであるよ。
「よなよなエール」のパッケージにも「常温で飲むとおいしいよ」と書いてある通り、エールビールを楽しむためには、クールダウン&キレを犠牲にする必要がある。
イギリスのパブに行くと、みんなぬるいエールをチビチビ飲みながらサッカーを見るという伝統があるが、日本では勤め先から帰ってきたサラリーマンがナイターを見ながら冷えたラガービールを飲む伝統なのね。

伝統というのは、一朝一夕では変えられない。なので「よなよなエール」はあくまでオルタナ系ビールの地位に留まってしまう。

さて、そんな状況のなかサントリーは何を考えたか。
「ナイター見ながら飲めるエールは作れないか」と考えたのであるよ。

ということで前置きが長くなったけど、プレモルエールの味の特徴ね。
まず、エールビールの香りは比較的よく出ている。だけど、味の深みはかなり抑えられている。これによって、人によってはニガテになる「酸っぱさ」が出にくくなる。

そして冷やしてもおいしんだね。
風呂あがりに「うめーーー!」感もキープしつつ、香りはしっかりエールっぽい。後味にエールビールっぽいコクもかすかに感じる。

これならお父さんも安心。
ついでに、食の好みにうるさいキラキラ女子のクラフトビール入門にもちょうどいい。
まあなんというか「たらこスパゲティ」とか「お母さんのカレー」的な、本国の要素を日本の風土にあうように換骨奪胎した良さがあるのよね。

さすがに大手はエールをつくってなお「メジャー感」のある発酵デザインをするもんだ。
ヒラク的には、「バスペールエール」と「プレモルエール」を一緒に買って飲み比べてみるのをオススメするよ。

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