三重の発酵ツーリズム:
たまり(三重県鈴鹿市)| 東海醸造

豆味噌の桶から滲み出る濃厚液体調味料


味噌から染み出してくるたまり。美味しそう…!

たまりは豆味噌(大豆に麹をつけて仕込んだ味噌のいちバリエーション)の桶から滲み出てくる液体分を取り出した液体調味料。スーパー等で流通しているたまり醤油とは別物で、こちらは窒素分(旨味成分)が普通の濃口醤油よりも濃厚になるように仕込まれた醤油のこと。東海地方以外でたまり(notたまり醤油)が流通しているところはほぼ皆無。

濃いめの醤油として仕込まれるたまり醤油よりもさらに旨味濃厚で野性的なフレーバーのする、この地域ならではのパンチある調味料だ。

このたまり、単体で使われることは稀で、出汁や他の調味料とセットの「隠し味」として使われる。流通も単体パッケージではなく、他の調味料と混合することを前提に飲食店や加工食品メーカーに卸される。

つまりだな。
たまりは『東海の旨味を支える縁の下の力持ち』。この土地に工夫上手の料理人の文化が根付いている証なんだ。

三重県鈴鹿で約300年に渡って豆味噌とたまりの製造を続けている東海醸造では、江戸時代の面影を残しまくっためちゃ味わいのある醸造法を継承している。
木桶に仕込んだ味噌を豆味噌にする途中、2年の熟成期間を超えた桶からたまりを放出する。

すげーーーいっぱい出るゥ!!!!
と見るだけでもアドレナリンが放出される瞬間だぜ。

こうやって取り出したたまりは、そのまま瓶詰めして出荷されることはほとんどなく、工場内で醤油やみりん等と混合して飲食店や他メーカーに納品される。直接販売される場合は、使い手が直接好みの調味料と混合する補助調味料として使うことが多い。

どうやってつくる/食べる?

▶How to 仕込み
A:豆味噌を仕込み、熟成させる
B:熟成の後半(二年以上)、木桶からたまりを放出する
C:ろ過・火入れ(発酵を止める作業)などをして完成

豆味噌の仕込み方については、愛知県の八丁味噌を参照。
・味噌汁の味は、その土地のプライド。八丁味噌

▶食べかた
・出汁や他の醤油、みりん等と混合して補助調味料にする
・刺し身などの醤油とする

写真は穴子のだし巻き卵。
卵の部分は白醤油(東海独特の小麦を主体とした醤油)、穴子の部分にたまりを使った「旨味の首都東海」ならではの旨味レイヤー複雑過ぎな一品でした。

▶食べられている地域
東海地方一帯

▶微生物の種類
コウジカビ(Oryzae系ではなくSojae系)、蔵に棲み着く野生の耐塩性乳酸菌、酵母類

旅のメモ

東海醸造の豆味噌は、同じ原料を使いながらお隣愛知県の八丁味噌とは個性も製法も違う。写真は、東海醸造の木桶の表面を覆い尽くすカビ・酵母類のコロニー(ちょっとナウシカっぽくてロマンチック)。東海醸造では八丁味噌と違って石をピラミッド状につみあげるのではなく、まばらに重しをするスタイルで熟成を進める。空気に触れる面積多すぎて雑菌が混入しやすいのでは?と思ってしまうが、表面に菌のコロニーでバリアをつくることで味や香りを悪くする汚染を防いでいる。

こっちが八丁味噌の石積み。表面に空気が触れないように隙間なく石を詰む。

こっちが東海醸造の豆味噌。石と石の隙間に菌のコロニーがびっしり。

この石積みの方法論で何が変わるかというと、香りが変わるんだね。
八丁味噌はコクのあるディープな香りだが、東海醸造の豆味噌はよりイースティ(酵母っぽい)、もっというとフルーティな香りになる。桶の表面の酸素の量の違いが微生物の働きを変えているのだろう。こんな感じで、豆味噌のなかでも、蔵や地域ごとに多様性があるんだね。めちゃ面白い。

ちなみに東海醸造からすぐ近くの海岸沿いを歩くと、伊勢湾を挟んで愛知の知多半島を臨むことができる。今よりもずっと海運が盛んだった江戸時代以前には、この鈴鹿の地と愛知の三河地方は同じような文化を共有した東海の発酵中心地として醸造業が栄えていったんだろうね。

この取材では、東海醸造の本地猛さんにすっかりお世話になりました。
伊勢をルーツとしながら、三河や紀州、近江や奈良ともつながっているミックスカルチャー三重。次回はさらにディープに掘ってみたいと思います。


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