危機を生き延びるための伝統。

“強い民族、強い国家の影響下で伝統を捨てて生きていくということは、自分たちのアイデンティティを放棄し、強者の枠組みの中でしか生きていけないという「隷属への道」です。そうならないためにも、僕たちは風土から切り離されずに生き抜くために、伝統、もっといえば小文字の伝統、つくることによる伝承を武器にしていかないといけない”

新著『僕たちは伝統とどう生きるか』のまえがきを公開したところ、全国各地の醸造家やものづくりに関わる人たちからのたくさんの反響をもらいました。うれしいぜ。

まだ出版前ですが、ちょっと裏話をします。
まえがき(プロローグ)の通り、この本は発酵産業における近年のものづくりの危機から始まります。ただおそらくは今読まれるべきは、あとがき(エピローグ)かもしれません。

この本は日本と世界のさまざまな場所を旅しながら書かれました。全ての原稿がひととおり揃ったのは、滞在する予定のなかったトルコのイスタンブール。執筆取材のために訪れたジョージアから日本に戻る時に、イランを巡る政治的緊張が高まり、予定していたインド経由のフライトが往路復路ともにキャンセルになったので、急遽イスタンブール経由に切り替えたのです(なお往路はドバイ振替でした。10日間ズレていたらと思うとゾッとします)。

今もなおロシアの強い影響下にあるジョージアはもちろん、その前に訪れていたマレーシア、クアラルンプールやインド、ニューデリーで現地の様々な人と話しながら、今後の日本の行先の困難さに思いを馳せながら、この本のとりわけ後半は練り上げられていきました。その時に書いた文章をいくつか引用します。

“日本人だけが住み、日本人だけで決める。これまでの国家運営の前提は、現時点でもすでに成り立たなくなっている。数年後の近未来に、政府自身が決定するか、あるいは外からの強制介入によって日本は南アジアのような社会になっていくと、僕は予感しています”

“いま日本は「つくること」の基盤が崩壊しつつあります。それは僕の専門である発酵にとどまりません。工芸はもちろん、農業や漁業、さらに藤原印刷のような製造業まで。本書の冒頭で紹介した僕の投稿を読んださまざまな産業の担い手から声が寄せられました。この状況が進むと何が起きるのでしょうか? 暮らしに必要な多くのものを海外から取り寄せないといけなくなります。ITでも金融でも勝者になりえない国の通貨価値は弱く、これまでの安いから海外から調達する、という状況が逆になり、高いものを海外から調達せざるを得ず、さらに他の国への依存度が高まる悪循環に陥ります”

石油やガスを始めとしたエネルギー問題の顕在化、そして地方の人口問題やインフラの劣化や円の為替価値の急速な下落…この本を書き上げてから一ヶ月もしないうちに、この懸念は(僕が思っていたよりもっと深刻なかたちで)現実のものとなりつつあります。

たまたま20世紀のわずかな間だけ大国への夢を見ていた日本に生きる僕たちは、今国家全体の思惑とは別のかたちで「持たざる者」のアイデンティを身に着けないと生き抜いていけない、そんな時代になりました。

改めて自分の足元、長い時間をかけて蓄積してきたことの意味を問い直す時期に僕たちはいます。
ぜひ2020年代の僕たちが生き抜くための「伝統」そして「風土」についてみんなで考えていきたいと思います。

新著『僕たちは伝統とどう生きるか』は、「持たざる者」として僕たちがどう未来を生きていくかのトピックスが詰まっています。ものづくりに関わる人、地方で生きる人、いちど人生を立ち止まって考え直したい全ての人に読んで欲しいと思っています。

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小倉 ヒラク

発酵デザイナー。1983年、東京都生まれ。 「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちとプロジェクトを展開。下北沢「発酵デパートメント」オーナー。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など多数。