僕がオワコン化する理由。報酬は今でも未来でもなく、過去に支払われる。

怒涛の9月が終わった。

カウントするに、9月は11回のイベント&ワークショップに出て、8本の原稿を書き、4件の取材を受た。週に3回何かしらで人前に出て、2回は原稿の締切を迎え、1回は取材対応をしていたということになる。その間、もちろんデザインは平常運転、さらにアニメをつくり、ラジオ番組の収録までやっていた(なので、ブログの更新も滞ってしまったわけさ)。

「おやおやヒラクくん、忙しい自慢とは嫌味じゃないかね?」

違うね。これは危機なのだよ。

「急速にオワコン化する」という危機を僕は迎えているのだ。

※オワコン=終わったコンテンツの意

インプットには時間がかかるが、アウトプットはクライアントの意向によって納品される。

今のこのペースは、アウトプットの量がインプットの量を遥かに上回っている(というかこの状況になるとインプットをすることが不可能になる)。

生物の死骸が何億年かかけて沈殿・発酵してできた石油(おっ、ここでも発酵!)という資源を、人間は100年か200年そこらで使い尽くそうとしている。

同様に、僕は物心つく頃から蓄えてきたとっちらかった興味やガラクタみたいな知識を1年かそこらで使い果たすだろうよ。

ある一時期、なんとなくSNSのタイムライン上でちょこちょこ見るな…と印象を与えた後に、すみやかにフェードアウトしていく。

「あれっ?ダリル・ホール&ジョン・オーツって”Private Eyes”以外になんか曲作ってたんだっけ?」

「そんなこと言うんなら、ハンソンの”キラメキ☆Mmmbop”はどうなんだ?」

えーと。

そうだな、例えば何かしらコラムを書いて原稿料をもらうとしよう。

その原稿料は、「書いている時間」に対して支払われると思ったら大間違い。本質的には「それを書けるだけのインプットを蓄積した投資時間」に対して支払われる。

発酵のことでいえば、なんだかんだで7年ぐらいディープに研究してきた。その7年という時間を切り売りしているのね。弁護士や会計士の時給が高額なのは、彼らが資格を取るために一生懸命勉強した時間を「投資ぶん」として報酬に上乗せしている。それと同じような原理だ。

そして、弁護士や会計士と違って芸人はすぐに「飽きられる」のであるよ。そいつの引き出しの底が見えた時点でオワコン化してしまう(そのくせ原稿料は弁護士や会計士の報酬ほど高額じゃない。)

しかし、今日のパンを得るために奔走する現代人の悲しみよ(←詠嘆文)。

人は「自分の過去の積み上げがどれぐらい目減りしているのか」という視点を持つことなく、ただ「ひゃっほう、仕事が来たぞお。よーし30分で書き飛ばすか。そしたら時給◯万円だあ」とフィーバーしているのであるよ。

愚かなことだ。

愚かなヒラクは、もうこれ以上仕事を受けないことにします。

みんな、あばよ。

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小倉 ヒラク

発酵デザイナー。1983年、東京都生まれ。 「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちとプロジェクトを展開。下北沢「発酵デパートメント」オーナー。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など多数。