37歳は「変わらぬ価値」を見出す年だ。
37歳になりました。
36歳のテーマ「再スタート」を自分の思っていたのとは違うかたちで体現する年となりました。
・36歳は再スタートの年だ!発酵デザイナー5年間の活動まとめ
10年間の活動の集大成である渋谷ヒカリエ『発酵ツーリズム展』がとんでもない成功を収め、新著を携えてのヨーロッパツアー、正式お披露目したNukaBotが話題を呼び、雑誌TRANSITの特集企画で中国雲南省のDEEP発酵文化を訪ね、年明けから世界各地からの共同研究やプログラム開発のオファーが相次ぎ、初の写真集『発酵する日本』の出版、そして4月から下北沢にヒカリエの展覧会が発展した店舗『発酵デパートメント』がオープン。
有言実行!いい感じで頑張れてるぞ、自分!
…と思っていたところにやってきた新型コロナウイルスの脅威。海外の仕事の大半がストップ、オープンしたばかりのお店は営業し続けられるかもわからない状況、僕のライフワークである旅も当然できなくなり、今までの積み上げが通用しないなかで文字通り「再スタート」しなければならない一年となりました。
正直めちゃ大変!なんだけど気持ちは不思議と明るい。
それはまたゼロから新しい世界を歩いていける喜び、そして今まで自分のやってきたことが世界に必要とされていることの自信が湧いてきているから。
未曾有の危機。だけれども希望はある。
そんな37歳を迎えるにあたって、これまでの一年をフラッシュバック!
2019〜2020年のフラッシュバック!
【2019年4〜7月】発酵ツーリズム展大盛況!
渋谷ヒカリエで去年の4/26〜7/22まで開催された『FERMENTATION TOURISM NIPPON〜発酵から再発見する日本の旅〜』(通称:発酵ツーリズム展)。全国47都道府県から一つずつユニークな発酵文化を紹介する、味噌・酒・醤油がほとんど出てこない前代未聞の展覧会がとんでもなくブレイクし、当初予定していたスケジュールを二週間延長し、最終的には来場者数5万人に。
二年前の『発酵文化人類学』のインパクトもスゴかったけど、今回の発酵ツーリズム展はそれをはるかに上回ってる。展覧会というメディアの圧倒的パワーと、冗談みたいに壮大なテーマ、関わってくれた人たちの数と絆の強さの賜物です。あまりにも影響力スゴくて僕個人は完璧にパンクしてる…!
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) June 14, 2019
全国の醸造家が登場する豪華イベントを50回近く開催し、国内の主要メディアはもちろん世界各国のメディアにも取り上げられ、これまでの僕の仕事のなかで最もインパクトのある集大成のプロジェクトとなりました。関係者&応援してくれた皆さま、本当にありがとう…!
プロジェクトの詳細はこちらをご一読あれ。
・来場者5万人!発酵ツーリズム展を振り返る12のトピックス
なお事業レポートのPDFも作りました。改めてまとめてみるととんでもないモンスターイベントであったことがわかります→ダウンロードはこちら☆
【2019年6月】ヨーロッパ五カ国講演ツアー
6月には二週間かけてヨーロッパ五カ国の講演&レクチャー行脚。イタリア〜チェコ〜ハンガリー〜フランス〜スペインでのべ400人以上に発酵文化の面白さを伝えてきました。
パリの日本文化会館での講演、とっても好評でした。古代漢字から始まり、神話、農業史、微生物学を経由して47都道府県の知られざるディープローカル発酵文化の紹介、そして社会運動としての発酵の勃興まで1時間半語り倒しました。講演会なのに終わった後ブラボー!という声が。みんなありがとう。 pic.twitter.com/NBntZnRT8G
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) June 23, 2019
パリでは15年越しの友人に会えて本当に嬉しかった。今回の日本文化会館の企画で最初の窓口になってくれたガエル、はじめて会った時は大学生だったのに、いまや二児の母で素敵な女性に。パリに渡ったばかりの時にいつも相談役になってくれたベルヴィルのサミールも全然変わってなかった。嬉しい(>_<) pic.twitter.com/o2NB8ih5hT
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) June 23, 2019
とりわけ20歳の頃に住んでいたフランス・パリでは旧友とも再会してほんと嬉しかった。来年はパリを拠点にしばらくヨーロッパで仕事するよ!
・ヨーロッパツアー無事終了!400人に日本の発酵文化を伝えてきたよ
【2019年6月】発酵妖怪NukaBot日本デビュー!
情報学者ドミニク・チェンさんとの出会いから生まれた、人間とコミュニケーションを取れるぬか床ロボットNukaBotが、ミラノトリエンナーレのプロトタイプ展示を経て日本で正式デビュー(ちなみにお披露目場所は渋谷ヒカリエの発酵ツーリズム展)。公開と同時に各所で話題を呼び、プロジェクト隊長のドミニクさんがテレビで引っ張りだこに。
片渕茜です。
渋谷ヒカリエで行われている発酵食品の展示会に来ています。ここで展示されている、発酵食品づくりに不可欠な「桶」と、テクノロジーを融合させた #トレたま を取材しました。桶の声が聞こえてきます…。今夜11時から #テレビ東京 系列で放送の #WBS で! pic.twitter.com/eiCjmpLsOQ— WBS(ワールドビジネスサテライト) (@wbs_tvtokyo) June 10, 2019
プロジェクトが成長していくにつれ、データサイエンティストのソン・ヨンアさん、デザイナーの守屋輝一くんチーム、長岡技術科学大学の小笠原ラボなど各界のスペシャリストがメンバーに加わり、さらなる進化を遂げています。
【2019年5〜8月】『日本発酵紀行』出版&全国ツアー
去年5月に出版された、展覧会の公式書籍であり『発酵文化人類学』に続く新著『日本発酵紀行』。展覧会時期と前後して出版イベント行脚で全国を回りました。今回も結局全国30ヶ所くらい回りました。改めて僕は全国の志ある本屋さんに支えられているのだと実感。みんなありがとう…!
なお8月には、神楽坂のかもめブックスにて『日本発酵紀行』をテーマにしたミニ写真展が店長の前田さんキュレーションのもと開催。素晴らしい展示で感動したよ…!
・発酵する文学。神楽坂かもめブックスにて『日本発酵紀行』展開催中!
そして今年の新著『日本発酵紀行』も6位にランキング入りでした。『居るのはつらいよ』『天然知能』素晴らしい本でした。僕の本、2冊もランキング入りして光栄の限り…! https://t.co/5KHv6ldKa6
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) December 28, 2019
年末恒例の本の雑誌の『2019年度ベスト10』特集号を買ってパラパラめくっていたら、なんと!高野秀行さんが僕の『日本発酵紀行』を今年の3冊に選書してくれていて光栄のあまり中央線内で悶絶した…!「今どき珍しい普遍的な文学」とコメントもらって嬉しすぎる。これで良い年納めができるよ… pic.twitter.com/8XY5dxUfwJ
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) December 23, 2019
新著もたくさんの人に読んでもらえてほんと光栄です。
【2019年9〜10月】雲南章へのディープ発酵旅
展覧会が終わって一息ついた後、三週間弱の中国雲南省の旅へ。きっかけは『発酵文化人類学』の担当編集、ハシモトさん。雑誌TRANSIT編集部に移籍したハシモトさんから「中国のDEEP発酵文化を掘りにいきませんか?」とお声がかかり、中国の西端、雲南省を国境付近を南下しながら、様々な民族のローカル文化を巡る旅に。
毛虫ではなく、豆腐!ケカビをびっしり生やして旨味を凝縮した腐乳を、ミャンマーとの国境近くの民家で発見。種付けはせず、蔵についた野生のカビのみを使って発酵させる。僕の見立てではこのカビの主機能は雑菌に対するバリアで[続く]#発酵文化人類学 #雲南 pic.twitter.com/0ViKqV6CB3
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) September 28, 2019
シーサパンナ凄い、凄すぎる。僕のお茶の世界にレボリューションが起きた。茶畑から製造から嗜みかた、地元の人の過剰すぎるお茶愛ぜんぶひっくるめて、ここはお茶パラダイスだ!!お茶という文化の始原を見たよ。#発酵文化人類学 #雲南省
(写真は樹齢500年の茶の木) pic.twitter.com/vEzWa7qEhb
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) September 30, 2019
この旅の様子は年末発売のTRANSIT「中国の食」特集に寄稿されました。ハードな旅に挑んだハシモト選手は、リス族の村に移住するよう説得されていたよ…!おつかれ。
旅の記念に『発酵文化人類学』編集担当の橋本さんがリス族のお母さんに民族衣装を着付けしてもらった写真を置いておきますね。この後村人総出の写真大会になり「ウチの村に来ないか?」と勧誘されてました。その村の名前はなんと!「ローマ村」と言います。#発酵文化人類学 #雲南省 pic.twitter.com/G8kW14qRnf
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) October 3, 2019
【2019年12月】山梨のセルフビルド発酵ラボ稼働
そして!2017年から一年半以上かけてコツコツDIYしてきた、山梨の山の中のニュー発酵ラボが稼働。完全セルフビルドかつオフグリッドのウェットラボが実現してしまったー!
ようやくできた山梨の発酵ラボは、各地から素敵な研究者が遊びに来てくれる場所になったらいいなと思いました。お話するなら日当たりのいいテーブルと中国茶セットあるし、お散歩するなら裏の森に菌探しに行ってもいいし。ちょっと行ったらワイナリーもあるよ。 pic.twitter.com/InZ5y5VLvs
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) December 9, 2019
山梨にいる時の思索を深める場所として絶賛稼働中。あわせてラボ敷地のランドスケープの整備も進んでいます。秋頃には人が呼べる状況になるといいんだけど…
【2020年2-3月】写真集『発酵する日本』出版
2020年最初の大仕事は写真集の出版。発酵ツーリズム展の取材旅行で撮りためた写真を本にまとめました。めちゃ濃厚な内容はもちろん、プロジェクトの座組も話題に。
版元&編集が青山ブックセンター、デザイン造本が藤原印刷という、出版社もデザイナーも編集者も介在しないとんでもなくシンプルなチーム体制で、原点回帰の写真集を目指しました。
事前予約700冊、出版直後から各所で話題になり、なんと二度目の雑誌ダ・ヴィンチ「ひとめ惚れ本大賞」の受賞という快挙。あちこちから絶賛の声が挙がっているようです。
とっても嬉しいことあったので聞いてもらっていいですか?今月号のダ・ヴィンチの「ひとめ惚れ本大賞」でABCと藤原印刷とつくった写真集『発酵する日本』が大賞を取りました。実は『発酵文化人類学』でも受賞していて、同一の著者が複数回大賞取るの前代未聞だそうです。山下さん、藤原兄弟やったぜ! pic.twitter.com/qjcSl2EFNp
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) May 9, 2020
青山ブックセンター店頭とECサイト、あと発酵デパートメント内のABC出張所でゲットできます。ご興味ある方、ぜひ!
【2020年1〜3月】新法人&店舗立ち上げ
発酵ツーリズム展の成功を受け、展示やミュージアムショップをベースにした店舗を立ち上げることに。展覧会の事務局D&DEPARTMENRTからミュージアム館長の黒江さん、そして事業プロデューサーのおのっちこと小野裕之と僕の3人で経営チームを結成。そしてきっかけをつくってくれたD&DEPARTMENTから一部出資を受け『発酵デザインラボ株式会社』を立ち上げ。
・【プレスリリース】Fermentation Design Lab.設立のお知らせ
そしてこの会社を母体に下北沢の新商業施設BONUS TRACKのメインテナントとして『発酵デパートメント』をオープンすべく準備が始まりました。展覧会ですでに事業としての手応えを掴んでいただけに、これは絶対うまくいく…!と思っていたらだな、
新型コロナウイルスの脅威と悩みまくりの日々
そんなこんなで4/1にオープンした発酵デパートメント。開店直後に新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により日本全体が緊急事態化に置かれるというとんでもない状況に。
そこから一ヶ月、人生最大に悩みまくりの日々が始まります。
周りの店が次々と休業し、街がゴーストタウンと化し、他人と近づけば致死性の病が感染しかねないという状況。しかし曲がりなりにも生活必需品である食料品を扱うお店であり、売り場を守り続けないと今この瞬間にもいつも通りものづくりを続ける醸造家たちの生業もまた危なくなる。
とはいえ、そんな僕個人の使命感がお店で働いてくれるスタッフへの負荷の言い訳になるのか?てかそもそもお店にお客さんが全然来ないんだから思い切って全面休業したほうが経営的にもリスクないんじゃない?
…などなど。
答えのない世界のなかで何かを決断し続けなければいけない日々が始まりました。スタッフの電車通勤を禁止し、飲食事業をクローズ、店舗に消毒液や飛沫防止カーテンを設置し、かなり厳しい入店制限など考えうる対策を取りながら、ひたすらお店の売り場をアップデートし、超突貫工事でECサイトをオープン。
・自炊革命は調味料から!発酵調味料毎月お届けサービス始めます!
大学時代の友人からの何気ない一言から始まった、発酵調味料の毎月定額お届けサービス『発酵サブスク』がブレイクし、ECが急成長。そして4月後半から店舗の売上も急成長し、これはなんとか継続できるのではないか…と一息ついたところで37歳の誕生日を迎えました。経営のパートナーおのっちから
「LIVE配信イベントやるからちょっと出てよ」
とzoomに招待されたら、なんと!待っていたのはお店のスタッフのみんなと僕の活動を支えてくれている大親友のみんなの顔。えっ、これって誕生日のサプライズなの???
振り返ってみれば。4月から5月の一ヶ月余りは朝から晩までダンボールを開ける日々でした。
箱から全国から届く発酵食品を開封して、売り場にならべて、そこに説明するPOPをつけて、スペースが足りなくなったら棚を足して、また同じことの繰り返し。
たまたまお店の徒歩圏に住んでいたリサちゃんとおさかなちゃんの三人で、朝から晩までひとつひとつ商品を仕入れて検品して並べてレジ売って、朝晩に在庫数えてまた発注して…その合間にまたお店の売り場をアップデートして、と本当に地道な作業を繰り返しました。
毎朝開店前に届いた商品を手に取るたび、それがつくられている醸造蔵やその土地の景色、毎日懸命にものづくりに励む醸造家のみんなの顔を思い浮かべていました。代田のはずれの、人気のない一角に閉じ込められた日々を送っていましたが、全然寂しくなかった(知人友人もけっこう遊びにきてくれたし)。
正直、オープン直後でそのまま潰れるのでは?と冷や汗をかくような苦境が続きましたが、自分が誰を相手に仕事をしているのか、自分の人生が何のために存在しているのか、何の役に立っているのかが明確になっていく貴重な時期でもありました。
人生最高におうちで趣味や勉強に費やせる時期のはずなのに、僕はまっっっったくもってステイホームできず、来たるべき社会への思索を深めることもできず、一日中身体を動かして銀行まわりして誰もこない店内でダンボール運びながら「いったい僕は何やっているだろう?」と正直思うこともありました。
けれどよく考えてみれば、僕は自分の身体の実感を使いながら、笑えないぐらいの身銭を切りながら「自分にとって大事なものは何か」を考え続け、そして応援の電話や手紙を送ってくれる醸造家や近所のお客さんの声を聞きながら「これから社会にとって大事なものは何か」を見出していく、ほんとうに幸せな時期にいるのだと思います。
幸せな理由はいくつかあってだな。
まずは自分のこれまでやってきたことが、これからの社会に切実に求められていることが確認できたこと。そしてゼロから新しい仕組みをつくりあげていけること。しかもそれを僕ひとりではなくチームで実現していけること。
これまで関わってきたみんなに本当に感謝したいと思います。
そして。37歳のテーマは「変わらぬ価値を見出す年」にしようと思います。
これから否応なく新たな事態に適応していくことを突きつけられる厳しい時期がやってきます。その時にいかに新しいルール、新しいテクノロジーに乗っかっていくかが盛んに議論されると思います。
なんだけど。僕の生業とする発酵は、1000年以上も原型を保ちながら生き延び続けてきた、危機の時代を何度も何度もくぐり抜けてきたタフな文化です。そういう文化の上に立っている自分は「易・不易」でいえば「不易」の方に軸足を置いて、どんなに社会が変わってもなお変わらない強靭かつしなやかな発酵の世界の価値を追い求めていきたいと思います。
2020年のはじめにこんなブログを書きました。期せずしてこの不吉な予感が現実のものとなりました。
ここに書かれた「信じられる場所」「拠り所になる価値」をつくるための試練の一年になりそうです。
たくさん悩んでいるけれど、迷ってはいません。
進む先には希望はある。そう確信しながら新しい世界で再スタートできたことを(まあ色々大変だったけど)嬉しく思います。
今年も発酵デザイナーと下北の発酵デパートメントをどうぞよろしく。