『発酵文化人類学』とはなにか?
『発酵文化人類学』の出版記念企画として、雑誌ソトコトの連載バックナンバーを無料公開! なぜそんなことをするかというと、書籍版は過去の連載記事を全部無視した「完全書きおろしREMIX」だからなのだ!
▶発酵文化人類学とはなにか? ソトコト2015年5月号掲載
はじめまして! 発酵デザイナーの小倉ヒラクです。僕は「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを生業にしています。今月から「発酵文化人類学」という研究をソトコトの誌面を借りて始めることにしました。皆さまどうぞよろしく。
そもそも発酵って何ですか?
突然ですが、生物には3つのカテゴリーがあることをご存知でしょうか? 動物、植物、微生物の3分類です。
最近いろんなところで耳にする「発酵」とは、この第三の生物「微生物」が人間に役立つ働きをしてくれることを言います。大豆に麹菌というカビがつくと美味しい味噌になり、ブドウにイーストがつくとワインに。蓼【ルビ:たで】に細菌がつくと藍染めになります。
このように、人類は数千年の歴史の蓄積のなかで「自分たちに役立つ微生物」を見つけ、彼らが気持ちよく働ける環境をつくることで、その力を借りる技術を発達させてきました。これが「発酵文化」です。
話は変わって。せわしない現代社会に生きる僕たちは、職場の人間関係がどうした、恋愛関係がどうしたと「ニンゲン」のことを朝から晩まで考えて生きている。つまり「ニンゲンしかいない世界」の住人です。
しかしだな。実は「マサルくんとヨシオくんの二人のイケメンからのアプローチ」に悩むカナコちゃんの周囲には何十万匹もの菌が浮遊し、磨いたばかりの口の中には数千億匹(!)の菌が棲んでいる。この事実からすると、カナコちゃんが見ている「イケメン二人と自分だけの世界」というのは実は幻想であって、僕たちは常に見えない無数の微生物たちに囲まれて暮らしているわけです。
発酵+文化人類学=発酵文化人類学。
僕は大学時代「文化人類学」という学問を熱心に勉強していました。「自分と全く違う文化を理解する」ための体系的学問です。ルーツは19世紀。植民地時代のヨーロッパの知識人がほかの文化圏に生きる人々を理解するために生まれました。民主主義と高度な産業技術を備えた彼らから見てみると「進歩をやめた辺境人」にしか見えない南米のアマゾンやアジアの離島に暮らしてみると「未開」だと思われていた文化からたくさんの知恵と技術が見つかった。これが「文化人類学」の起源。
さて、この方法論で「ミクロな生物」たちの営みを観察してみるとどうなるか。そこには何千何万というミクロな民族がいて、摩訶不思議な現象を起こしている。そして僕たちのご先祖様が、その民族たちと親交を結ぶことで人間の世界に恵みをもたらしていたことが明らかになるのです。
その瞬間、「目に見えない自然とコミュニケーションする文化」という全く違う社会のカタチが見えてくる。
「発酵文化人類学」は、日本列島をフィールドに、お味噌や日本酒などの「発酵文化」をひもときながら、この地に生きる僕たちのルーツを「ミクロの視点」から捉え直します。目に見えるモノに囲まれた「ニンゲンだけの社会」をひっくり返し、目に見えない自然から力を引き出す「発酵する社会」を可視化する、野心溢れるチャレンジなのです。
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