奈良の正暦寺の庭で放心する図。腰が抜けるほど旅したよ…!
2018年は、移動の年。
日本海外問わずとにかく移動しまくっていました。もはや人生でこれ以上移動しまくりの1年はあるのだろうか(←反語。いや無い)。
ということで。毎年恒例の1年の振り返りブログをどうぞ。
【2017年】一球入魂!旅と学びと出会いに満ちた2017年の振り返り。
【2016年】価値を育てる、縁を続ける。2016年の振り返り
今年の活動の振り返り
まず今年、僕はいったい何をやっていたのか?時系列で振り返ってみるとだな。
【前半】発酵文化人類学出版の余波が続く
去年出版した『発酵文化人類学』が新刊の時期を過ぎてもヒットし続け、年を越しても書評の掲載や取材、講演がオファーが続きました。1年かけての3万部到達、そして海外版の翻訳が決まるなど、ありがたすぎる流れが続いたぜ…!
・『発酵文化人類学』一周年記念!3万部重版&フランス語版&続編ができるよ!
3月にホーム山梨で開催された『甲府はっこうマルシェ』は、ラジオ番組のご縁で五味醤油の若旦那と一緒に企画プロデュースに加わり、初年度にも関わらず来場者15,000人超え!の大ヒットイベントになりました。
【中盤】都美術館とALIFE国際学会に出展
上野の東京都美術館『おべんとう展』に招待され、新作アニメと絵を制作。なんと、学生の時に志していた美術作家(いちおう)としてデビューしてしまった…!
・おべんとうの国を旅しよう!アニメ『おべんとうDAYS』ができるまで
音楽にGOING UNDER GROUNDの松本素生さん、ダンスに盟友flep funce!という素晴らしいチームで制作できて光栄でした。熊谷香寿美さんはじめ都美術館キュレーターチームとのディスカッションや、オランダのアーティストマライエ・フォーゲルサングさんや写真家の阿部了さんはじめ出展作家の皆様とのご縁をもらったのも嬉しかったなあ…。
・紆余曲折な経歴を繋げる。発酵デザイナー小倉ヒラクの生きる知恵 | CINRA
で。ちょうどおべんとう展スタートと同時期の7月に開催された、未来科学館での国際学会ALIFE 2018に、複雑系研究の第一人者の池上高志さんはじめALIFE lab.オーガナイザーの岡瑞起さん、青木竜太さんからお誘いしてもらってキッズプログラムを企画。
微生物の働きを複雑なままデジタルデータ化するという実験的なワークショップに挑戦しました。
・微生物のはたらきを可視化するALIFE 2018ワークショップ
このALIFE(人工生命)学会は、「知能=AI」ではなく「生命そのもの」のアルゴリズムを研究する先端分野。コンピューティングや物理学、社会学者や生物学者まで様々なジャンルの研究者が集まるめちゃエキサイティングな領域です。とうぜん僕も刺激を受けまくり、しばらく自分の研究のライフワークにできたら…と思っています。
【夏】心が折れて凹む
都美術館での作品制作とALIFEのプログラムが終わり、『発酵文化人類学』出版の余波が落ち着いてきたタイミングで、気分が激しく凹みました。
2108年の8月は「心が疲労骨折した夏」「自分の善意が無限でないことを知った夏」「心が折れると前を向きたくても向けないことに愕然とした夏」として人生に記録される一ヶ月になりそう。傷ついた獣がしばらくねぐらから出ないで傷を癒やすのと同じく、僕も人前に出て気丈に振る舞うのを控えます。
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) August 29, 2018
デザイナーへの道をドロップアウトし、山の中で微生物に囲まれて隠遁生活おくるつもりがいつの間にか世間からそれなりに期待され、その期待に応えねば…!という無理がたたって心が疲労骨折。
「もう誰にも会いたくない…」
「何もしたくない…」
「全体的に放っておいてほしい〜!!」
とやさぐれていました。ここ数年間のやたらポジティブモードだったツケが…!汗
こんなこと書くと自分の器の小ささがバレちゃいますけど、去年出た『発酵文化人類学』は僕の身の丈を超えたスケールのものになってしまって。以降の自分の仕事のハードルが上がりすぎて苦痛でした。正直なところ自分でも何であんなの書けたのかよく思い出せない…!という虚脱状態が夏まで続きました。
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) December 27, 2018
まぐれで打ったヒットがきっかけになって、各界の超人みたいな人に声かけてもらったり、権威あるメディアの舞台に上げてもらったりしたわけですが、その度に「僕の器小さい!おちょこ!むしろおちょこの裏!」と打ちのめされる1年間でしたが、秋以降突如「まだイケる…先に進める!」と復活しました。
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) December 27, 2018
【後半】渋谷ヒカリエ47都道府県の発酵ツーリズム企画スタート!
ということで。夏にひとしきり凹んだ後、秋から次なる大プロジェクト、D&Departmentと手を込んでの渋谷ヒカリエの展覧会『Fermentation Tourism NIPPON』のチャレンジが始まりました。来年春まで47都道府県の知られざる発酵文化の現場をくまなく歩いてまわり、その旅の模様が展覧会になる!という「コンセプトは面白いけど絶対に実行してはならない類の企画」に手を出してしまった…!
・【ヒカリエ47発酵】発酵から日本を再発見する旅、いよいよスタート!
この無駄に壮大なプロジェクトを達成するには、凹んでいるヒマはない。去年の全国55ヵ所出版ツアーでボロボロになった記憶を完全抹消し、新たな(そして前回よりも絶対ツラい)旅に出るために気合入れるぞ!えいえいおー!
・47都道府県の知られざる発酵食品が大集合!発酵から日本を再発見する展覧会を開催!
11月からはクラウドファンディング企画もスタート。4年前の『こうじのうた』のクラウドファンディングの時に死にそうになりながら集めた100万円を数日で達成し、今回は目指せ500万円!みんな応援おねがい!!と支援を呼びかけた年末のヒカリエのイベントにはおよそ100名の発酵ラバー&メディアが駆けつけてくれました。
・活動報告 \出発進行式を開催しました!/ | CAMPFIRE
夏にあんなに凹みまくっていたのに、いつの間にか去年よりもさらにやる気になっている自分の現金さよ…!
青山ブックセンター店長の山下さん @YamaYu77 にも言われたのですが、僕は比較的すぐ死んで、すぐ蘇る体質のようです。つまり落ち込んだり悩んだりしたらすぐ寝るヤツ。で朝起きたら「あれ?昨日なに悩んでたんだっけ?」となってるヤツだ…!
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) December 27, 2018
今年は全体的に「規模の大きいこと」にチャレンジする1年だったなと。
僕のやってることは、他の人からニッチに見えるかもしれませんが実は産業的にも文化的にもものすごくスケールの大きい領域と接続されている。
よって目指すはオーバーグラウンド…!
来年もメジャーへの道を歩んでいくぞ!
2018年のトピックス
今年は働きかたが大きく変わっていくタイミングで、色んなことを考えました。
▶出版オファーがいっぱい来て悩む
大手から専門系まで色んな出版社から「ウチで本出しませんか?」とオファーがありました。ありがたいことなんですけど、このまま「やったー!どんどんいくぞー!!」と量産すると
運が悪いケース→速攻でオワコン化する
運が良いケース→そのうち本を出すのが仕事=作家になる
のどちらかになりそう。前者は絶対イヤで、後者もなんかピンとこない。まだ当面、実践者でありたいし、深く潜って研究したいこともある…!
ということで。2018年は新しい本のことを考えるのを止め、具体的に何かをつくること、行動することを重視することに決めたんですね。僕はまだまだ現場 or DIE!
▶海外での活動が活発化する
オランダ、アイントホーフェンのDUTCH DESIGN WEEKで出会ったキプロス島のデザインガールズ
今年はこれまでになく海外に行きました。年始にベトナム、2月にフィンランドとエストニア、リトアニア。5月にフランスとイタリア。6月にハンガリー。10月にまたイタリアとオランダ、12月に台湾とあちこち旅したなあ。
とりわけヨーロッパでの仕事がだんだん増えてきて、日本でも国際会議への登壇(7月のALIFE、10月のInnovative City Forum)、イギリスの複雑系の研究者Aleandraさんとのフィールドワークなど国内にいても海外の研究者やクリエイターの人たちとご一緒することが多くなってきました。この流れは来年さらに加速する予定です。
▶ディープルーツに心動かされる
和歌山県湯浅で金山寺味噌の伝統を守る太田久助吟製
去年も『発酵文化人類学』の出版ツアーで全国行脚していたのですが、呼んでくれた人たちの多くはローカルで新しい動きを起こしている「今時のイケてるヤツ」だったので、土地は違えどグルーヴ感は一緒。なので気持ち的にはわりとラクな旅でした。
しかし今回の47 都道府県の発酵ツーリズム企画。訪ねるのは山のなかに住む80歳のおばあとか、断崖絶壁の離島にある蔵とか、どうやってたどり着くのそこ?的な場所ばっかり。ネットに載ってる情報はアテにならず、全国の友人のツテを頼って訪ねていくか、あるいはアポ無しでとにかく現地に行ってから考える!スタイルで旅して、しかも出会うのは現代人の僕とはぜんぜん違う世界観で生きている人たち(メールも使わない場合が多いので、連絡はFAXとか手紙の場合も)。
肉体的にも精神的にも試されすぎる…!マジでツラい…!!
昨日熱にうなされながら歩いた和歌山県湯浅の夜の街並み。古い巡礼道の面影を残す路をヘロヘロ状態で歩いていると自分が幽霊になったんじゃないかという錯覚に陥りました。きっと昔の人は自分が死んだことに気づかず、お盆がくるとなんとなく家族の家へフラフラ戻ってきてしまう…その時の気分。
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) September 28, 2018
途中なんども体調を崩して倒れながらもなんとか旅を続けてこれたのは、苦しい道中のなかで出会う人と景色が素晴らしすぎたから。今年の旅は、かつてないほど日本のディープルーツに迫っている確信がある。
つまり「真の旅」をしている確信がある…!
心動かされた旅
それでは今年ご縁のあったナイスな土地のなかでも、とりわけ強く心を動かされた土地は以下。
【北海道】道東誘致大作戦に巻き込まれすぎる…!
盟友、徳谷柿次郎さんから「道東の元気な若いヤツに呼ばれてるから一緒に行かない?」と誘われて、Re:Sの藤本さん、かもめ柳下さん、鶴と亀の小林くん、ALL YOURSのきむ兄とともに旅した北海道の東(オホーツクや北見、網走や釧路、十勝や阿寒湖など色々)。
どこまでも続く平野、近代の歪みのなかでたくましく生き抜いてきた北の地の偉大な先輩たち、そして謎にアタマのネジにすっ飛んでる若きローカルプレイヤーたち。
・「怒られないローカル」の先へ。道東を発信する88年生まれの覚悟 | BAMP
色んな意味で「人は辺境で逞しくなる」という実例を見ました。おい厚顔無恥のテトリス野郎ども、来年もお世話になるからな!ヒカリエ企画にも来いよ〜!!
【秋田】革命の狼煙はいつも辺境から
Re:Sの藤本さんからご縁をもらって、新政の古関さんや羽場糀店との出会いを経て大好きになった秋田。夏には藤本さんとともにミシマ社の社長三島さんも連れて五城目の福禄寿(一白水成)へ。そして冬にはチームのんびりのヤブちゃんと八森のハタハタフィーバーの現場へ。
五城目のうっしーこと丑田くん、ANDONのトラ男や福禄寿の康衛さんたち、秋田のみんなは本当にタフで根気強くてリスペクトするしかない…!
少子高齢化が極まった秋田で起きている「辺境から生まれるイノベーション」の行方は、秋にミシマ社の雑誌『ちゃぶ台』の発酵特集につながりました。来年も秋田を深掘るぞ〜!
【近畿】己の関西気質に気づく2018年…!
いやあ今年は関西でよく遊んだ!毎月のように大阪・京都・神戸・奈良を訪ねてイベントやったり取材受けたりフィールドワークしたり散歩したり飲み会したり…と満喫しました。
特に思い出深いのは、NHKでも放映された守口・富田の発酵ぶらり旅。おじさん達がアポ無しで謎の漬物を探して奔走する最高に意味不明でエキサイティングな一日でした。上の写真はその旅の日の夜に開催された心斎橋スタンダードブックストアのイベントにて。
夏に春日大社、冬に正暦寺の森歩きをした奈良も最高!菩提酛の起源や奈良漬の現場を訪ねるツアーが最高に盛り上がりました。奈良の「しっかり弥生のステップを踏んできた感」が僕のホームである、縄文オンリーの山梨とは違いすぎて新鮮でした。
そういや年始に柿次郎さんと柳下さんと一緒に、神戸の藤本さん参りにいったな。
よく考えたら今年のやってこ!旅地獄はこの時から始まったのかもしれない…!汗
【北欧・バルト三国】国とは何かを再認識
2月に訪れたフィンランドとエストニア、リトアニア。とりわけエストニア、リトアニアは人口100万人ぐらいの超小国。ロシアやポーランド、EUの大国との関係のバランスを取りながら未来への舵取りをしていくそのフットワークの軽さとしたたかさに「国とは何か?」を考え込んでしまいました。
翻って僕の住む日本は、21世紀のタイミングにおいて大きすぎるのかもしれない。拡大再生産モデルが崩れて情報と人の移動のハードルが低くなったこの時代「サイズが大きい」というのは国家にとってデメリットの方が大きくなったのでは?
行く先々で地元の人たちと話し込みながら、そんなことを考えていました(ちなみに上の写真はクラフトコンブチャメーカーのKUMAの二人。発酵好きに国境は関係なし)
【青ヶ島】日本人はどのようにサバイブしてきたのか?
今年最大の衝撃は、青ヶ島への旅。伊豆諸島と小笠原諸島のあいだにある人口150人の孤島に、日本のルーツの最深部が残っています。50年前まで年に2〜3回しか定期船が来なかった辺境中の辺境に摩訶不思議な発酵文化や信仰が発達。
麦と芋と牛の農業サイクル、神官と巫女が織りなす独自の神事。限られたものでなんでもつくるブリコラージュ精神。青ヶ島に滞在したことで、来年のヒカリエの企画の背骨が定まってきた感があります。
青ヶ島のみなさま、本当にありがとう…!
2019年は何をする?
それでは最後に来年の活動について。
来年はこんなことするぞ!
▶渋谷ヒカリエで展覧会やります
今年〜来年にかけてのメインプロジェクトはこれ!4/16〜7/8の二ヶ月半、渋谷ヒカリエ8階のd47 MUSEUMで、現在死にそうになりながらまわっている47都道府県の発酵ツーリズムの模様が展覧会になります。
2月までに47都道府県をまわりきって、3〜4月に展示準備。そして会期中はたぶん20回以上の関連イベントを開催している予定。つまり来年の前半はひたすらこのプロジェクトに打ち込むことになります。死なずにやり遂げるぞ〜!!
▶『発酵文化人類学』のヨーロッパツアーに出ます
無事展覧会がスタートしたら、今度は『発酵文化人類学』のヨーロッパツアーに出ます。フランス・パリを皮切りにイギリス、ハンガリーやチェコをはじめとした東欧をまわります。それまでに翻訳をなんとかせなばならない…!
ちなみに中国語(本土)も出るので、アジアでもツアーできるといいなあ…。
▶ミシマ社から本出します(たぶん)
去年から今年にかけて連載していたミシマ社のWEBマガジンの連載が本になる予定、なんですけど『発酵文化人類学』を世に出してしまったことで上がりまくったクオリティのハードルを越えることができるのだろうか…めちゃ不安だぜ!ちなみに秋頃に刊行予定なんだけど、大丈夫かしら?汗
▶山に籠もって菌になります
展覧会とツアー終わったら、ここ数年の旅三昧の生活を見直して、基本ホームの山梨から動かないライフスタイルに移行します。移行するよ。移行するってば!
・【新規案件停止のお知らせ2017】僕は山に籠もって菌になります。
そもそも僕そんなに社交的じゃないし、自己顕示欲もないし。愛する微生物の世界に没頭して研究三昧の日々を送りたい。どんどん高くなる積読の山を解消したいし、発酵食品の仕込みとか大好きな料理もしたい。毎日違う部屋で起きて「あれ、ここどこだっけ?」「てかなんでここにいるんだっけ?」「だいたい僕なにやってんの?」「そもそも僕ってだれ?」と頭がバグり続ける日々に一区切りつけたい。
落ち着いて暮らしたい〜!!
来年からラボが稼働します
「そんなこと言ったって、どうせまた仕事しまくりの旅しまくりなんでしょ?」
と薄ら笑いを浮かべながら僕に用事を言いつけようとしているそこの諸兄姉!
僕は本気だ。その証拠に来年からいよいよセルフビルドの発酵ラボが稼働するのだよ。
いよいよ研究室っぽくなってきたセルフビルド発酵ラボ。土地の造成から基礎打ち、断熱から太陽光パネルまで色んな専門家の力を借りながら自力でつくっていきます。どこからも予算もらわず、山の中にDIYでしかもオフグリッドのバイオラボ建設という無謀な計画がだんだん形になってきました。嬉しいぜ! pic.twitter.com/4M0ZRzNHPY
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) September 12, 2018
ちなみにラボの敷地には、今年の開高健ノンフィクション賞を受賞して時の人となっている川内有緒さんも小屋を建てています。
イエーイ!晴れた。小屋の建前なう。 pic.twitter.com/Z47j6LQaJZ
— 川内有緒 新刊「空をゆく巨人」 (@ArioKawauchi) October 27, 2018
発酵ラボと川内さんのDIY小屋が並んでイケてるランドスケープが出現予定。
アリオさん @ArioKawauchi の小屋(左)と僕のラボ(右)。二棟はウッドデッキで連結されます。 pic.twitter.com/Myw0ETqzy3
— 小倉ヒラク | Hiraku Ogura (@o_hiraku) November 19, 2018
来年もさらに発酵デザイナーとして高みを目指し、深く潜るぞ…!