先月7月23と26日にお台場の科学未来館で開催されたALIFE(人工生命学会)の国際学会の関連プログラムで、子供向けワークショップを企画。あわせて微生物のはたらきを可視化するコンピューターキットを東大池上高志研究室と共同で開発しました。
プロデュース:ALIFE Lab. 小倉ヒラク
クリエイティブディレクション、仕様設計:小倉ヒラク&東大池上研究室
設計:丸山 典宏、升森 敦士
プロジェクト期間:2018.4〜2018.7
プロジェクトにあたって考えたこと
子どもたちと一緒に見えない生命の秘密に迫る!
▶微生物学とコンピューターサイエンスの融合にチャレンジ!
ふだん発酵という比較的古典的な生物工学の領域で活動しているのですが、今回は複雑系科学の最先端であるALIFE学会と一緒に企画ということで、微生物学の領域とコンピューターサイエンスを接続するような仕掛けを考えました。
▶微生物の働きをデータで可視化するキットの開発
そこでALIFEの日本におけるリーダーである東大の池上高志さんの研究室とコラボしてスペシャルキットを開発することに。微生物学の古典的技術である、シャーレ(微生物を自然環境から分離して培養する器)にデジタルセンサーを詰め込めるだけ詰め込んで、微生物が増殖・代謝していく様子をセンシングして、その経過をコンピューターにデータとして出力。微生物の働きがデジタルデータとして可視化できる仕組みをデザインしました。搭載したセンサーとしては、
・温度・湿度・気圧センサー
・各種ガス感知センサー(ブタンやメタン、硫化水素やエタノール等いっぱい)
・カメラセンサー
・臭い検知センサー
・二酸化炭素センサー
など。直径10cm弱の円形基盤のなかに可能なかぎりのセンサーを搭載して検知できそうなデータをできるかぎり取りまくることを目指しました。
池上高志さんの提唱する「Massive Data Flow」にならって、下手に仮説立てる前に取れそうなデータを全部取るラーメン全部盛りスタイルで開発したZE!
▶見えない生命のはたらきを実践的にイメージする
実際のワークショップではこのキットを使って子どもたちと微生物のはたらきをイメージできるような実践的なプログラムを実施しました。
屋外環境から微生物がたくさん棲んでいそうなものを採集。鳥の羽や葉っぱ、タバコの吸い殻(!)など、想像力を膨らませながら微生物を捕獲します。
こんな感じでシャーレに採集してきた素材をセットし、計測開始。
三日間かけて微生物を培養していきます。写真はタバコの吸い殻をシャーレで培養したもの。ものすごくたくさんのカビや酵母類で腐海状態に。
微生物が育つ3日間の経過を計測したデータを、今回のために開発したデータビジュアライズアプリを使ってみんなでシェア。写真中央の池上研丸山さんが子どもたちにレクチャー。画面中央のグラフが代謝データ、右側の画像が微生物の発生パターン。数値と画像イメージを時系列に並べて微生物がどんなふうに増殖し、増殖する時にどんな物質を出しているのかを可視化します。みんなで微生物になったつもりデータの読み解きをするのがめちゃ楽しい!
シャーレ以外にも、ヨーグルトや麹など実際の発酵食品の仕込みを通して、微生物のはたらきが身近な暮らしに関係あることも五感を使って学んでいきました。子どもたちみんな大はしゃぎで嬉しかったぜ。
やってみてわかったことと今後のこと
子どもたちが考えた微生物計測システムのイラスト
▶複雑系のエコシステムがイメージできる!?
実験や計測を繰り返すうちに、データを通して「異なる微生物たちがエコシステムをつくりだしていくプロセス」がイメージできるようになってくるのが一番の驚きでした。酵母や乳酸菌などの単体の微生物の計測だけでも面白いのですが、一番面白いのが野生環境にいる多種多様な微生物の生態を計測する時。
異なる菌が増殖していくと、まるでシムシティのように棲み分けがなされ、それぞれの棲み分けの境界線で面白い化学反応が起こったりするのがデータのパターンで見える。そうすると「意識を持たないはずの微生物に社会性がある」ということがイメージできるんですね。プロジェクトを始める時に僕が漠然とやりたかったことはこれなのか!という驚きがありました。
▶さらにアップデートしてみんなが使える教材&ワークショッププログラムに!
子どもたちにもALIFEのメンバーにも好評だったので、今回のプロトタイプを発展させて、みんなが手軽に使えるキット&ワークショッププログラムとしてアップデートしたいと思います。まだまだ技術的な不備があったり、アプリの開発が追いついていないので今年いっぱい実験と再設計を繰り返してパッケージ化していくぜ。
で、次のフェーズとしては、計測データをたくさん蓄積して、微生物の発生パターン=エコシステムの発生パターンを可視化していくことができればいいなと思っています。
プロジェクトの今後の詳細についてはまた僕のブログでお知らせしますのでお楽しみに!
Photo: Tatsuya Yokota, PLTSc for kids