「そういう話もある」と「確かにそうなっている」のあいだ。

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ちょっと悩み聞いてください。

さいきん「原稿確認の手間かかりすぎ問題」が日々の仕事を圧迫していて根本的な打開策を考えないとヤバい状態になっています(ここ一ヶ月原稿確認の依頼が大渋滞を起こして各所に迷惑かけまくってました)。

『発酵文化人類学』の出版以降、以前よりも専門的なトピックスに関する取材が増えてきました。とりわけブダペストの学会参加以降強く興味を持っているマイクロバイオーム(体内微生物叢)と人間の代謝機能(消化機能とか免疫系)に関して。生物学や医学領域における新トピックスが「客観的な真実とは何か問題」を引き起こしている〜!

その結果「原稿確認の手間かかりすぎ問題」が勃発している。くくく、苦しい…!

エビデンスとはそもそも何か問題

でね。そういうマイクロバイオームと人間の代謝機能に関わるトピックスについて話すと、掲載先の編集部から「エビデンス示してください」という話になる、なんだけどこの「エビデンス」って、新しい研究領域において全方位向けに担保するの激ムズカしい…!

たとえば「この研究者の論文にこう書いてあるので事実ですよ」とできるほど世の中甘くない。同トピックスの他の論文を読むと反対の主張が書いてあったりする。AとBの2つのどちらのほうが正しいのか?被引用回数や著者や発表媒体の知名度で判断してよいのか?という問題になり、妥当性を確かめるためにさらに他の資料や他トピックスの資料を読み込んでようやく「確かにこんな感じになっていると言えそうですぞ」とお返事できる(それでもなお定説からは遠い)。

つまりだな。
「こういう話もあるよ」と「確かにそうなっている」の間には大きな溝があるということなのであるよ。編集部のいう「エビデンス」とはこの溝を埋めるけっこう手間かかる作業のすえに提出できるものなんだね(←真面目にやれば)。

「何そんな当たり前のこと言ってるの?研究者ならみんなやることでしょ?」

もちろん。だからそういうのやりたくない!という話ではなくて。
問題は「確認する作業の増大で仕事ができなくなる」ということなのだよ。

WEBメディアのインタビューは基本受けない方針にします

「不確かな情報を出すのは心配なのでエビデンスプリーズ!」という媒体側の気持ちは非常によくわかる。僕自身もそれなりに裏付けのあることを言いたい。

しかし!資料を束ねて比較していくのはそれなりに手間かかるので旅ばっかりしている身としては「そのうちやるから気長に待っててね」としか言えねえ…!すまない。

生物学、とりわけ僕が関わっている微生物の領域は日進月歩で常識がアップデートされている。10年前に常識とされていたことが通用しなくなり、今日奇抜だと思われていた仮説が数年で定説に置き換わったりする。「何をもって間違いない真実とするのか」を全方位で担保するのはなかなか難しいんです。

つまり、そもそも人様のメディアで「こういう話もありますよ」ということを喋ってしまう自分が悪い。これはお調子者な僕の自業自得!自業自得のツケが回ってきてる〜!!!

ということで。
WEBメディアからのインタビューは基本的に受けない方針にさせてください。
(文字制限がないので「面白い話ぜんぶ載せよう」的な感じになってしまうので)

専門領域なので編集者に確認作業をしてもらうのも無理があると思うし、ディテール省くとつまらない記事になってしまうと思うので「最初からやらないことにしとく」というのが正しい判断なのではないかしら?

なので基本的には「自分自身で寄稿する」以外はしばらくWEBメディア上で僕の発言は掲載されることがないようにしたいと思います。

そもそも僕のブログ上で書けばよいではないか問題

そもそもだよ。
人様に言いたいことがあれば僕のブログで書けばよいわけだ。
(おかげさまで一月に多い時は10万近いPVがあるし)

僕のブログは僕という個人が運営しているから「僕という個人はこう思っていますよ」「僕という個人が面白いと思うこういう話を紹介しますよ」という建て付けでしょ。それで読む人のなかで異論があれば「ヒラク君はアヤしい奴だ」と思われるだけで他の人には迷惑かけない。

自分のなかで「これはいっけん突飛な話だからエビデンスを示そう」と思えばそうするし、「ま、そういうこともあるかもね」という話ならそういうニュアンスで出すし、それは自己責任で決めるのがいいわけです(手間的にも精神衛生的にも)。

あとね。WEBメディアだと寄稿文ではギャラが出るけどインタビュー掲載はギャラ出ない場合がほとんど。だから僕にとって原稿確認は「仕事じゃない」んだよね。だからやらなきゃいけない他の仕事が優先されて、しかも目下その仕事量がけっこう多いので確認が後回しになる。なんだけどメディア側は仕事だから「そのうち確認するので気長に待っててね〜」という僕からの返事に恐怖するしかない…!

これはお互いにとって不幸でしかない。
誰にも悪意はない。しかし手間と報酬が見合わない。だからやめとこうぜ!

結論。外部のメディアで忙しくておろそかになってたブログをもっとちゃんと更新することにします。言いたいことは、自分の場所で言おうっと。

いつか僕が「独学者の不気味の谷」を抜けて正真正銘立派な微生物学者になって僕という存在自体が「エビデンスという蒼き衣」をまとった時にまた会いましょう。

【追記1】「そういう話もあるよ」という事でもある程度裏付けのあることを言うようにしています。ただそれはまだ「定説or定説に近しい」ということとイコールじゃないんですね。

【追記2】紙のメディアの記事は文字数制限があって編集がしっかり入るので確認の手間が少ない。あと取材協力費としてギャラが出るので「仕事」になります。

【追記3】ヒラクさんの活動のPRになれば…という名目もわからなくないんだけど、僕いまのところメディア露出が身の丈超えて過剰になってしまっているのでしばらく静かにしていたいデス。わがままでごめんね。

【追記4】考えるに、ギャラとは「拘束力」とイコールですね。

【追記5】一切原稿確認をしないことで「僕の言っていることは全て虚妄である」という建て付けをつくることも考えたが、誰も幸せにならないのでやめることにする。

【追記6】そもそも問い合わせフォーム廃止したのになぜこんな状況になっているのでしょうか?テレパシー使い手がこんなにたくさんいることは予期できなかったぜ…!

・アイデアの捨て漬けと、次世代の「発酵読モ」の登場

【追記7】確認面倒くさそうなことは話さなければいいんじゃない?というツッコミも聞こえてくるが僕はすぐ話が横にそれるのでうっかりしゃべっちゃうんです。

【追記8】「テキトーな奴に思われたくない」という気持ちが人並みにある自分にビックリしました。

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