違和感を大事にしたい。

BLOG, ▶はたらくこと、生きること, ▶発酵文化人類学, ▷デザインを考える, ▷文化と科学

違和感を大事にしたい。

大事なことは始まった「後」ではなくて、始まる「前」に決まる。

「必然性のある出会い」は、縁やプロジェクトが始まった後にトラブルや行き違いが起きても挽回できる。

けれど「必然性のない出会い」は、始まった後にどれだけ気を使っても段取りを準備しても、あまり良くない結果を迎える。

「その出会いは必然かどうか」を測るモノサシは、「違和感」だ。

いっけん良さげなんだけど、なぜか小骨が喉に刺さったような違和感がある、という感覚。

前にもブログで書いたけど、必然の出会いは「最初の時点ではそれが必然かどうかわからない」という代物で、いらない出会いほどファーストインプレッションは「スゴい!面白い!話これから良いこといっぱいあるかも!」と期待を感じるものだったりする。

・運命の出会いについて

なんでこんな話をするかというとだな。

デザイナーの仕事は「炎上」が付きもの。20代半ばで独立して以降、たくさんの炎上を経験し、あんまり飲みたくない悔し涙を飲んだ(飲むなら美味しいお酒がいい)。

僕はメンタルが超弱いので、炎上すると胃痛で寝込んだりする。なのでプロジェクトが炎上しないようにプロジェクトマネジメントの方法論を学び、納期や予算が爆発しない段取り力をゲットした(たぶん)。

しかし炎上はなくならない。

予算や納期は爆発しなくても、人間関係や政治的いざこざが爆発したりする。

そしてたどり着いたのは「このプロジェクトをそもそもやるかどうか」というジャッジをしくじらない=炎上を防ぐ最善の手段であるという結論。

同時に悟ったのが「期待値のデカさで仕事を選んじゃいかん」ということだ。

「えっ、クリエイターたるもの仕事に未知のやりがいを求めるもんじゃないの?」

うん。そうかもしれないが、実はここには落とし穴がある。

世の中には「期待値を盛って人を釣る」というテクに長けた発注者が存在する。

「このプロジェクトにジョインするとあなたのキャリアがスケールかつアセンションしますよ」という話の運びがやたら上手な人がいる。

問わず語りで自分の持っている人脈とか海外の最新事情とかを弾丸のようにぶつけてくるプロデューサーに会ったら警戒しなければいけない。本人は「まず最初にお互いの世界観を確認するために」というつもりなのだが、実際は「マウンティング」であり「釣り」なのであるよ。

「業界の第一線で活躍する◯◯さんが参加するプロジェクトで、海外の□□トレンドを先取りしているし、△△のバックアップもついていますし、参加しないほうが損じゃないですか?」

という誘いに、20代独立間もないヒラクはめちゃワクワクし、そしてその後幾度となく辛酸を舐めたのであるよ。

実はこのワクワク感の裏側には「違和感」があった。

(山にこもって菌と化した発酵デザイナーにはこのミクロな「違和感」を見逃さない)

大事なのは舞台の大小や社会的ステータスではなく「あなた個人が必要とされているか」だ。「釣り」のオファーの大半は、僕は「あるアイデンティティを持った個人」ではなく「パズルのピース」と見なされている。SEO対策をする時のように、「このキーワードが欲しいからこいつ呼んどこ」みたいな感じだ。

僕は、こういう発想でなされるプロジェクトが好きではない(ていうか痛い目みた)。

僕が好きなのは「あなたと話したいんです」「あなたと一緒につくりたいんです」という、素朴かつ直球なオファーだ。

生身の人と人とが縁を結ぶことが「出会い」だ。

周辺にどんな高スペックなサムシングがくっついていても「人と人が」という本質がなければ、そこに必然性はない(だって、僕じゃなくてもいいんだもん)。

Pocket





Published by

小倉 ヒラク

発酵デザイナー。1983年、東京都生まれ。 「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちとプロジェクトを展開。下北沢「発酵デパートメント」オーナー。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など多数。