お味噌に見る食の多様性。シンプルな原理に無限のバリエーション
『発酵文化人類学』の出版記念企画として、雑誌ソトコトの連載バックナンバーを無料公開! なぜそんなことをするかというと、書籍版は過去の連載記事を全部無視した「完全書きおろしREMIX」だからなのだ!
▶お味噌に見る、食の多様性。シンプルな原理に無限のバリエーション | ソトコト2015年9月号掲載
毎日の食卓の大定番といえば「お味噌汁」。当たり前すぎて意識にのぼらないこの『お味噌』ですが、実はとんでもない可能性を秘めたミラクルな存在。そんなお味噌を今回は徹底解剖するぜ。よろしく!
お味噌は「和食の多様性」の象徴!
「和食」と一口に言っても高級懐石から家庭料理、日本列島の北と南では食材や調理法に幅があります。そんな「和食の多様性」の象徴が、何を隠そうお味噌。数多ある食材のなかから、近年の「食の均質化」の荒波をくぐりぬけ、世代を超えて継承されてきた「郷土の味」の牙城を守り続けているその秘密を、アナタはご存知だろうか!?
シンプルゆえに無限のバリエーション
お味噌の定義はとてもシンプル。
「煮大豆に麹(こうじ)をくっつけて発酵させた固形ペースト」。後はオールフリーです。
この「シンプルさ」が生み出す多様性は以下の通り。
【原料】ベースとなる大豆と、味を整え腐敗を防ぐ塩は全国共通ですが、麹の原料が地域によって違います。東日本は米の麹(米味噌)、九州や四国では大麦の麹(麦味噌)、東海や関西の一部では大豆をそのまま麹(豆味噌)にします。
【比率】次に麹と塩の量のバランス。
・米味噌&豆味噌=麹少なめ/塩多め。
・麦味噌=麹多め/塩少なめ。
【期間】上記の組み合わせ+発酵させる期間の掛けあわせで味のバリエーションが生まれます。
お味噌のバリエーション早わかり!
それでは味の解説。
【米味噌】東北の米どころ、信州味噌や仙台味噌が有名。
寒い地域で塩を多くしてゆっくり発酵させるので、辛さと塩気を強く感じます。スーパーで売っているお味噌の大半はこれ。
【麦味噌】お米があまりとれない九州で発達。
暖かい気候で麹多めだと発酵が速く進み、甘味と旨味の強い味になります。具だくさんのお味噌汁がおいしい。
【豆味噌】実は日本の味噌の原型。愛知の八丁味噌が有名。
豆に直接菌を付け、3年間かけて真っ黒に発酵させていきます。味はなんというか…砂糖の入ってない濃縮ココアのような、怒涛のようにコク味が押し寄せてくる味です。
まだまだあるぞ!お味噌の無限の個性
上記3つが基本ですが、日本各地を歩いていると不思議なお味噌に出会います。例えば…
【西京味噌(関西)】米味噌と原料は同じですが、麹の量二倍、塩の量1/2で、50℃以上で1〜2日発酵させて出来上がり!というせっかちなお味噌。あんこのようにあまーい味。お雑煮や和菓子に使います。
【蘇鉄味噌(沖縄)】毒のある蘇鉄を発酵によって解毒して味噌にするというパンクな変わり種。豚肉と混ぜて食べるといかにも沖縄フレーバー。
【味噌玉(長野)】僕が知るかぎり最高峰の変わり種。涼しい崖の下で円筒形にこねた大豆に二週間〜1ヶ月かけて菌をつけ、ペルシャ猫のようにモコモコにしてつくる掟破り味噌。チーズのような味わい。 ジャズバンドのようにシンプルな編成で無限のハーモニーを奏でる味噌というカルチャー、痺れるね(サッチモとマイルスの違いを見よ!)。
これはひとえに、各地方のお母さんたちが、その土地にあった「手前味噌」を作り続けた恩恵によるもの。 お味噌は食のDNAを運ぶ「ノアの方舟」なのだ!
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