発酵するとなぜ腐らない?菌の拮抗作用のフシギ。
『発酵文化人類学』の出版記念企画として、雑誌ソトコトの連載バックナンバーを無料公開! なぜそんなことをするかというと、書籍版は過去の連載記事を全部無視した「完全書きおろしREMIX」だからなのだ!
▶発酵するとなぜ腐らない?菌の拮抗作用のフシギ。 | ソトコト2016年1月号掲載
突然質問です。あなたは50年前の水を一億円で買いますか?
「ふざけんな!むしろ一億もらっても飲まないよ」てな話ですよね。
さてではワインならどうでしょう?ボルドーの50年ヴィンテージワイン、オークションで一億円!ありそうな話ですよね。
ということで。今日のテーマは「発酵食品の保存性」についてお届けします。
いってみよう!
拮抗作用=女性専用車両
なぜワインは50年間も腐らずに保存できるのか?その理由は「菌の拮抗作用」。ブドウ汁の中で発酵菌が一定量まで繁殖すると、雑菌を締めだしてしまうのです。えーとね、例えて言うなら「女性専用車両」をイメージしてください。車両にぎっしり女の人が乗っていると、男の人は入ってこれないでしょ。「あ、ここ乗ったらいかんとこや」って。
で、例の一億円ワインってのは「50年間キープオン・女性車両」なワケよ。
(ちなみに発酵菌=女性、雑菌=男性ってのは便宜上のモノの例えだからね。必ずしも現実世界に当てはまるわけじゃないのでそのへんお察しください)
菌が雑菌を抑える物質をつくる
もうちょっと深い解説。実際は50年間菌が生きているということではありません。ワインが瓶詰めされる時には発酵が終わって、菌の動きは止まっています。
なのですが、ワインの中で繁殖した酵母がつくりだした様々な物質が雑菌の繁殖を抑えこむのです。ワインの発酵が終わると12%のアルコール分がつくられますが、まずこれが雑菌に対するバリアになります。次に有機酸がpH値を酸性に傾けます(だいたいpH3.0〜4.0)。胃酸が食べたものの殺菌をするのと同じように、酵母がつくり出した酸で雑菌が寄り付きません。これはワインだけでなく、お味噌や醤油にも起こっている反応です。さらにタンニンやカテキン等の成分(ポリフェノール成分などと呼ばれたりします)にも殺菌効果があり、二重三重のバリアを張っているわけです。
「発酵菌が雑菌をやっつけている」というような想像をしがちですが、正確には「菌の出す酵素や酸が雑菌を抑え込んでいる」ということなのです。
えっ、わかりにくいって?そうですね、「ジョン・レノンとイマジンの違い」のようなものだと思ってください。ジョン・レノンがいなくなっても、イマジンは人々に歌い継がれ、ラブ&ピースの思想が暴力を抑え込んでいる…とイマジンしてごらん。
「腐らない」をテツガクする
発酵における「腐らない」という概念は、物質が変化しないということではありません。
腐敗の原因となる雑菌が入ってこないので腐らない。発酵し続ける限り腐敗しないのです。腐りにくいコンビニのお弁当には、物質の変化を防ぐ色々な処置がされているのですが、それは発酵における「腐らない」ということとは違うのですね。
現代文化は、ものを腐らせないために「時間を止める」という方法を選び、発酵文化は菌の力を活かし「時間を見方につける」という方法を選んだのかもしれません。僕も時間をかけていい感じに発酵・熟成していく人生を選びたいもんです。
【追記】「発酵の力で腐らない」なんて言っといてなんですが、ワインが腐らないのは醸造中に添加する亜硫酸塩の効果も無視できません。これを入れない無添加ワインは、醸造家の腕がしっかりしていないと時間が経つと腐ります。
ちなみに僕が飲んだ最高のヴィンテージワインは、戦前に瓶詰めされたハンガリーの白ワイン。酸味が完璧に消失してコニャックのような味になっておりました。美味しかったなあ…
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