【発酵デザイン入門】発酵で社会をよりよく!未来の科学のリテラシーを考えるDay1
微生物の世界と出会うことで、人類の超進化が始まった…!
発酵の概念を拡張し、暮らしにまつわるバイオテクノロジーを包括的に学ぶgreenzの講座『発酵デザイン入門』初回の講座レポートをお届けしまーす。
受講者の振り返り用と、都合があわず参加できなかったみんなにお届けします。
まず講座のスタンスはこんな感じ
今回の講座のテーマは、「愛」。何に対する愛かというと…
目指せ金八先生!な愛にあふれた講座にしたいのがまず第一。
それ意外にも、この講座ではかなり広い領域を扱うので、ある領域について専門知識の多寡が出てきてしまうし、僕自身も専門でないことを話すことになる。そこで必要なのが…
この3つ。「◯◯が正しい!」とか「あなたは△△も知らないの?」というセクショナリズムに陥らないために、まずはお互いが「リスペクト」によってコミュニケーションする必要があると僕は思うんだね。
以前にも雑誌スペクテーター『発酵のひみつ』で取り上げた「発酵をめぐるムーブメントの見取り図」。改めて見てみるとめちゃくちゃ広い領域に波及していることがわかります。
この講座のスタンスを定義するならばこんな感じ。
愛にあふれ、ディープで、そして包括的であること。
「包括的であること」は一般的に学会では好まれない。アカデミズムの外側にいる僕たちだから、そしてテクノロジーが僕たちの未来を大きく左右するからこそ、ホリスティックに物事を見なければいけないのであるよ(それは具体的にどういうことなのかは後半でわかる)。
そのためには、僕が一方的に教えるのではなく、専門性をもった様々なバックボーンをもった参加者たちが「学び合いながら」テクノロジーを理解していく必要があるのだな。
チェックイン:微生物を探しに行こう!
心構えをシェアしたところで、みんなで外に出てフィールドワーク。
木の皮や葉っぱ、植木鉢にたまった水たまり、芝生の土の上やコンクリートの表面など「菌がいそうな場所」をみんなで予想してつかまえていきます。
これは菌をつかまえる虫かごで、シャーレといいます。
ここに菌をおびきよせるエサ(←培地といいます)を入れて、シャーレの中で菌を増殖させて観察するわけです。ちなみに培地ももちろんDIY(買うとけっこう高い)。
Day 1のみんなへのおみやげ。スマホに装着する小型顕微鏡。50倍くらいまでズームできるので、植物の表面やカビのコロニーぐらいまでだったら観察できます。
ちょっとしたガジェットなんだけど、こういうのテンション上がるんだよね。
微生物の世界へようこそ
ということで最初のセクション。
まずは専門的な知識は抜きに、人間と微生物の世界との出会いを系譜的に見ていきます。
ちなみにこの図は、僕のワークショップでおなじみの「微生物から見た生物の系統樹」。
講座を修了するとこの図がなんとなく解読できるようになる予定。
レーベンフック=顕微鏡大好きおじさん
パスツール=モノを腐らせたくないおじさん
コッホ=病原菌やっつけたいおじさん
ヴィノグラドスキー=ヘンな菌見つけおじさん
ヘンな菌の例:鉄細菌、硫黄細菌など。コイツらの何がヘンかは、Day3で判明する…!
日本の発酵大好きおじさんや、
イギリスのDNAおじさんも紹介。
最終日には、みんなでDNAの模型を組み立てながら構造を理解したいと思っています。
顕微鏡大好きおじさんが切り拓いた微生物学が、20世紀以降の科学の基礎になっているよという図。こういう乱暴な分類をすると先生から怒られそうですが、発酵デザイナーはそもそも邪道の権化なので気にしない( ー`дー´)キリッ
そして全5回のマイルストーン。
Day 3あたりから何かスゴいことになっていきます。
「細胞と代謝の基礎を理解する」「健康と免疫を関係を知る」ぐらいのディープなところまでたどり着くと、発酵現象の説明に説得力が生まれてくるんだよ。
科学のリテラシーを考える
後半は、微生物の世界からいったん離れて「現代の科学の大課題」をこれまた系譜的に考えていきます。
日本の戦後は「科学」と「デモクラシー」が理想となり、進歩=良いことという構図で社会が動いています。プレゼン右の大阪万博のテーマは「人類の進歩と調和」でした。今だったらこんなコンセプトは掲げられないねえ。
しかし突きつけられる疑問符。
オゾン層破壊の事実は、フロンガスが応用されるようになって数十年もして判明したように、科学者自体もそのリスクに気づけないまま新たなテクノロジーが新たな産業が生み出してしまう。
科学者「いやぁ、僕たちもよくわからないんだよね〜。テヘペロ☆」
すると当然出てくるのが…
科学の進歩に対するアンチテーゼ。
しかし「自然に回帰しよう」あるいは「ローカルで自足しよう」という呼びかけだけでは解決できない問題がたくさんある。そこで出てくる新局面が…
テクノロジーに対する関係性のイノベーション。
政府や大企業や専門機関が決定したことを、フツーの人に「どうぞご理解ください」とゴリ押しする「トップダウン型」ではリスクが大きすぎる。
いまや科学は政治と切り離せない。
「科学の純粋/中立性」は幻想であって「で、それ何に使うのよ?」という問いかけが僕たち自身から生まれてくるような仕組みをつくらなければいけない!
…という課題感は別に僕のアイデアではなく、ヨーロッパを中心にめちゃ議論&試行錯誤されている「科学の大課題」だったりする。
とはいえ、日本にも先例があってだな。
僕もデザインの仕事で関わっているCOOPでは、1970年代に食品の安全性に疑問を持つ街場の主婦のおばちゃんたちが主体となって最新の食品分析センターを自前でつくったりしている。
これはまさに「市民による科学のガバナンス(統治)」のラブリーな先行事例だと思うんだよね。
そして「欲しい未来は自分でつくる」。
このイラストはgreenzのコンセプトをまとめたポスター。
発酵デザイナーはDIY精神の化身であるからにして。自分たちでも身の丈スケールのテクノロジーをゲットして自分にフィットする暮らしをつくっていく必要もある。
これが僕がgreenzといっしょに講座をやる理由(greenzのみんなありがとー)
今まで「発酵で社会をよりよく」なんてコンセプト掲げたことなかったんだけど、greenzからナイスなキャッチコピーをもらったのでこれから発酵デザイナーの座右の銘とします。
(実は「発酵デザイナー」という肩書名も知人からのもらいものだったりする)
そんな新しい時代を迎えるにあたって、まず自分自身のマインドセットを変える必要がある。
僕なりに整理してみた結果、「!」思考から「?」思考へのシフトが大事かなと。
問題に対して反対や攻撃で「向かい合う」ことではなく、「隣り合って」いっしょに問いかけることがいいと僕は思っています。
・なぜKEYくんは「隣り合って」座るのか?『東京タラレバ娘』の倫子さんが不憫すぎる件
この講座でみんなに呼びかけたいのは、こういうこと。
相反する立場と考えを理解し、翻訳する。
講座名にも掲げた「発酵デザイン」を定義してみるならば、こんな感じ。
より良い暮らしのデザインだし、技術の良きコミュニケーターであり、科学をより良くいかすための運動家でもある。
つまりこういうこと。
D.H.D=どこまでも発酵が大好き!
みんなで発酵と微生物について深く学び、そして社会を発酵させるファシリテーション術も同時にゲットしようぜ!
ということで後半はみんなでディスカッション。
インド医学や社会教育のスペシャリスト、発酵料理家、建築家、バイオハッカーなど多士済々のメンバーが集まる、予想を斜めに上回る「脅威の生物多様性コミュニティ」なので、次回から参加者のみんなにも自分のプロジェクトを発表してもらうことにしました。
「ともに学び合う」「知識だけでなく、五感を使って学ぶ」そして「お互いをリスペクトする心持ちをゲットする」。みんなよろしくね。
photo by 高橋奈保子 ありがとー!
【追記】ちなみに実際の講座では濃密な技術解説やディスカッションが行われるわけなので、ものすごく情報量が濃い2.5時間となっています。このまとめを見て「ワタシも微生物界に参入したいー!」という方が数名出てきたら、来年に第二期を開講する予定。どうですか?