あまりに濃密すぎて、言葉が追いつかない…!
イギリスの外れの小さな町、トットネスの森のなかにある不思議な学校、シューマッハカレッジの滞在が終わってしばらく経ちます。あまりにも感じたこと、考えたことが多い2週間でした。
シューマッハ大学とは何ぞ?
ロンドンから西に電車で3時間いったところに、人口1万人弱のトットネスという小さな町があります。で、その町の近郊に広がるダーティントンの森のなかに、生徒数わずか50名のユニークすぎるカレッジ(大学院大学)がありまして、それがシューマッハカレッジ。
インド人の哲学者サティシュ・クマールさんが今から25年ほど前に創立し、経済や科学、農業や心理学などを横断的に身につける Holistic Science という学問体系を核にカリキュラムが組まれています。
ソーシャルデザインやローカルエコノミー、有機農業など、近年日本でも注目されている(そして僕がずっと関わっている)領域を体系化した先駆的な研究機関・コミュニティ。
去年の11月に仕事でトットネスに行った時にたまたま出会い、以来マネージャーと連絡を取るうちに「これは絶対行かねばならぬ…!」と確信したわけよ。
・【ヨーロッパ街歩き】eat drink sleep think. トットネスの森の中で深呼吸。
暮らしながら学びあう、ユニークなコンセプト
さて。今回僕が受講したのは、1週間の短期講座×2。
(もっと長い講座や、1年間のマスターコースもあります)
学校の敷地内にある寮に寝泊まりして、一週間朝から晩までカレッジで過ごすことになります。以下、シューマッハカレッジの特徴をざっくりノートしておくぜ。
▶受講者のバックグラウンド広すぎ!
まずビックリするのが、受講する人のバックグラウンドの多様性。
世界10カ国以上から受講者が集まり、下は18歳から上は60歳以上まで年齢もバラバラ。大学教授もいればヒッピーみたいなヤツもいるという広すぎるレンジ。
ずっとフリースクールに通ってきてもう既存の教育機関では学べない!という10代、大手コンサル会社でバリバリ働いてきたけど自分の人生がよくわからなくなった…というアラサーキャリア男女、NPOやNGOで国際支援をしてます!というおじちゃんおばちゃん、さらにはスコットランドの田舎で有機農業やってます、というおじいちゃんまで雑多すぎるバックグラウンドなのですが、基本的な志は共通なので、会ってすぐ仲良くなれるのがほんとに楽しい。
▶暮らしながら学ぶ
生徒はお客さんではなく、掃除や庭仕事、料理などの仕事を割り振られる。
で、これがすっっっごく楽しくてタメになるのね。カレッジの敷地内には、畑やハーブガーデン、コンポストや木工のアトリエなど、暮らしに関わる様々な施設があるのだけど、仕事をしながらその施設の仕組みを直に学ぶことができる。
ヒラク的にいけてたのが、校舎の中心にキッチンがあること。生徒や先生、スタッフがいつもキッチンに出入りして仕込みをしたり、世間話をしたりしている。
朝イチにとれた野菜がキッチンで調理され。ご飯を食べながら議論する。食べ終わったら皿洗いしながら授業や議論のトピックスを反芻したり、クラスの仲間の身の上話を聞いたり。
空き時間はマスターコースの生徒が自主的にやっている小屋づくりに参加したり、キッチンスタッフと料理教室を開いたりして身体を動かしながらアカデミックな議論をする。
シューマッハカレッジでは「頭でっかちは良くない」というコンセプトがあるようで、朝から晩までとにかく色んな仕事をしながら学ぶ仕組みになっている。
▶お互いに学び合う
ここでは、先生と生徒の距離がものすごく近い。しかも各国から色んな専門スキルを持っている人が集まっているので、自然と「学び合い」が起こる。
ベルギーの有機農家から自然農の方法論を。イギリスの鍛冶屋のおじちゃんから機械を使わない草刈りを。フィンランドのパントマイマーがいたら夜の集まりのときに舞台を用意し、日本の発酵の専門家がいたらキッチンでワークショップをやる(←僕のことね)。
ただインプットだけするのではなくて、教えられること、与えられることは惜しみなくシェアしあう。いつでも教える側と教えられる側が入れ替わる。
色んな文化圏から人が集まり、しかもオトナも多い環境だから必然性もあるし、刺激的で楽しい。
▶共感の時間、沈黙の時間をつくる
講座も生徒も面白いので、当然議論や世間話も盛り上がるのだけれど、授業のなかで必ず「沈黙の時間」が入る。言葉や情報を流れっぱなしにするのではなく、空白をつくり「言葉や感覚がその人なりに染みこんでいく時間」をつくる。シューマッハカレッジでは本質的なトピックスについての議論が多いので、この「染みこませる時間」はとても大事。
(ちなみに英語を母語としない僕みたいなヤツにとってはこの休憩時間はだいぶありがたかったこともメモしておく)
もうひとつ。「共感の時間」も大事にする。毎朝カレッジの全員で開くミーティングがあり、必ず詩を朗読したり、みんなで合唱したり、マッサージをし合ったりなど「お互いの距離を縮める時間」がある。感性や身体を使ったコミュニケーションを共有するなかで、いつの間にかコミュニティができていく(この流れは、自然で押し付けがましさが全くない)。
「学び」は知識だけではない。
暮らしの所作のひとつひとつ、感性や身体を触れ合わせること、そして土や水と向き合うことから「知識」ではなく「知恵」が生まれる、という強固なコンセプトがある。
シンプルに、エレガントに
一週目めに受講したのは Elegant Simplicityというコース。
校長のサティシュさんと一緒に「いかにシンプルに、そしてエレガントに生きていけるか」ということを考えていくというスゴい内容だったのだが。笑
しかしこれが本当に素晴らしかった。
仕事や人間関係など、個人的なしがらみから始まって、環境や政治、紛争など大きな世界の問題に対してどのように向かい合えばいいのか。
テクノロジーや科学はどのようにしたら意味ある使いかたができるのか。近代の合理性に対してどのような代替案が出せるのか。
世界中から集まった老若男女が、ご飯つくったり散歩したり庭仕事しながらこういう事を語り合うという経験、読者の皆さまはしたことがあるだろうか(少なくとも僕はなかった)。
シューマッハカレッジにおいて素晴らしいのは、二週間という短い時間でも「ここが自分のホームだ」「自分を受け入れてくれる仲間がいる場所なんだ」と思えるような場所づくりであり、コミュニケーションの所作であり、25年のあいだ育まれてきたコミュニティなのであるよ。「ここがホームだ」と思えるためには、ただお客としてもてなされるのではなく、自分が何かの役割を持ち、疑問をぶつけ、人の人とのつながりのなかに飛び込んでいくことが必要だ。
実は僕、サティシュさんに聞いてもらいたいことがあった。
「科学は常に客観的でなければいけないが、ビジョンのないテクノロジーは何の意味があるのか?」という普段口にできないことを問いかけてみたらば、
「君はせっかく大学の研究者じゃないのだから、自分の手で意味のある科学をつくればいい。小さくはじめて、普通の人たちの役に立つことをやりなさい」
と満面の笑顔で答えてくれました。
はい、そうします。
シンプルかつエレガント。僕の人生の理想にします。
シューマッハカレッジはこんなとこ
のどかな田園のなかにあらわれる小さなカレッジ。
14世紀にできた建物を改修してカレッジに。良い佇まいだぜ。
校舎の中心にあるオープンキッチン。ここで色んなことを教わりました。
図書室。環境学/経済学/生物学/心理学/宗教・詩/デザイン・アート等個性的な分類の蔵書。
発酵棚もあった!
竹の棒を使ってストレッチしたり、
リラックスしつつ読書に励んだり。
ハーブガーデン。ここで摘んだハーブや花をそのままお茶にして飲んだり。
畑ではたらく生徒&ボランティア。
週末に大工仕事を手伝いました。土を捏ねて壁づくり。
鍛冶職人、ケヴィンさんに学ぶ「太極拳式草刈りメソッド」。機械より速く、美しかった…!
夕暮れ風景。散歩が気持ちいい。
みんなで遠足に行きました。途中から「歩きながら瞑想タイム」に入ります。
サティシュさんを囲んでキャンプファイヤー。
コースが終わる時にはみんなでサークルつくって再会を誓いました。
美しく生きること、異なるものを統合すること、多様性を認め合うこと、助け合うコミュニティをつくること。たくさんのことを学びました。ありがとう、シューマッハカレッジ。
また必ず戻ってくるよ。