パック酒は美味い!純米大吟醸だけが日本酒の快楽じゃない。

このブログの場を借りまして、日本酒好きの皆さまに言いたいことがあります。

パック酒(普通酒)を侮るなかれ!パック酒は美味い!!

こだわりの純米大吟醸ばっかり飲んでも、日本酒の真髄はわからない〜!!!

ということを最近身をもって知ったので改めてノートしておきたいと思います。

灘酒という高倉健的カッコ良さ

こないだイベントで兵庫に行ったときに地元の灘の酒を飲みまくりました。

近年のモダンな日本酒ブームのなかであんまりイメージ良くない灘の酒ですが、僕は好きです。菊正宗とか剣菱の昔気質の純米とか本醸造をビシっと燗つけて飲む快楽はハンパない。

なんなら普通種のパック酒でもいい。繰り返しますが灘酒最高

日本酒飲みなれてきた頃は「灘酒なんて飲まねえ〜!」と生意気言ってましたが、日本酒への愛が深まるとともに灘酒の老舗の酒の素晴らしさに目覚めていきました。喉にスッと落ちていかないクセのある辛味、ジョン・ボーナムのドラミングの如く絶妙にモタっとしている香り、これは灘が開発した最高の快楽。

灘酒の良さは例えてみるならサウナ。

なんでおじさん達が苦しげに熱風に蒸され、水風呂でカチコチになっているのか。

「そんなに風呂上がりのビールが美味いのか」

と、若者には理解できません。しかしサウナをバッチリキメるとビールよりも強烈な快楽があるわけなんですね。おじさんだけが知る快楽の秘密のドア、それが灘酒

灘酒がシブいのは「アルコールの辛味を隠そうとしない」点にあります。酵母がつくるアルコールはほんとは無味ですが、辛さを感じる味覚センサーを誤作動させます。最近のトレンドの酒は甘味によってこのアルコール特有の辛味を隠そうとする。でも灘酒は誤作動による「痛辛い幻覚」をむしろ強調します。

「酒を飲む」という行為は、突き詰めれば認知感覚のバグを楽しむ文化なわけです。

要は「ほんとはいらないもの」なわけで、灘酒はこのあたりの「いらんことするから楽しいんじゃい!」というスタンスは激カッコよく、同時にソフィティスケートされた味覚に慣れた世代にはとっつきにくい。つまり高倉健

普通酒の快楽

日本酒に興味ある若い人に言いたいのが「パック酒(普通酒)は美味い」ということ。

※普通酒って何?という方は↓のコラムを参照。

・日本酒に貴賎なし!磯の食堂でおじさんたちがウニ味噌と熱燗を囲む幸せを語ろうか。| アマノ食堂

先入観を取っ払って灘とか伏見の大手酒蔵がつくる普通酒パック酒をレンチンして燗酒で飲むと問答無用に美味いです。顆粒だしをバッチリ入れた昔気質の街場のラーメンが美味いのと同じように。

これは戦後のおじさん達を虜にした「快楽の究極系」なんすよ。

パック酒をレンチンする快楽は奥深い。超ピュアな純米大吟醸が現代アートだとすると、レンチンパック酒は初期スピルバーグのアクション映画みたいな楽しさがあります。

ヌーベルバーク好きなシネフィルがサム・ライミを偏愛するように日本酒ラバーはレンチンパック酒を愛でるのです。だって美味しいんだもん。

【追記1】灘と伏見の酒以外で美味しかった普通酒/本醸造は、宮城の浦霞、新潟の吉乃川、石川の菊姫のにごりと宗玄、長野の七笑、高知の酔鯨などなど(もちろん他にも日本津々浦々いっぱい美味い普通酒がある)。

【追記2】農大で学んだ僕の師匠、穂坂教授は古今東西の酵母と酒を知り尽くし、日本酒の品評会の審査員をやる立場にも関わらず一緒に飲みいくと普通酒をニコニコしながら飲んで「酒に貴賤なし!」と言い切る哲人でした。深ぇ…!

【追記3】ボディがしっかりしている普通酒はいったん60℃くらいまで温度上げてそこから40℃前後ぬる燗まで温度落ちた時が格別に美味しかったりします。

最初からぬる燗よりも、一度ガン!と上がった後にじわじわ冷えていくのが味がまろやかになります。通は一度熱した徳利を氷で急速冷却して再度燗にしたりするんだよね。

【追記4】夏に飲む燗酒は美味しい。冬だと「あったまる〜!」というほっこり感が先に来るけど、夏だとちゃんと味がわかります。夕涼みしながらうっすら汗かきながら夏燗酒も乙なものですよ。乙!

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小倉 ヒラク

発酵デザイナー。1983年、東京都生まれ。 「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちとプロジェクトを展開。下北沢「発酵デパートメント」オーナー。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など多数。