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種をまたいだ壮絶な卓球ラリー。微生物の世界は壮大すぎる

酵母

微生物の世界には、人間の存在すら変える何かスゴいものがある!
と直感して学びを深めていったら、それは本当だった。しかも、僕の直感のはるか斜め上な感じで。

僕の専門は、発酵学のなかの「カビを使った醸造技術(味噌とか酒とか)」。
で、お味噌のなかにいるカビ類や細菌類を本質的な意味で理解しようとすると、究極的には「地球における生命システムとは何か」というすさまじく壮大な領域に突入することになる。

というのもだな。
微生物たちが何かを分解したり合成したりするのは、水素や窒素や炭素など、エッセンシャルな物質を水や大気や空気に循環させていく「巨大なメカニズムの歯車」なのだね。
カビが糖やタンパク質を食べて分解するのは、まず自分が生き延びて子孫繁栄するための利己的な行為なのだけれど、同時にカビより小さなバクテリア類のエサを作り出しているという利他的な行為とも言える。

ではバクテリア類はそのエサを食べて何をしているんじゃろうか…?ということを掘り下げていくと、例えば空気中に漂っている窒素を固定したりしている。農業をやっている人ならわかると思うけど、土のなかに窒素がたまっていないと農作物は育たない。

太陽の光を浴びているだけではお腹がいっぱいにならない人間は、ある意味では「窒素を固定しているバクテリアにご飯を食べさせてもらっている」と言えるかもしれない。

このような視点で、今度は環境全体を見てみるとどうなるか。
地上にいる生物がどれぐらいのスピードで活動し、どれぐらいの量が生存できるのかは、空気中の酸素や二酸化炭素などの歩合で決まる。三億年くらい前は、大気中の酸素の量が30%くらいあったらしいので、今よりもデカいゴキブリや恐竜が高速で動き回っていた。30億年前は大気中に酸素がなかったので、地上に生物は存在していなかった。

それでは大気中の酸素は何が作り出しているのだろうか?
驚くべきことに、これも微生物なのであるよ。シアノバクテリアと呼ばれる藍藻類が今から20億年くらい前に太陽の光を使って酸素を大量生産しはじめた。

「えっ、でも植物も酸素つくってるじゃん。あれは何なの?」

中学で習った、植物のなかにある「葉緑体」というものを覚えているだろうか?あれも実はシアノバクテリアの一種なのであるよ。一本の草木のなかにある何億何兆という細胞のなかで、光合成する微生物が同じく何億何兆と活動している。そういう意味で植物は、シアノバクテリアの巨大なメガロポリスであると言える。

植物だけじゃない。
僕たち人間を含む動物類の細胞のなかにも微生物が住んでいる。それをミトコンドリアと言う。このミトコンドリアは宿主とは違うDNAセットを持っていて、シアノバクテリアが生産した酸素を食べてATPというエネルギーをつくりだし、それを宿主=僕たちに「お駄賃」としてあげているのであるよ(このあたりの詳細は『こうじ講座アドバンスド』で解説した)。

この驚くべき事実を踏まえると、植物と動物の関係性というのは、シアノバクテリアとミトコンドリアが延々と卓球のラリーを続けるための「媒介」のようなものだとも思えてしまう。

この辺りが、ここ最近かなり深くまで理解できた微生物世界のメカニズム。
さらにこの先を理解するためには、どうやら「海の微生物の生態系」の世界に参入する必要があるらしい(海洋微生物学という領域があるんだってさ)。僕たちが住んでいる陸上の生物の生殺与奪を握っているのは、海のなかの微生物なのであるよ(まだ詳しく突っ込んでないからわからないけど、)。

このように、微生物の世界はとんでもないフロンティアだ。ちょっと前に、

と鳥井くんがコメントくれていて「大げさだなあ」と思ったんだけど、前言撤回、大げさじゃないです。ていうか多分、鳥井くんが思っているよりもさらにスゴい世界が僕の目の前には広がっている(広がっているとか言っても、1万分の1ミリとかの大きさだけどね)。

 

【追記】このように深淵な微生物の世界に入ると、日常の散文的思考は通用しなくなる。そこで人が取るモードはおもに2つ。「スピリチュアル思考」と「科学的思考」だ。どっちにもそれぞれ真理があると思われるのでどっちを選んでも好みだとは思うけど、僕の好みは後者。

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