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無為の時間が未来を養う。「ガードレール飲み」と「馬場歩き」

こないだ良い光景を見た。
渋谷駅のモヤイ像のすぐ横、夕方日の落ちる頃の、大学生くらいの男子二人がガードレールに座って楽しそうに缶チューハイを飲んでいた。

いいなあ。
僕、発酵の研究家だしいいオトナだから、お酒飲むためだけにわざわざ地方行って、居酒屋のカウンターで割と高い純米酒とかワインとか飲んで「うむ、これは…」とかエラそうなこと言ってるわけなんですけど。お酒に限らず「おいしい」「楽しい」の原点は、「どんなシチュエーションで」「どんなヤツと」「どんな心持ちで」味わうかにあるわけでしょ。
「すげー忙しい!」「〆切に追われて汗」「最近肩こりがひどいんです」みたいな状況でいくら上等なお酒飲んだって、美味しくないよね。

話は変わるが、1990年代にデビッド・コークさんという音楽家がEMI(エミー)という人工知能を開発し、バッハ風の楽曲をジェネレートしてコンサートをおこなった。コークさん作曲という触れ込みで演奏したみたら大好評を博し、事後に「実は人工知能でした」とカミングアウトしたら一転して「ぜんぜん良くなかった」というレビューが溢れたらしい。

その後、同じコンサートで「僕が作曲しました」「マシーンが作曲しました」という二枚舌を使って聴衆の反応をABテストを行ってみたうえで、コークさんは人間の感性についての達観を得たらしい。「優れた表現はアルゴリズム化できる」というのがまず一つ。そして「何が優れた表現かをジャッジする人間の感性はアルゴリズム化できない」というのがもう一つ。

この2つのロジックは相反しているが、なぜか「ま、そんなもんかもね」と納得できる。
つまりさ、「これ超いい!」って思う気持は気まぐれなんだけど、誰かが「超いい!」と思ったものは周りに伝播してパターン化する(だからジェネレートできる)、ってことでしょ。

多くの人が「超いい!」とするものは分析してパターン化できる。
ところが、ある個人がある瞬間になぜか「超いいかも!」と感じることについては予測も分析もできない。それは偶発的で、個的かつ主観的でありながら、その本人にとっては圧倒的なリアリティを持っている。

仲良い男子がガードレールに座って飲む缶チューハイと、疲弊したおっさんが居酒屋のカウンターで飲む吟醸酒の価値の質は比較も分析もパターン化できない。ただ各々の「酒って、しみじみうめえな〜」という実感があるのみであるよ。

そういえば、僕が早稲田大学に通っている頃「馬場歩き」と呼ばれる習慣があった。
JRの最寄り駅の高田馬場から早稲田のキャンパスまで歩いて20分くらいかかるのだけれど、お金がない学生は地下鉄にもバスにも乗らずにとにかくテクテク歩くのがスタンダードだった。テストに間に合わないとかのやむを得ぬ理由を除いて、学生たちは頑なに「馬場歩き」を貫徹していたのが記憶に残っている。

今の僕だったら120%バスか地下鉄に乗るね。

しかし。思い返してみれば「馬場歩き」も悪いものじゃなかった。
高田馬場駅に降りたらだいたい学友にばったり会うわけで、20分ってなんとなく重くない感じで良い話をするのにちょうどいい時間でしょ。一人で歩いていても、向こうからやってくる誰かとまた立ち話したり、場合によっては大学行くのやめて、お茶しに行ったり映画見に行ったり。意外な二人が手つないで歩いてて「おっ、お前ら付き合ってるのかよ〜」とからかったり、誰にも合わなくても古本屋さんや雑貨屋さんの軒先を覗くのが楽しかった。

やることないとか、お金ないとか、人生における使命がないとか。

こういうのも人生にとってはムダではない。てかむしろここで滋養されるものがいっぱいある。「やるべきことがある」ということは、裏を返せば「それしかできない」ということだ。「特にやることがない」という状態は、ある意味「自分の運命の扉を開くサムシングの到来」に対してオープンである、と言える。人が本質的に何かを「学び」、人生の「礎を築く」のは、この「無為の時間」にほかならない。この時間において感じることには「やるべきこと」に従事する人生では味わえない、不思議な風通しの良さと素朴な喜びがある。

僕がいま仕事でひねり出しているアイデアの源泉は「馬場歩き」の20分で蓄積したものかもしれないし、ビジネスを融通する人脈は「ガードレールに座って安酒飲む」あいだに築かれたのかもしれない。

もちろん当時の僕は、無為の時間が未来の投資になっていることを知らない。
タイムマシンに乗って彼に「えー、そこの君。君がのんべんだらりとしてくれたおかげで今のワタシがある。感謝のしるしに美味しい日本酒ごちそうするよ」と御礼を言っても「うるせえおっさんだな、あっち行け」と言われるだけだろうけど。

(なんか何言いたいのかよくわかんないエントリーになってしまった。汗)

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