軽やかに歴史を継いでいくのだ。2022年の振り返り。

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さっそくだが、僕は2022年の自分を褒めたいと思う。よくがんばった、自分!

結果も出したし、前に進んだ一年でした

去年はなかなか厳しい一年でした。
コロナ禍でオープンしたお店も、自分のクリエイターとしての活動も五里霧中でもがき苦しむうちに気づいたら年が終わっていた…。

認めよう。僕は負けたのだ。2021年の振り返り

しかし!今年の僕は前に進み、結果も出した。

コロナ禍が終わった春先から発酵デパートメントの業績が躍進し、売上が去年の2倍近くに。初夏には久々の海外、フランスへ。展示会や講演会、ワークショップどれも大好評。今年は一気に海外の仕事が戻ってきて、ユネスコのガストロノミーフォーラムやアメリカのKojiconはじめ国際会議にも参加して反響をたくさんもらいました。

そして2022年のピークはなんといっても秋から三ヶ月続いた発酵ツーリズムほくりく展のプロジェクト。2019年のヒカリエの展覧会がさらにスケールアップし、展覧会とツーリズムを合体させた大規模プロジェクトに挑戦。福井を本会場として、石川富山の北陸三県、さらには大阪梅田の阪神百貨店の1Fをジャックした大規模催事や東京立川GREEN SPRINGSでの発酵ツーリズム展など、日本各地でめちゃデカい展示やPOP UPショップ、ツーリズムプロジェクトが毎週末のように開催されて、ほんとにほんとにたくさんの人たちが参加してくれました。

2019年のヒカリエ展よりもインパクトが大きく、国内海外どちらからも発酵ツーリズムうちでもやりたい!と引き合いがたくさん来ています(来年以降に僕の体力と相談しながら次の展開を考えます。ぜんぶ引き受けたら死んじゃう)。

新著も出版&文庫化も

発酵ツーリズム展にあわせて、読み物としては3年ぶりの新著『発酵ツーリズムほくりく』を上梓。さらに前作『日本発酵紀行』も文庫化され、2万部を超えるロングセラーになりました。

ちなみに2020年に文庫化された『発酵文化人類学』は累計17刷になり、翻訳版もあわせるとたぶん6万部を超えているのではないかしら…

というように、今年は著者としての活動も充実していました。3年ぶりに止まっていた時計の針が動き始めたようでとても嬉しい。

ちなみに来年前半には、食のエッセイ集『オッス!食国』が出版されます。ほんとは今年に出す予定だったのですが、展覧会と被らせたくなかった&諸事情により、原稿書き上がっていたのですが出版時期を先送りにしていたのでした。

ポッドキャスト #ただいま発酵中 躍進!

そして。2022年の個人的なハイライトは、ポッドキャスト番組 #ただいま発酵中 の躍進。友人、バックパッカーズジャパンのいっしーと一緒に始めた「とことんディープに発酵を語る番組」がニッチすぎるテーマにも関わらず人気になり、現在リスナー5000人を超え、年末にはSpotifyのポッドキャスト総合ランキングにも入ったそうな。年末に始まったシリーズ日本酒でまた謎のブレイクが起こり、来年はさらに賑やかなことになりそうです。

2023年は他の人気ポッドキャスト番組とのコラボ企画があったり、醸造家や料理家、研究者をゲストに呼んだり、出張公開収録をしたりと活動の幅をより広げていきたいと思います。

…とこんな感じで、お店めちゃ頑張って商品開発もいっぱいして、巨大展覧会を同時に複数会場でやって、本2冊書いて、ポッドキャスト番組100本配信(そして山梨YBSの番組も50本録ってる)して…とアウトプットのダムが決壊しまくった2022年でした。よくがんばった、自分!

限界を知った一年でした

さて。
アウトプット量も異常、毎日のように各地を飛び回って色んな人に会いまくり…という一年を過ごし、11月の半ばあたり、電車に待っている時にとつぜん「もう限界。これ以上はムリ!」と発狂しそうに。誰かに後頭部を鈍器のようなもので殴られて脳漿をホームにぶちまけてそのままスッキリしてしまいたい…という謎の欲望にのたうちまわりました。

毎年毎年「忙しい〜もう無理〜」と言いつつも、単純に時間がないだけで「時間の使い方をもうちょっと工夫したら、オレまだまだやれることあるんだけどな…」と物足りない気持ちもあったんです。

しかし今年は時間的にも身体的にも精神的にも限界を超え「もうこれ以上、指を1ミリ動かすことすらできない!」という状態に。30数年生きてきてついに「己の限界の限界はここである」ということを思い知りました。

「オレはもっとやれるはず」という思いは、歯がゆさの裏返しに自分のまだ見ぬ可能性への期待があるわけですが、今年の僕は「もうこれ以上やれないオレ」だったわけです。

2023年以降の僕は、もう自分に未知の可能性を見出すことはできない。それは寂しいことのように思えますが、自分に余計な期待抱かなくてもいいので人生の荷物が軽くなってそんなに悪くはないのでは…。

ということで。これからやってくる働き盛りの40代は「発酵デパートメントがんばる」「本書く」の2つを往復する間に終わることが確定しました。

うん。シンプルで良いではないか。

軽やかに歴史を継ぐのだ

ちょっと話題を変えて結びにしたいと思います。
今年の夏、フジロックの中継を見ていた時のこと。今年は国内では古株のアーティストが目立っていて、人気アーティスト同士がコラボしたり、解散したり死んでしまったあのアーティストの曲をカバーしたりと「J-POPの青春時代よもう一度」的な盛り上がりを見せていました。もちろん僕もそれを楽しんでいたわけですが、いっぽうチャンネルを海外勢のチャンネルに切り替えてみると、そこには過去へのノスタルジーなど微塵もないクールなグルーヴがうねっている。歌詞のメッセージも社会的なイシューに鋭く切り込んでいて、ひとことで言えば「前を見て進んでいる感」をビシバシ感じるわけです。ノスタルジーに沈む国内勢とは対照的。

今年日本に住む僕たちが感じていたのは「前を向く元気が出ないままズブズブと沈んでいく倦怠感」だったのではないか。その倦怠感を振り払うために、ノスタルジーに光を見出そうとする。

2023年はますますその傾向が強まっていくでしょう。
そのなかで、僕の専門としている発酵文化や食の領域のプレゼンスはさらに高まっていきます。外から新しい文化を取り入れる余裕がなくなり、過去の伝統によって自分たちのアイデンティティを強化しようとする、その流れに僕の活動の方向性は合致している。

それはいっけん良いことのように思えます。が、他方では自分と違う価値観を排除する内向きの社会に向かう前兆でもある。僕は日本の社会を覆う倦怠感と内向きさを危惧しています。

ここ10年の活動を通して、僕は発酵という伝統のバトンを受け取る存在になりました。で、そういう立場だからこそちゃんと言っておきたい。そのバトンは、伝統の価値観の外側にいる人たちに軽やかに受け渡されていくべきだと。そしてその軽やかさを率先して体現するのが、僕(そして発酵デパートメント)でありたい。

鈍重に、内向きになっていく時代にこそ、軽やかに境界を超えていく伝統の継承をする、それが2023年以降の宿題になりそうです。

それではよいお年を。

【追伸】今年は大規模なプロジェクトが多かったので例年よりもたくさんの人たちとチームを組んでの仕事が多かった。みんなありがとね。中でもとりわけ一緒にいる時間が濃かった&お世話になったのは、金津創作の森で発酵ツーリズム展の担当だった千葉さんと、ポッドキャストの相方のいっしーの二人。来年も皆さまとの良きご縁を願って年越しを迎えます。

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