おべんとうの国を旅しよう!アニメ『おべんとうDAYS』ができるまで

仕事のアーカイブ,

おべんとうの国を旅しよう!
2018年7/21から始まる、上野東京都美術館『おべんとう展』の出展作品としてつくった新作アニメ『おべんとうDAYS』を公開しました。

作詞作曲:松本素生(GOING UNDER GROUND)
振り付け:flep funce!
映像制作:小倉ヒラク
企画: 東京都美術館『BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン』

プロジェクトのあらまし

「東京都美術館です。ヒラクさん、お弁当をテーマにした展覧会にアニメ作品を出展しませんか?」

「えっ?美術館?お弁当?アニメ?出展???」

2017年の秋に届いた情報量の多すぎるオファー。都美術館って、印象派の展覧会やってる老舗のミュージアムだよね。なのにお弁当?そして展覧会に出展する人って美術家とかなんじゃないの?僕、発酵界の人なんだけど…

とドキドキしながら東京都美術館に出向いたところ、めちゃ知的でフレンドリーな学芸員チームの皆様が出迎えてくれました。

コミュニケーションデザインとしてのお弁当をテーマに展覧会を企画しています。お弁当から始まるコミュニケーションのかたち、自然との向き合い方、文化のつながりを現代美術作品や民俗学の資料をミックスして表現したいなと思っていて…」

という説明を聞ききはじめてすぐに、「あ、これ絶対ヒットする企画や!」と確信。何より「コミュニケーションデザインとして食文化」というテーマは僕の『発酵文化人類学』のメイントピックス。僕、美術館と仕事したことないけど、このテーマならきっとできる気がする…!

「わかりました。では展覧会の予告にもなるような素敵なテーマソングつくりましょう!もちろん、ダンス付きで!( ー`дー´)キリッ」

とその場で「歌って踊るお弁当」という謎すぎるコンセプトが誕生。
『てまえみそのうた』『こうじのうた』に続く、歌って踊る食アニメの新作をつくることになったのだな。

音楽はGOING UNDER GROUNDの松本さん!


オフィシャルWEBサイトより。写真真ん中が今回音楽を手がけてくれた松本素生さん。

僕のつくるアニメ作品は、70%くらい音楽で決まります。つまり、どのミュージシャンにお願いするかがプロジェクトの成功の鍵を握っている…!

としばらく悩みまくった結果、GOING UNDER GROUNDの松本さんのところへお願いしにいくことに。理由は以下の3つ。

① デビュー20年から一貫して変わらず素敵な曲をつくりまくり!
② めちゃポジティブで気持ちが温かくなる声とメロディ
③ 前に僕がイベントで呼ばれたカフェで夜バーをやっていた(BAR天竺)

GOING UNDER GROUNDの最新曲。ずっと変わらず良い…!ていうか今のほうが良くない…?

音楽や芸能業界に何のコネもない発酵デザイナーが松本さんのバーに押しかけて「曲つくってください!」とダメもとで頼んでみたところ、

「オレ、料理するの好きなんですよ。子どもと一緒によく上野に展覧会見に行くし。やりますよ!」

とまさかの快諾。う…嬉しすぎる…!

プロジェクト初期のイメージボード。ここから松本さんと二人で曲のイメージを膨らませていきました。

そして2017年が終わり、お正月を過ぎた頃にBAR天竺に松本さんを訪ねていきました。

「ヒラクさん!曲できましたよ!!」

とカウンターからギターを取り出して歌い出す松本さん。

「うんまい♪うんまい♪うんまいお弁当♬」

と一発で口ずさんでしまうポップすぎるメロディー。最高すぎる!
さらにスタジオ収録の合間につくってくれたデモ版も聴かせてくれて、あれ、なんだろうこのアレンジ?リズムもベースも口で演奏するdoo-wop(ドゥーワップ)スタイル…?

「お弁当の曲でしょ。だから口で演奏しようと思って!」

ててて、天才すぎる…!メジャーミュージシャン、スゴすぎ〜!!
ほんとに松本さんにお願いしてよかった……。

親子で踊るおべんとうダンス

最高の音楽ができる!ならば最高のダンスをつくるしかない!

ということでダンスの振り付けをお願いしたのは『てまえみそのうた』『こうじのうた』の愉快なダンスでおなじみのflep funce!の二人。

「親子で踊れてお弁当がつくりたくなって、かつワークショップも盛り上がるような…」

といつものごとく無理難題の依頼をしたのですが、全然動じない二人。

「せっかくだから子どもが自分でお弁当つくりたくなって、それを大人が見守るようなダンスがいいね〜」


手前が子ども。後ろが大人。大人が子どもを応援するダンスです。

そしてできあがった親子で踊れるおべんとうダンス。なんと!展覧会の会期中にダンスワークショップやるので遊びに来てね〜。

flep funce!今回もグッジョブ!

ストーリーと見どころ

最高の音楽とダンスとともに完成した『おべんとうDAYS』。
歌って踊れるPV仕様(3分21秒)なんですが、実はストーリーがあります。本編だけだと短すぎてよくわからないので、ブログで補足しておきます(まあストーリー関係なく楽しめるようになっているんですが、せっかくおはなし考えたからみんなに伝えたい…!)。

「えっ、マッドサイエンティストと山の神さまの間に生まれた猫型女子?」

と突っ込みが聞こえてきそうですが、なんでこんな設定が生まれたのか僕にも謎です。汗
主人公ね子ちゃんとお目付け役のロボット、おべんとウサギが弁当箱型乗り物に乗って、色んな時代の色んな文化を旅します。そこで最高のお弁当食材を集めて山の向こうで仕事(職業:神さま)しているパパに届けにいくぞ!というのが基本のストーリー。

戦国時代や江戸時代の工夫満載のビックリお弁当や、インドやアフリカ、ヨーロッパのお弁当も登場。武将や木こり、海女や江戸の町人などなど、様々なキャラクターが出てきます。さらにおべんとう展に出展するお弁当ハンターの写真家、阿部了さんやオランダのアーティスト、マライエ・フォーゲルサングさんも登場(あと一瞬だけ『てまえみそのうた』のキャラも出てくるよ)。


世界各国のお弁当が登場。ちなみに現物は展覧会で見られるよ!

お弁当が出てくる有名な絵巻物や写真集のサンプリングも多数。さすがにマニアックかしら…と思ったら学芸員チームに見破られた!

季節の食材を使ったお弁当も登場。これは江戸時代の春の行楽弁当。お花見や相撲見物のときに食べられていたそうです。美味しそう…!

今回をきっかけに知ってハマった江戸のビックリしかけ弁当箱。碁盤や瓢箪、お城や魚など奇想天外なお弁当箱を取り上げました(←現物見たすぎて京都のお辨當箱博物館まで行った)。

あとアニメ制作のことについてもちょっとだけ。
これまで僕がつくったアニメの2倍くらい動きと作画の質が緻密になっています。最後のサビのパートでは六人が同時に踊るので、そのパートだけで作画量数百枚。汗

作画にあたって一番試行錯誤したのはカラーパレット(色のバリエーション)。最終的にたどり着いたのは、日本の伝統色の見本帳。そこから食べ物の色だけを抜き出してカラーパレットをつくっていきました。紫=ナス、オレンジ=人参、青=浅葱、ピンク=桜などなど。

食べ物の色で食べ物描くとめちゃくちゃ美味しそうに見えることにビックリ。日本の色彩感覚スゴい…!

みんなでつくろうおべんとう!

考えたことと、これからの展開


ね子ちゃんとおべんとウサギの最初のスケッチ。

今回のプロジェクトで考えたことと今後について。

▶アニメをつくる時に考えたこと
今回のアニメの裏テーマは「お弁当からみる多様性」。
最高のアニメをつくるべくディスカッションを重ねた学芸員チームの多くは女性。精力的に働きながら子育てしている人も多い。その人たちと一緒につくるのだから、

お母さんのお弁当、最高!みたいなのは絶対つくらないぞ…!!

ということを決めました。忙しい時に100%ていねいにお弁当つくるなんて無理だし。あとは僕の友だちにはお父さんのほうがお弁当つくっている家庭も多い(ちなみにヒラク家は母が料理苦手の仕事大好き人間で、それが主人公一家のキャラ設定に影響しています)。

かならずしもていねいじゃなくてもいい。
誰が誰につくってもいい。
完璧じゃなくてもいい。
どんなかたちでも「やろう!という気持ちがある」ということをリスペクトする。

これがストーリーをつくる時の僕のポリシー(そして僕の発酵デザイナーとしての活動のポリシーでもある)。あともうひとつ。

お弁当は日本の誇るべき伝統!みたいな安易な日本称賛もイヤ〜!!

確かに日本はお弁当文化がかなりユニークに発達した国ではある。でも、他の国にも美味しくて楽しいお弁当文化があるんですね。

例えばインドのデリバリー弁当のダッバーワーラー。デザインめちゃ可愛いエチオピアのインジェラボックス(インジェラはエチオピア独自の発酵クレープ)。そしてもちろんヨーロッパにも。僕がフランスに住んでいた時は、よくランチボックスにパンやお惣菜を入れて友達と公園でピクニックランチしたり。

つまりお弁当の楽しみは万国共通!
その家の、その文化それぞれの最高のお弁当がある。絶対的な正解がないのが食文化の醍醐味なんだよね。

お弁当のつくりだす文化の多様性。そしてつながるコミュニケーション。
このスタンスは、映像以外にも松本さんのつくってくれた歌詞にも反映されています。

心と心つなぐお弁当。できたら満点だ!

▶今後の展開について
このアニメは展覧会に先行して公開されるPRソング。
と同時に展覧会の出展作品でもあります。なので展覧会場で上映されます。でもせっかく美術館の空間に展示するので、よりアニメと他の展示が楽しめる仕掛けを考える予定。

今のところのアイデアですが、アニメのストーリーがより立体的にわかる絵本的なイメージボードをつくろうかなと思っています。

そして。展覧会会期中の7/29にダンスの振り付けを手がけたflep funce!と一緒に親子で楽しむダンスワークショップをやる予定です。詳しくはまた都美術館からお知らせがあると思うのでお楽しみに!

さらに!なんとミュージアムショップでこのアニメのキャラクターのデザイングッズが販売されるようです(これからデザインする)。お土産にピッタリの可愛いグッズをつくるのでこちらもお楽しみに!

展覧会は7/21から!


展覧会のメインビジュアル。デザインは『発酵文化人類学』の装丁を手がけたBAUM。スゴい偶然…!

最後に展覧会の告知でーす。
『BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン』の開催期間は7/21〜10/8。

前川國男設計のめちゃ雰囲気のある会場に、マライエ・フォーゲルサングさんや北澤潤さんの巨大インスターレション、阿部了さんや小山田徹さんの写真作品、大塩あゆ美&平野太呂さんや森内康博さんの映像作品、さらに色んな博物館とコラボした貴重なお弁当箱コレクションの展示などがギッシリ詰まった見応えのある展覧会になりそうです。

家族で、友人で、もちろん一人でもどうぞ遊びにきてくださいね。僕も何日か会場に滞在する予定です。

☆☆おべんとう展のオフィシャルサイトはこちら☆☆

都美術館の学芸員チームの皆さま、松本素生さん&flep funce!、手伝ってくれたみんな、ほんとにどうもありがとうございました。アニメも展示会も目指せ大ヒット!

 

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