「ビギナー」の強みを活かす。地域のデザインが輝くための条件を考える。

▶︎ 読みもの,

またもや旅だ。
今回は5日で神戸→京都→福岡→東京→山梨に帰るという強行軍。

そのあいだに、デザインをしてイラストを描いて取材して写真撮って原稿書かなきゃいけない。なので、PCとペンタブレットとICレコーダーとカメラ一式をバッグに詰める。これはつまり「移動式事務所」なのだけれど。

そういえば、独立して間もない頃のこと、こういうスタイルで全国の地方を回っていた頃があった。デザイン機材一式を背負って、その土地のメーカーやお百姓さんとこにいって、自宅に泊めてもらいながら一緒にデザインをつくって、その場で納品してまた次の場所へ…
という「円空仏スタイル」であちこちで仕事をした。

エージェント不在のデザイン

なぜそんなことをしていたかというとだな。
一つは東京で仕事がなかった(汗)。インハウスのデザイナーが独立しても、発注先もなければ営業のやり方もわからないからね。そんで東京でやることなくブラブラしていたら、たまたま知り合いづてでお百姓さんの仕事をもらい、それを見た他のお百姓さんが依頼をして…という「ローカルわらしべ長者」みたいなスパイラルで、僕のキャリアはスタートしました。

で、もう一つの理由。
「御用聞き」のデザインの仕事をしたくなかったんだね(←駆け出しのくせに生意気だったぜ)。よくイベントでも話していることなんだけど、従来までのデザインの仕事って「こうこうこれで、条件整理しといたから、この部分だけレイアウトしてね」みたいな構造になっていて、クライアントとは別に交通整理やお金の話をとりまとめているエージェントがいる。だから、デザイナーはクライアントやその業界の本質的課題に直接対面することはできない。

(といってもエージェントを否定しているわけじゃないよ。交通整理するひといないとプロジェクトが空中分解しちゃうからね)

僕にとってデザインは「この世の中がどうなっているのかよく知る」ための方法論だから、誰かが既に用意したものを組み合わせる「オペレーター」では満足できなかった。そこで、自分の足でフィールドワークして、企画書は書かずに、一緒に落書きをしながらああだこうだとアウトプットをつくっていくようなプロジェクトのやり方に辿り着いた。

つまり「エージェント不在」のままプロジェクトをやる。
誰からも仕事は降ってこないし、デザインの周辺にあるめんどくさい作業(ブッキングしたり、予算の交渉をしたり)も全部自分でやる。
このやり方は、たいへんに費用対効果が悪い。そして精神的タフネスも必要とされる。だけど振り返ってみれば、キャリアの一番はじめにこういう事を経験して本当によかったと思う。

ビジネスの届かないところにビジネスの種がある

ローカルな物産品/工芸品とデザインがうまく出会うと、ものすごく良い結果をもたらす。
どんなお客さんを相手にしたいかがよくわかるから、売りかたがわかりやすくなる。わかりやすいから、売れる。売れると、地元の人が興味をもってくれるから、ネットワークもできてくる。

その起点に、デザインはなり得る。

なのに、どうしてデザインは地域産業に浸透していかなったのか。その理由は、そのまま僕のキャリアの鏡写しになっている。エージェントが介在するデザインはものすごく高価なのであるよ。だから、ある程度以上の規模を持った組織しか発注できない。経営を左右するような「戦略的なデザイン」は、「持つ者」にしか配当されない。「持たざる者」はだから、地元の印刷屋さんがオマケでつけてくれる「デザインのようなもの」で良しとしなければいけなかった。

だから、僕の仕事に仕方に何か意味があったとしたら「戦略的デザイン」の方法論を、地場産業のなかに埋め込んだということにあるのだろう(←たまたまだけど)。これはもっと言えば、マイナスの条件こそデザイナーが進化するきっかけになり得るということだ(←後付けだけど)。

「何も持たないビギナー」の強みとはなにか

独立したばかりのひよっこには「信用」というものがない。実績もないし実力もないヤツに発注なんてするわけない。

理屈としてはそうだが、ひよっこは往々にしてちゃんと実績をつみ、プロに成長する。
そういうなる理由はなんなのであろうか。「本来ならば無理だけど、モノの試しにやってみるか」という挑戦ができる権利が、ビギナーには与えられている。

当時はただただ夢中にやっていただけだったけれど、振り返ってみればビギナー時代の僕のプロジェクトの一つ一つに「実験性」が溢れていた。「本当だったらそんなことはしない」「そこまでやったらデザイナーじゃない」ということをクライアントと一緒に試しまくっていた。
なぜそれができたかというと「発注額が安かった」から。もし失敗しても「まいっか、ビギナーだし」で済む(←なんかもう、竹を割ったような発言でスイマセン)。

この時に「まあ金額のぶんだけ働きますかね」というような仕事の仕方をすると「安くこき使われる」ということになり、費用対効果を無視しまくって全力投球すると「次のステージへの挑戦権」が与えられることになる。

昨今の「ローカル×デザイン」の潮流は、たくさんの人の無数のチャレンジが積み上がったうえに出てきたもの。だから、一過性の盛り上がりだけで終わらせちゃあいけないのだ。

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discover japan別冊「地域ブランドクリエイターズファイル」の100人の末席に入れてもらいました。このラインナップは時代のトレンドの一つの記録になりそうです。

 

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