実は最古の発酵調味料?お酢のスゴさを思い知るべし!ソトコト16年10月号掲載
ふだん何気なく使っているお酢。実は深い歴史と技術を持つスペシャルな発酵調味料です。今回は発酵食品のなかでは地味めな存在にスポットライトを当ててみるぜ!
そもそもお酢とは何か?
お酢は英語で”Vinegar”と言いますが、語源は元々フランス語の「酸っぱいワイン」から。「お酒が酸っぱくなったもの」。これがお酢の定義です。
ではどのようにしてお酒が酢になるのかというとだな。酢酸菌という発酵菌がお酒のアルコールを食べて、酢酸という強酸性(pH値2.5〜4)の酸をつくる。この「酢酸液」がつまりお酢。
でね。ここで1つポイントがある。
食品における発酵の多くは「空気のない環境」で起こるけど、酢酸菌は変わったヤツで空気が大好き。飲みかけのワインやビールを放っておくと「おや?俺の大好物のアルコールと空気があるではないか!」と、新橋駅高架下の赤提灯に吸い込まれるサラリーマンのおじさんのごとく開いたビンのなかに侵入しお酒をお酢に変えてしまうのであるよ。
ということはだ。お酢の歴史は「お酒の歴史と同じくらい古い」ということになる。
クスリにも使われた酢の効用
調味料としての用途以外にも、古代ギリシャ時代には、哲人ヒポクラテスが「飲むとクスリになるで」と病人にレコメンしていたというお酢。
一体なにがそんなにグッドなのであろうか?食材の味をタイトに引き立たせ、爽やかな風味を与えることができる(シチューに使うとお肉が柔らかくなるよ)。マヨネーズの原料になるし、マリネやピクルスとして酢漬けにもできる。寝る前に水やジュースで割って健康飲料にしたりと、お酢の調味料としての可能性は果てしない。
さらに。お酢には強い抗菌効果もある。お酢ほど強い強酸性の環境に、並のバイキンは耐えることができない。病原菌にやられている患者にお酢を処方したヒポクラテスは正しいのであるよ。
ちなみにお酢は掃除にも使える。僕の家の床はスギの無垢材なのだが、お酢を使って水拭きすると裸足のアカ汚れはキレイに落ちるし、空気も清らかになる。ビバお酢!
イチから作ると手間がかかる
では次に製法について。お酢はイチから作るとめちゃ手間がかかる。日本の伝統調味料である「米酢」を例に説明するとだな。まずお米に麹菌をつけて麹をつくる。次に麹と蒸米と水を混ぜて酵母の発酵で日本酒をつくる。さらにその日本酒をカメの中に入れ、1〜3ヶ月のあいだ酢酸菌による発酵を行って、そこから数ヶ月〜1年以上熟成させる。複数の菌をバトンリレーさせながら、長—い時間をかけてようやく完成する。手間がかかるぶん、原料の味がギュッと閉じ込められ、なんともいえない香りと風味がある。お酢というのは実に貴重なものだったんだね。
でも最近は、穀物をブレンドしたアルコール液を空気入れながら撹拌することで短期間に仕上げる速醸法が開発され、気軽にお酢が使えるようになった。僕は調味料に伝統製法、掃除用に速醸法のお酢を使い分けている(伝統製法のお酢で掃除すると匂いがスゴい)。
最後にちょっと小咄。酢酸菌発酵とよく似た現象は、僕たちの体内でも起こっていることをご存知かしら?アルコール、分解、空気…。ご名答、宿(ふつか)酔いでしたー!
【追記】僕のホーム、山梨にある戸塚醸造は日本でも数少ない「イチからつくる伝統製法」を実践するお酢屋さん。蔵に遊びにいくと、酢酸菌独特の酸っぱいような甘いような香りにテンションが上がります。
このソトコト連載のバックナンバーを全て破壊しイチからREMIXしなおした書籍『発酵文化人類学』の書籍版、絶賛発売中!