プロジェクトを終わらせよう。

プロジェクトには、おおまかに分けて3つのフェーズがあります。

最初は、開始フェーズ。プロジェクトの定義(課題&ゴールと、それを達成するためにやること)をして、スケジュールと予算、チーム体制を決める段階です。

次に、運用フェーズ。開始フェーズで決まったことを「実行する」段階です。進捗や予算や人もモチベーションを管理しながらプロジェクトを進めていきます。

最後に、終結フェーズが来ます。ゴールまで辿り着いたあとに、やり残した宿題の確認とフィードバックを行い、「はい、これで無事プロジェクト終わりました」と一本締めする。

何かを開発したり、プロモーションしたり、イベントを企画したり、どんなプロジェクトもだいたいこの3つのフェーズから成り立っています。

で。僕たちがやっている「++セッション」は、「開始フェーズ」をいかにスピーディに効果的に設計するかというワークショップなんですね。どうしてこれが必要になるかというと、プロジェクトがうまくいかない理由は、スタートとゴールが曖昧だから。何のためのプロジェクトで、何を達成したくて、使えるリソースはどれだけあるのか。それを事前に定義しておかないと、運用フェーズで「そもそも何でこんなことやってんだっけ」という地獄のそもそも論に引きずり込まれ、メンバー一同三途の川を渡るハメになります。

「…以上が、本プロジェクトの進捗です」

「ちょっといいかね」

「はい」

「そもそも、このプロジェクトは何が目的なのだね」

「それはですね、競合他社と差別化を図り、我が社の独自性を◯?△□…」

「我が社の独自性とはいったいなんだね」

「えっ…!?(←そこオレに聞いちゃうの、専務?)」

てなわけで、開始フェーズを丁寧に設計していくことは、社内外のプロジェクトメンバーの精神衛生のためにも非常に大事なわけです。

でね。

あちこちでワークショップを重ねるうちに、「どうしてこんなにも開始フェーズが意識化されてこなかったんじゃろ?」という疑問が沸き上がってくるじゃないですか。そんな折に「地元中小企業の二代目」の皆様にお会いする機会がありまして、「なるほど」と思うことがあったんですね。

おお、日本経済はここ30年くらいずっと「運用フェーズ」だったのか。

戦後の日本を一つのプロジェクトとして捉えてみると、開始フェーズは松下さんや本田さんや井深さん達を筆頭とする「黎明期のイノベーター」達が、家電とか車とかプレハブ住宅とか、とんでもなくライフサイクルの長い商品をつくり出したことから始まる。そして、その後80年代以降から、そいつをあれこれアレンジしながらライフサイクルを伸ばしていく「運用フェーズ」に入り、今に至ると。

地域の中小企業(特にB to B)を見てみるとさらによくわかります。

高度経済成長期に、イノベーターとしての大企業から部品の発注をもらうのが地域の中小企業の典型的なビジネスモデルでした。で、商店街の電気屋さんには「PANASONIC」とか「HITACHI」の看板が「共栄家電」なんていう屋号より目立っている(販売代理店だね)。

大企業のクラシック商品のライフサイクルを伸ばす作業に、中小企業は並走し、依存してきたわけです(このブログをご覧の中小企業経営に携わる皆様、竹を割ったような表現ですいません。でもね、これからもっと身もフタもない話するから)。

さて。

では企業がエネルギッシュな先代(仕事取ってくるどー!)から二代目に代替わりすると何が起こるか。「先代のビジネスモデルを運用し続ける」という現象が起こります。つまり、経営者が「開始フェーズ」及び「終結フェーズ」に関わらない、というスゴい状態です。

大企業でよく言われる「サラリーマン社長は頼りにならん」みたいな論調は、この辺りに起因していると見た(たぶん)。で、中小企業ではどうかというと「会計は税理士さん」「経営判断は先代の会長」「人事は先代をよく知る専務」みたいなアウトソーシングで会社が回っていってしまう…というケースがたくさんあるんですね。知りませんでしたよ>長島さん酒井さん。

経営者が「事業というプロジェクト」の始まりと終わりに関わらないならば、社内のスタッフもまた各々のプロジェクトを明確にスタートし、明確にゴールすることはできない。

というわけで、微力ながら我ら合同会社++「プロジェクトの始めかた」をワークショップでお手伝いしているわけですが、今日このエントリーを書きながら気づいたのが「もしかしたら、まずはプロジェクトの終わらせかたを考えるのも大事かも…」てなことで。

「家電や車や建売住宅で、世の中は便利になりました。」

「先輩たちが始めたプロジェクトの目的は達成されました。どうもありがとう。」

「さて。それではここ65年の成果をフィードバックして、新しいプロジェクトを始めましょう。」

はいそこのひと、いきなり生コンとか練らないの。

いやだから、道路の幅を拡げる必要もないし、そんなたくさん超高層マンション作って誰が住むのよ?

とほほ。

【追記】ちなみこのフェーズの考えかたは、「PMBOK」というプロジェクト・マネージメント手法を参考にしてあります。loftworkの太田さん、教えてくれてありがとう!

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小倉 ヒラク

発酵デザイナー。1983年、東京都生まれ。 「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちとプロジェクトを展開。下北沢「発酵デパートメント」オーナー。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など多数。