独学者の「不気味の谷」というものがあります。
素人がある専門分野に興味を持ってあれこれ好き勝手なこと始めると専門家の先輩たちから可愛がられます。素人に留まるうちは。
ところが素人が本格的に学びはじめて、ただの素人でなくなってくると専門外のフツーの人からも専門家からも「不気味な存在」として見なされるようになる。
これが独学者の直面する苦難であり、よじのぼる覚悟が試される不気味の谷です。
※不気味の谷はよくロボットの例で使われます。ドラえもんみたいに明らかに人間と違うマスコットならば可愛がられ、そこから人間に中途半端に近づいていくと気持ち悪い存在になる。そこを越えて限りなくリアル人間になると違和感がなくなるというセオリー。
ビギナーズラックジプシーにとどまるか否か?
例えば編集や広告、デザイナーみたいにクリエイティブ領域で活動する人は「クレバーな素人」として様々な専門領域で重宝されることになります。専門外の素人だからこそできることを天真爛漫にやってみた結果「新しい風を吹かせてくれてありがとう!」となる。これが双方にとって気持ちいいので、不気味の谷の手前で引き返し、また違う専門領域に行ってビギナーズラックの恩恵に預かる。
クリエイターは「ビギナーズラック・ジプシー」になりやすい。
僕もデザイナー時代に色んな領域で仕事していたので、このビギナーズラックを味わった。でもそのうちに「いつまでもビギナーをはしごしてていいのか?」と疑問を持って自分なりの専門分野を持つことになりました。
ある領域から次の領域へ。「飽きずに自分を変えていくこと」に飽きた。
だから一生をかけられそうな自分の好きなこと=微生物に全部をかけてみることにしました。それでめでたしめでたし!かと思ったら今度は「独学者の不気味の谷」に直面することになったんですね。
考えてみればここ4〜5年くらいずっとこの谷を這い上がることをやっている気がします。
素人の時は何いってもウケたのにこの谷に入ると突如相手にされなくなる。難しい専門知識をいくらインプットしても全然アウトプットの結果がついてこない(理解するだけで精一杯だからね)。この暗い砂漠が延々続くのが「独学の不気味の谷」。
なんだけど、意外なことにこの砂漠の谷を地道に歩いていくことは僕にとってはそんなにツラくなかった。自分にしかわからないぐらいちょっとずつ前に進んでいくんだけど、ただただ好きでやっていることだから自分にだけわかればそれで満足なんですね。
谷底の暗い砂漠を歩くうちに「おお、自分は本当に微生物が好きなんだ…」と実感したわけです。不気味の谷を越えるには自分の実感以外拠り所になるものがない。その時に自分の「好き」が試される。
まだまだ谷を登りきるところまで行っていないけど、光が差す時を楽しみに地道に歩くぜ。
【追記1】発酵文化人類学を出版して谷抜けるかと思ったらまだ全然でした。精進せねば…!
【追記2】デザインや編集という専門性を突き詰めるという道もありますが、僕は残念ながらその器じゃなかったようです(周りに天才がいっぱいいるし)。