物書きの筋肉痛。

▶︎ 読みもの,

困ったことになった。『発酵文化人類学』を書き上げてから、ぜんぜん文章が書けなくなった。相変わらずブログは更新しているのだけど、それは本や出版ツアーの告知であって、いつも書いているような考察がぜんぜん書けない。
寄稿とか連載もぜんぜん書き進められない。なんかもう全然書く気にもならないし、いざキーボードを前にしてもさっぱり考えがまとまらない。

こないだ母校早稲田大学の広報メディアからの依頼で、学生時代からファンだった冒険家の高野秀行さんとの対談の仕事があった。対談が終わったあとの雑談タイムで、

「どうして高野さんは毎回テーマの違う本を継続的に書けるんですか?」

と聞いてみたらば、

「ものを書く筋肉ってのがあるんだよ。最初は短い本一冊書き上げるだけでやっとだけど、そのうち長い内容のものをコンスタントに書ける筋肉がつく」

との答え。そう考えてみると、僕は今、猛烈な筋肉痛なのではないかしら?
デビュー作(絵本除く)でいきなり400ページの本を書いてしまい、しかも自分の持てるネタを120%出し尽くしてしまったので「もうこれ以上特に書くことないじゃん」という感じになってしまっている。

「書き終わったとたん、また新しいインスピレーションが湧いてくるんです」
「書けば書くほど、どんどん言葉が溢れてきて困惑しています」
「これが作家としての表現欲求ってものなんですかね…。困ったものです」

とかカッコいいこと言ってみたいところだけど、認めよう。僕の創造の源泉、干上がってる!そもそも乾季のサバンナの水たまり程度しかないところに、半径30km内の動物たちぜんぶが集まって総がかりで水をペロペロしてしまった状態なので、もうカラカラ。

実は色々気になったり調べたりしているネタはあるのだけど、『発酵文化人類学』で全力を振り絞ったアベレージラインが足かせになって、ぜんぜん筆が進まない。
筋肉痛というよりは肉離れレベルのダメージなのであるよ。

実はこんなにも一冊の本を書くのに全力投球してしまったのには理由があってだな。
リスペクトしている編集者の藤本智士さんと飲んでいたときに、ふと藤本センパイが言った

「ヒラクの代表作って、今のところ『手前みそのうた』だけど、お前それの一発屋で終わらんやろ?ヒラクの次の代表作、見てみたいわ〜

という一言を聞いて「よっしゃあ、じゃあ今までで一番の大ホームラン売ったろやないかい!」と超絶に気合を入れて『発酵文化人類学』を書き下ろしたわけです。

で。
幸運にもこの本はかつてない飛距離のヒットを叩き出して、これほんとにホームランいけるんちゃうか?というとこまできているわけですが。その結果全エネルギーつぎ込みすぎてもう空っぽになってる〜!もう次どうしていいかわからなくなってる自分〜!!そんなに器小さかったのか自分〜!!!

と途方に暮れています。そのうち復活して前みたいに無邪気に発酵話とかタラレバ話とかを書き散らすことができるのでしょうか。

できなかったら僕はいよいよ本格的に人間界を離脱して菌になります。
さようなら。

【追記】高野さんに『発酵文化人類学』のことめっちゃ褒めてもらって嬉しすぎて死にそうです。わーいわーい!

 

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