癒やしとしての「書く」。バラバラな自分をつなぎ合わせていく。

ラジオからは「夏の終わり」の曲がかかるようになった(真心ブラザーズの「サマーヌード」とか)。気がついたら8月も終わりだぜ。

相変わらず祐次くんのところから出る予定の電子書籍の原稿をリライトし続けている。内容は、なんと自分の仕事のこれまでを祐次くんと語るというもの。で、出版とはいえ「ITベンチャー事業」であるわけなので、そんなに何度も内容いじくるよりもスピードが勝負だ!というのはわかっているんだけどね。

しかし。これはほとんど儀式なのだよ。
仏教式の葬儀に「戒名」という作業があるでしょう。故人の人生を編集して「死後の名前」をつける。で、僕の実家の檀家であり、デザインのクライアントでもある臨済宗普門庵の見城住職は、「なぜその戒名を付けたのか」というバックヤードを物語にして、葬儀のときに唱える。そんな感じで、「自分のこれまで」に戒名をして「おはなし」をつくることで、気分よく成仏してもらおうと思っているんだな。

思えば、日々の生活は「腹減ったなあ」とか、「今日のうちにこの書類あげないと、課長に怒られるからなあ」とか、「たまにはタカシとキャッチボールしてやるかな」という風に、「その日いちにちの時間軸」で生きている。でも、その背景には「今年は100万円ぐらい貯金してタカシが私立中学に行けるように準備したいわね」とか「そうかー。同期のヤマダも課長補佐かあ。そろそろオレもだよなー」なんていう風に「年次の時間軸」というざっくりとした方向性があり、さらにその背景には「タカシは県で一番の私立中学に進学し、大学は東大か京大の法学部か経済学部にぜひ行ってもらいたい!」あるいは「オレも40までには部長、あるいは関連会社の取締役、あわよくば社長みたいなものになってみたい!」という漠然とした希望というものがある。

しかし、それもせいぜい5年まで。
そこから先は「タカシは世にいう『官僚』というものになり、日本国の舵取りをする要職というか、つまりいわゆる『エラいひと』というものに是非なってもらいたい!実態は知らないけどねー」あるいは「まあアレだ。本社の部長あるいは関連会社の経営を経験した後は、オレもひとつ、自分の事業というものを、ドーンと!立ちあげてつまり『CEO』というものになってしまいたい!何で起業するかはこれから考えるけどねー」という風に、いまひとつ現実味のない未来しか想像することができない。

えーと。なにを言いたいかというだな。
人は10年や20年の時間軸で自分の人生をコントロールすることは原則できない。最長数年のスパンで目指す方向性のなかでジタバタするうちに、思いもかけない人やチャンスに出会って(あるいは挫折を味わって)、その方向性を適宜アレンジしつつ泳ぎ続けるうちに気づけば「思えば来年、オイラも古希かあ…」と言って愛犬といっしょに黙って海に沈む夕陽を眺めているのである(←僕古希になったことないから知らないけど)。

そんで話を戻すとさ。自分のこれまでの仕事を振り返っていくことは「出たとこ勝負で泳いできた15年」という時間軸を、後付で整理しなおすという作業なんだよね。当時の自分は「おやあ、美大に行くお金がない?じゃあ文学部行くか」とか「あれえ、なぜかパリで絵描きやることになったぞお」とか「あらまあ、無職のクセに借金してゲストハウスつくるって何よ」と、深く考えもしないでデタラメなことをしてきたけれど、後から「神の視点」で「文学部に行ったことで、後年デザインのリサーチ作業に必要な知識を身につけ…」「ゲストハウスを運営することで、事業を回す基本的な方法論を身につけ…」みたいな風に、全てのデタラメが「ヒラクくんという捏造のおはなし」に収斂されていく。

これね、言うたら「癒やし」なんだよ。知ってました?(僕はいまこの文章を書くまで知らなかった)

人間の苦しみ(←大きく出ちゃったけど)とは、「自分のなかにある雑多なものがそのまま放っておかれている」ということなのです。
盗んだバイクで走りだしてガラスを割ったことと、路地裏では朝が早いから今のうちに君をつかまえたことと、「ルカーッ」と叫んでドカドカ行ってテーブルのピザ、プラスモーチキン、ビールでいっきに流しこんだことが、「自分というおはなし」のなかで必然性を与えられ、タカコから「ヨシオさん、それは愛なの。あなたのその一見支離滅裂な人生は、私と出会うための必然だったの」と、どしゃ降りの雨のなかで言われた瞬間、終電のホームでうつむきながら震えていた青年ヨシオの心の傷は癒え、新たな人生のドアがノックされるのである(そして1年後、二人はあたらしい命を授かり、赤ん坊に「タカシ」という名を付けた)。

おお、わかった。定年した上級サラリーマンに自伝を自費出版させるビジネスモデルの原理はこれだ。
名誉や自己顕示欲ではなく、彼らは「癒やし」を求めているのだ!

中村ヨシオ著「Rain〜人生の転機には、いつも雨が降っていた〜」


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