年末のよく晴れた新宿のこと。
友人の編集者、徳谷柿次郎さんと新宿でブランチしながら雑談していた。その時に、このブログの話が存外に盛り上がった。
自前主義で十数年
過去アーカイブを見ればおわかりの通り、このブログは十数年間マイペースに続いている。
一貫して独自ドメインのwordpressである。この十数年を振り返ると、初期ブログサービス(amebaとかexciteとか)があり、はてなやJugemなどの古参プラットフォームがあり、mixiがありfacebookがありtwitterがあり、さらにはnoteやmediumのようなITやインターネット業界に縁のない人でも使えるコンテンツプラットフォームも台頭した。
しかし僕は頑なに他人の土俵を借りることなく、個人ホームページでやってきた。
ブロガー商売でもないので、2020年代における絶滅危惧種のような存在である。
それはなぜなのか。
振り返って考えてみると「環境に左右されたくない」ということに尽きる。
プラットフォームで何かを書くと、そのプラットフォームの毛色が付いてしまう。
はてなで書けばはてなっぽくなるし、noteで書けばnoteっぽくなる。
しかし僕のブログを読んでいる方ならおわかりの通り、僕のブログははてなのコミュニティの毛色ともnoteとも違う。
エンジニア感もないし、漢字も多い。ハックもエモもない。
(過去に色んなプラットフォームから「ウチ使いませんか?」と営業あったのだが双方にいいことないので丁重にお断りしてきた)
そして十数年もやっていると「サービスはいつか終了する」という諸行無常も当然心得ている。
例えデータをダウンロードできたとしても、他のプラットフォームに移設した時にそこの毛色に合うかどうかという問題が発生する。臓器移植ちゃんとできますか?みたいな心配がある。
やはり自分でドメインを取り、自分でサーバーを借り、自分でサイトを構築し、データを保管しておく。
これが一番安心である。
インターネットから「インター」がなくなってる
僕は90年代初頭、小学生の頃からパソコンを触っていた。
当時はまだインターネットがなく、行きたいサイトやサービスはアドレスをいちいち指定しないといけなかった。
しかしインターネット(www)が発達すると各サイト間を行き来できるようになり、yahooやgoogleが登場して「まだ知らないが自分に必要そうなサイト」を検索できるようになった。
バラバラだった「点」が網目のようにつながってインター(相互)ネット(網)になった。
はずだった。しかしインターネットが発達しすぎた2020年代、巨大化したSNSプラットフォームはユーザーを外部リンクに飛ばさなくなり、WEBサービスもアプリ化してアクセスを外部に出さずに完結しようとしている。気がついたらSNS内で検索することはあってもgoogleで検索しなくなってる。下手したらニュースも娯楽もyoutubeで体験が完結している人も多いだろうし、異なるサイト同士がつながりあう「インター」性はインターネットから失われている。
そんなことに気づいた時に、インターネット黎明期、googleが登場する前の短い一時代を思い出した。
wwwはあるが検索はない。その時期にサイト運営者は何をやっていたのか。自分でサーバーを借りて手作りでサイトをつくり、そのメニューに「相互リンク」というページを設けていた。仲良しのサイトにリンクを張り合って、お互いに集客しあっていたのである。
ちょっと話は脱線するが、booking.comが登場する前のゲストハウス界隈(2000年代前半〜中盤)に似ている。
当時はゲストハウスの数自体が少なく、オーナーはたいがい知り合いだった。ある土地のゲストハウスに泊まると、他の土地の知り合いのゲストハウスのカードやパンフレットが置いてあり、そこから電話やメールで次に行く土地の宿を予約していたものだった(なぜそんなことを知っているのか?それは僕がその時代にゲストハウスを運営していたからだ)。
話を戻すとだな。
google登場以前のインターネットは、サイトも手作りならインターも手作りだったのじゃ。
面白いサイトを見つけたら、相互リンクから似たようなキャラクターの他のサイトを見つけるのが楽しみだったんじゃよ。
「この管理人(当時のサイト運営者の呼称)の相互リンクならきっと面白いはず」
そんな信頼感もありながらの、黎明期ネットサーフィンじゃった…(遠い目)
当時のそんなDIYの楽しさをよく覚えていたので、僕はいまだに個人サイトをやっているのだろう。
クラフトインターネットの原点回帰
そして話は2023年末の新宿に戻る。
いつも時代を切り取る言葉を探す概念ハンターこと柿次郎さんが僕のDIY主義の話を聞いて
「それは…クラフトインターネットでは?」
と謎の概念を思いついた。意味はわからないが、フィーリングはわかる。
つまりミームになる条件バッチリのヤツである。
インターネットという言葉自体が「クラフト」という言葉と対極的な感じもするが、ネットの歴史が何周もした2020年代、ついにインターネットにも「クラフト感」が求められる時代になったのだ。
インターネットは輝きを失い、プラットフォームに身体を預ける違和感も生まれた。
— 徳谷柿次郎|Huuuu inc. (@kakijiro) January 5, 2024
小さな抗いとしてワードプレスで原点回帰の個人サイトを作りました。きっかけはヒラクくんとの雑談。一周したインターネットのクラフト感を考える機会にしたい。…
まだ生まれたての概念なので手探りで定義していくしかないのだが、僕なりのクラフトインターネットは不動産のイメージで捉えている。
土地の広い田舎に自前の土地を持ち、そこに自力で小屋を建てる。そこでマイペースに暮らしを楽しむ。
そして情報やモノのやりとりは、なるべくご近所さんとやる。
このライフスタイルをネット空間上でやるのがクラフトインターネットである。
自前の土地=独自ドメイン、自力で小屋建てる=サーバー借りてサイトつくる、ご近所付き合い=相互リンク、とイメージしてみたらわかりやすいかと思う。
その反対は何かというと、大都会で賃貸で住むライフスタイルである。
便利で不特定多数の人とつながることができる(逆につながりを断つことも選べる)。そのかわり自分で所有することができず、家主の意向に左右される。そのうち再開発で取り壊しになってしまうかもしれない。
これがプラットフォーム上で発信する現在の標準的なネットライフである。
どっちが良いか悪いかという話ではなくてだな。
例えばお店のサイトをやる時は完全個人DIYだとセキュリティとか不安なのでちゃんとしたプラットフォームを使うべきだと思う(僕のお店のサイトももちろんそうしてる)。しかしこと個人のネットライフとなると、原点回帰でクラフトインターネットをやりたい人も一定数いるのでは?と思ったりする。
外部環境のトンマナに左右されず、言いたいことを言いたいように言う。
見ず知らずの人の記事が過剰にリコメンドされることもない。逆に自分の記事が不特定多数の人にどんどん拡散されることもない。マイペースでコミュニティ主義。そして基本DIY。これが僕の思うクラフトインターネットである。
柿次郎さんの2024年はクラフトインターネット運動でいくらしい。
いったいその先にどんな景色が待っているのだろうか。楽しみじゃ。
【追記】試しにこのブログの仕様もクラフトインターネット的にしてみた。