広島の発酵ツーリズム:
酢(広島県尾道)| 尾道の造酢文化

豆味噌の桶から滲み出る濃厚液体調味料

『時をかける少女』や『君の名は』の舞台として知られる風光明媚な広島の入江の街、尾道は実は西日本屈指のお酢の街だった。今はその面影はほとんど残っていないが、明治後期から大正初期にかけて尾道だけで30,000石以上(一升瓶300万本)の生産量を誇る、愛知県知多半島の半田(ミツカンの本拠地)に次ぐ造酢の要所であったらしい。

尾道駅から続く長いアーケード街をずっと歩いていくと、創業約440年の日本屈指の老舗メーカー尾道造酢がある。ここは尾道の酢の歴史、もっと言えば街の発展の歴史の貴重な生き証人なのだね。

江戸時代までの伝統的なお酢づくりは、日本酒をベースにつくられる。
日本酒に酸素を送り込み、酢酸菌という微生物を増殖させてアルコールを酢に変える。魚などの保存食をつくるために日本全国で重用され、酢の生産の普及とともに和食の代表格である寿司が発展したと言っても過言ではない。

北前船の停泊地であり、海の商人の土地だった尾道では、海路で秋田あたりから安い米を運んできて尾道でお酢に加工して付加価値をつけ、西廻りの航路で日本海側に酢を出荷し、遠くは北海道にまで運んで利益を得てきた。

芸備銀行(現広島銀行)や尾道鉄道の代表を努めた橋本龍一を輩出した豪商・橋本一族が興した尾道の重要な産業のひとつが付加価値の高い造酢であり、お酢をつくりまくることによって尾道は土地に富を蓄積してきた。海の商人町・尾道の商魂はお酢に宿っている。

どうやってつくる/食べる?


酢の発酵に伴ってあらわれる酢酸膜

▶How to 仕込み(伝統的な米酢の場合)
A:日本酒を仕込む(一段仕込みから三段仕込みまで蔵によって仕込みが違う)
B:酒を割り水して、酢酸菌のスターターを入れて40℃前後に温める
C:瓶やタンクなどで2〜3ヶ月で発酵(静置発酵)させそこからさらに数ヶ月熟成させる

☆酒から仕込んで静置発酵させる伝統的な醸造法は現代では希少になっている
☆工業的に精製されたアルコール液を撹拌して酸素を送り込みながら高速発酵させる醸造法が現代の主流

▶食べかた
・酢の物に
・調味料として

▶食べられている地域
全国

▶微生物の種類
酢酸菌

旅のメモ

今回訪れたのは老舗の尾道造酢と、明治時代創業の杉田与次兵衛商店の2軒。
尾道造酢には資料館でしか見たことのないような巨大な瓶や醸造装置が今でも現役で使われており、造酢文化の生きたミュージアムのよう。かつては本格的な米酢もつくっていたが、昭和に入ってからはマヨネーズなどの原料となる洋酢や果実酢の製造がメインとなっている。

一方、杉田与次兵衛商店では伝統的な米酢を製造していて、この2軒をあわせてまわると尾道の酢の文化をうかがい知ることができるよ。


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