世の中には二通りの人間がいる。「一流」を見つける者と待ち続ける者だ

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「貧すれば鈍する」ということわざがある。
窮乏に立たされると頭が回らず常に後手にまわってしまう、という意。この言葉は「ブッキング」という行為において非常によく理解できるものだと思う。

「やはり知名度がないと…」という台詞を口にしたらいけない

イベントでも舞台でも出版でも、ブッキングをする人は常に「一流のひと」を探している。
なぜなら「一流のひと」をつかまえれば、集客できるし売れると思うからだ。
よくブイブイ言わせている先輩から「一流の人を選んで仕事をしなさい」と言われたりする。己の成長のために学ぶことが多いということなのだろう。

なので、人は常に「一流のひと」を探し、ブッキングしようとする。しかし逆に、一流でない人のブッキングの機会があると怯んでしまう。
「悪くはないのですが、知名度がないと集客が保証されないので…」
という言霊が、日々何千何万とプロデューサーや編集者の口から放たれ、社会に満ち満ちている。

そんでね、最近気づいたのよ。
「知名度がないと…」と反射的に口にしてしまう人は、その台詞に取り憑かれてしまい、その人の思う「一流」に出会えずにリターン・トゥ・フォーエバーしてしまうことに。

貧すれば鈍するプロセスを追ってみると

なぜそうなるのか。考察してみるぜ。
まず「一流である」というジャッジを分解してみるとこうなる。

・「一流である」と多くの人から認められている=知名度がある
・自分の価値観に照らし合わせて「この人は一流だ」と判断する

前者は「人気ランキング上位を選ぶ」という統計的な判断であり、後者は「私が良いと思うので選ぶ」という主観的な判断だ。
察しの良い人はもうおわかりだと思うが、前者がつまり「貧すれば鈍する」タイプのフォロワーになってしまうのであるよ。

それはなぜか。順を追って考えるとこうなる。
多くの人に認められるには、まず少ない人に認められる必要がある(←当たり前だけど)。で、その「少ない人」ってのは、他の人の判断をアテにできない。なので、自分で判断するわけだから、「少ない人」ってのは、つまり後者である。

少ない人がまず判断し、次に多くの人が判断する。
そうなると、当然少ない人に「先行者利益」が回ってくることになる。つまり、「多くの人にその判断を参照され、コピペされ、ファボられ、リンクされる」ということである。
すると、やがて少ない人の下す判断は「アイツのレコメンドは常に一流だ」とされる既成事実ができあがっていく。そうなると、より多くの人からの参照と、コピペと…(以下略)というループができあがっていく。
google検索一位になるとアクセスが圧倒的に集中し、ますます検索優先順位が盤石になっていくのと同じ「ポジティブスパイラル」のメカニズムがこれ。

目利きであることの重要性

では次に「アンタ一流だよ」とジャッジされる側の視点から考えてみよう。
彼/彼女のステップアップの多くは「目利きによる発掘」から始まる。好きでコツコツとやってきたことが「アンタの仕事、いいよ。私の友達にも広めたい」とピックアップされる。
次に、センスの良い目利きのセンスの良い友達(←類は友を呼ぶ理論)が、「アイツがオススメするんだから、ナイスなものに違いない」と思い、実際に良いものなので、またその友達に伝え…という「アラブの電話」が連鎖していくうちに、いつしか「多くの人が知るところ」となり、最初の輪のなかにいなかった人が「あの人をブッキングしたい」と思うようになる。

しかしその頃にはもうピックアップされた彼/彼女たちは多忙なのだね。だから仕事を選ばなければいけない。そうなった時にどの基準で選ぶか。

・恩のある人からの仕事
・ギャラの良い仕事
・↑のどっちでもないけど、面白そうな仕事

親兄弟を人質に取られているのではなければ、まずこの3つのなかから選ぶ。
一つめは言うまでもなく、目利きからのオファー。二つめはきっぷがいいクライアントからのオファー。では三つめはなにかというと、実は一つめと同じ。目利きからのオファーなのだな。多忙な合間を縫ってまでやりたいと思わせるには、卓越した視点と人柄が必要で、それを備えた人はつまり目利きということ。

ということで、仕事を選ぶ基準は実質二つ。目利きのオファーかきっぷがいいクライアントからのオファーにどちらかだ。

しかし。この二つも実質は同じなのだよ。
目利きとして成功する人は、きっぷが良いのである。というか、きっぷがいいから成功するのである。いくら資本力のあるクライアントであっても、担当スタッフが目利きができないと「買い叩き」をしようとするので、全然きっぷがいいことにならない。

つまり、良いブッキングに成功するのは常に目利きか、あるいは目利き、さもなければ目利きだ。

ここではっきりと明暗が別れる。
一流を見つける者と、誰かが一流を見つけるのを待ち続ける者だ。前者は常に「自分の価値に投資すること」をためらわないリスクテイカーであり、後者は「漁夫の利を狙うが、お鉢がまわってこない」というゼノンのパラドックスにおけるアキレスということになる。
成功の機会がないために、じわじわと貧していき、したがって鈍していくのであるよ。

つまりだ。
そのジレンマを解消するには「ここがロドスだ、ここで跳べ!」ということになる(←団塊の世代にとっては懐かしい表現では)。「みんなにとっての一流」を選ぶのでは遅すぎる。「自分にとっての一流」に賭けてみる。

良いブッキングをするためのこの先見の明を、「センス」といい、「美意識」という。
ヒラクはこの才能をもっている人を「目利き」として最高にリスペクトしているのだなあ。

(敦子さん、ナオくん、裕子さん。あなたたちのような人のことですよ)

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