40歳になりました。10年間の振り返りと新著予約開始のお知らせ

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40歳になりました。
ちょうど10年ほど前に本格的に発酵の仕事を始め、30代はずいぶん賑やかな10年間でした。
トピックスをいくつか分けて振り返ってみます。

発酵デザイナーになりました

2011年に公開したアニメ『てまえみそのうた』を一緒につくった五味醤油との出会いをきっかけに微生物の世界に魅了されデザイナーのキャリアをドロップアウト。東京農業大学に研究生として社会人入学。2014年に「もう僕は発酵の世界で生きていく」と決意して発酵デザイナーになりました。これが30歳の頃だったので、僕の30代はすなわち「発酵の世界に飛び込んだ10年」でした。

2015年には五味醤油のある山梨県に引っ越して、日本各地を仕事のフィールドとして本や映像をつくったり、展覧会や催事のキュレーションをしたり、商品開発や技術開発をしたり、観光プログラムのプロデュースをしたりとデザイナー時代の経験を活かしつつ、より広い領域で仕事をするように。これも発酵をきっかけに出会った醸造家や研究者、クリエイターやプロデューサーのお声がけのたまものです。

2017年に出版した『発酵文化人類学』が予想外の大ヒットになり、発酵業界だけでなく人文科学や自然科学の研究者、文学者やアーティストたちとの交流が始まり、より広い視点で発酵文化を捉えて活動をするように。その視点が結実したのは2019年にヒカリエd47 MUSEUMで企画した『発酵ツーリズム展』でした。47都道府県から51の発酵文化を紹介し、日本の歴史や気候風土と発酵文化のつながりを実物とともに可視化できたのは(死ぬほど大変でしたが)自分のキャリアにおいても最大の成果の一つなんじゃないかと思います。

2020年には『発酵ツーリズム展』でとんでもない売上を記録したミュージアムショップが、下北沢の再開発に誘致され『発酵デパートメント』としてオープン。コロナ禍のなかの発進でしたが、逆境を跳ね返して「発酵の聖地」「下北の新名所」と呼ばれるほどの人気店に。

各地のありとあらゆる発酵にまつわる商品が集うこのお店がプラットフォームになり、前述の『発酵ツーリズム展』が全国に展開していきます。本を書くなかで培ったローカルの調査の方法論と、お店をやるなかで培ったセレクトと流通の方法論、そして展覧会をやるなかで培った体系化の方法論が一体化して「発酵視点で日本を再発見する」という観光とアートと食の体験が融合したプログラムになっていきました(←それが今ココ)。

振り返ってみると、いっけん全然違うように見える知識や体験が時間をかけて調和してきて、僕にしかできないような不思議なキャリアが形成されてきたんだな…と感慨深い。そうか、発酵デザイナーはキャリアも時間をかけて醸していくものなのか…。

では備忘録も兼ねてこれまでの活動を振り返ってみます。

本を7冊出して、そのうち2冊が文庫になりました

2014年に絵本を制作してから、なんと7冊も本を出してました。そして今年2023年にはさらに2冊刊行予定。忙しかったはずなのに、いつ書いていたのかしら…

てまえみそのうた | 農文協 2014
→山梨の五味醤油とつくった歌って踊る発酵絵本シリーズ第一弾。みそがつくれるアニメDVD付きの絵本。グッドデザイン賞2014を受賞し、授賞式で五味醤油の兄妹と着ぐるみで踊りました。

おうちでかんたん こうじづくり | 農文協 2015
→歌って踊る発酵絵本シリーズ第二弾。麹のアニメDVDと作りかたのレシピがついた楽しい絵本。この絵本とともに2015-2016年にかけて100回以上の麹づくりワークショップを開催。

発酵菌ですぐできる!かんたん自由研究 | あかね書房 2016
→麹やパンなど、夏休みの自由研究用の実用発酵DIY絵本。制作中、ラボに実験機材が溢れかえってノイローゼ状態になりました。

発酵文化人類学 〜微生物から見た社会のカタチ | 木楽舎(のちにKADOKAWAで文庫化)2017
→はじめての一般向け読み物。発酵×文化人類学というマニアックな内容に関わらず、6万部を超すスマッシュヒットに。発売直後に行った全国55ヶ所を著者の自腹で回る巡業ツアーが出版業界でも話題になり、これ以降のインディペンデント出版のお手本の一つになったそうです。発酵デザイナーとしての活動の名刺代わりの一冊になりました。

日本発酵紀行 | D&DEPARTMENT PROJECT 2019
→47都道府県の知られざるローカル発酵を巡る紀行本。ヒカリエd47 MUSEUMの展示の公式書籍として制作されましたが、展覧会終了以降もロングセールスを続け、2万部を超すヒットに。2022年にはNHKのドキュメンタリー『発酵大国にっぽん』として映像化され、こちらも放送業界で数々の賞を受賞する話題作となりました。地味な内容ではありますが、読み物としては『発酵文化人類学』を超える輝きがある、自分でもなぜこんな本を書けたか謎の名作だと思ってます。

発酵する日本 | AOYAMA BOOK CULTIVATION 2020
→『日本発酵紀行』『発酵ツーリズム展』から生まれた写真集。青山ブックセンターと藤原印刷の立ち上げた異色の出版プロジェクトの第一弾。長野の藤原印刷に泊まり込みで印刷機の前で色校し続けたのも良い思い出。

発酵ツーリズムほくりく | Fuプロダクション 2022
→北陸で行われた発酵ツーリズム巡回展の公式書籍。旅行記とガイドブックが一体化した斬新な体裁。版元は展覧会のお膝元の福井新聞。北陸限定の取次でしたが全国の本屋さんから注文がきてビックリ!この本を読めば北陸の発酵旅に出たくなるはず。

【新著出るよ!】オッス!食国(おすくに )| KADOKAWA 2023
『日本発酵紀行』以来の本格的読み物。『発酵文化人類学』とほぼ同じボリュームの大著になりました。詳しい情報は記事の最後で。

☆『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』は台湾版が出版されました。もうすぐ韓国版や中国本土版、イタリア版やフランス版も出る予定です。すごーい!

5カ国で11の展覧会/展示に参加しました

日本/フランス/イタリアなど各地で展覧会をキュレーションしたり展示に作家として参加したりしました。僕は20歳の頃に美術作家を目指して勉強していた時期があり、発酵や微生物に関わる仕事をやっているのになぜか若い頃の夢を叶えていました。人生とは不思議なものよ…

全体のキュレーションとプロデュース

Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜 | d47 MUSEUM(東京 2019)
→47都道府県の発酵文化をデザインとして展示。会期3ヶ月で5万人を動員。この時期の渋谷は発酵ステッカーをmacに貼った若者がそこここにいたそうな(友人談。ホントかよ)。

Découvrir le Japon autrement avec la fermentation | Maison de la culture du Japon à Paris(フランス/パリ 2022)
→発酵ツーリズム展のパリでのミニ展示。3日間の展示でしたが大盛況でした。

Fermentation Tourism Hokuriku ~ 発酵から辿る北陸、海の道 | 金津創作の森(福井 2022)
→発酵ツーリズム展初の巡回展。47都道府県+北陸3県の発酵文化を体系化。観光プログラムも同時に展開。福井開催にも関わらず会期2ヶ月半で3万3000人を動員

Fermentation Tourism Tokyo ~ 発酵で旅する東京の森  | GREEN SPRINGS(東京 2022)
→多摩地域を中心とした東京の発酵文化を編集した展覧会。西東京の発酵スポットを巡る特別ツアーは競争率5倍の抽選に。会期一ヶ月で約8000人を動員。

作家として参加/ギャラリー展示

BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン | 東京都美術館(東京 2018)
→アニメ『おべんとうDAYS』を出品。音楽はGOING UNDER GROUNDの松本素生さん

日本発酵紀行写真展 re-edited | かもめブックス(東京 2019)
→僕の著書『日本発酵紀行』の写真と言葉で構成した展示。かもめブックスの前田さんが素敵に仕上げてくれました。

Highlighting Collective Movements | ARS ELECTRONICA (オーストリア/リンツ 2021)
→メディアアートの祭典アルスエレクトロニカのオンライン主体の特別企画に参加

OH!Bento – Japan Foundation Sydney(オーストラリア/シドニー 2023)
→『おべんとう展』のシドニー巡回に招聘。

■NukaBotプロジェクト
Broken Nature | Triennale Milano(イタリア/ミラノ 2018-2019)

トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう | 21_21 DESIGN SIGHT(東京2020-2021)
セカイは微生物に満ちている | 日本科学未来館(東京 2022〜2023
→ドミニク・チェンさん主導のもと、メディアアーティストのソン・ヨンアさんや城一裕さん、デザイナーの守屋輝一さんたちと開発したぬか床妖怪ロボットNukaBotを各地で展示。

世界各国でレクチャーや学会に参加しました

最初は地域のお母さんたちと始めた手前みそのワークショップから始まり、気づいたら世界のあちこちで料理家向けにレクチャーしたり学会に参加したりとたくさんのお声がけをもらうようになりました。そのなかの主要なものをメモしておきます。

International Probiotics Conference(ブタペスト/プラハ)への参加(2016-2019)
→2016年にたまたま僕の英語のインタビューを呼んだスロヴァキアの教授から、フェイスブックで「君、コウジカビに詳しいんだね。ハンガリーにも面白いカビの発酵文化あるよ」と声をかけてもらい、彼がチェアパーソンをやっていた「IPC(国際プロバイオティクス学会)」に参加。発酵関係の学位なんにも持ってないのにワークショップやレクチャーをしたら大好評で、2019年まで毎年呼んでもらって世界各地の研究者たちとワークショップやパネルディスカッションをご一緒しました。アカデミアの世界への扉を開けてもらった大事なきっかけです。

『発酵文化人類学』ヨーロッパツアー(2019)
→僕の本を呼んだフランスのミュージシャン/プランナーの仲野麻紀さんのオファーで、ヨーロッパ5カ国を巡る講演会とワークショップの旅に。バスクのCulinary Instituteや、パリのMCJPでのレクチャーや超満員。ハンガリーではフォーブスに取材してもらってなぜか超有名ファッションフォトグラファーに写真撮ってもらいました。ヨーロッパでの発酵熱の高まりを感じられてよかったです。

☆レポートはこちらから☆

Kojicon(アメリカ/オンライン)への参加(2022-2023)
→麹をテーマにした国際フォーラムのスピーカーとして招聘してもらいました。2022年は日本在住の日本人としては初の参加(オンラインですが)。麹の歴史と技術史を解説。大きな反響を呼びました(質問来すぎて大変だった)。Kojiが世界標準の言葉になるように頑張るぞ!と思わされた良い機会でした。

みんぱく講演会 「『目に見えないもの』と生きる ――食からみたヒトと微生物のかかわり」 への参加(2023)
→一回目の大学(早稲田大学)で文化人類学を学んで以降、ずっと憧れだったみんぱく(国立民族学博物館)のシンポジウムにスピーカーとしてお呼ばれしました。自然科学や食の学会にはたまに呼ばれるのですが、人文科学の分野でお声がけがあってビックリ。みんぱくの研究者の皆様にも「発酵×人類学」の視点に共感してもらったようです

他にも数え切れないぐらい様々な国際学会やシンポジウム、研究会に呼んでもらいました。僕自信は大学に所属している研究者ではないのですが、各領域の先端で活躍している皆様から科学的に世界を捉える視点、各地の研究者のコミュニティのネットワークや蓄積されたノウハウをお裾分けしてもらっています。ありがてぇ…

その他の活動いろいろ

他にも振り返ってみると本当に色んなことやっておりまして。時系列でまとめておきます。

アニメ/映像制作

発酵のうた(2010)
手前みそのうた(2011)
こうじのうた(2014)
→五味醤油&各地の醸造家や友人のミュージシャンと制作した発酵アニメシリーズ。なかでも『手前みそのうた』はNHKの「今日の料理」「おはよう日本」で特集されスマッシュヒット。Youtubeの再生数もとんでもないことになっている…!2011年公開から今に至るまで各地の食育プログラムに役立ててもらっているようです。ちなみに僕は全体の五味醤油6代目の五味仁さんと共同でプロデュース、あとはアニメ制作を担当しています。

きそうた(2015)
→農大在籍時に恩師から協力を打診された長野県木曽町のユニークな発酵文化を伝えるアニメーション。音楽は京都の音楽ユニットたゆたう。心に残る水彩画はイラストレーターのちうらまゆみさん。僕はプロデュースとアニメ制作全般の担当。

おべんとうDAYS(2018)
→東京都美術館『おべんとう展』の出品作品。おべんとうの国を旅する女の子とウサギ型ロボットを描いたおべんとうアニメ。音楽はGOING UNDER GROUNDの松本素生さん、ダンスの振付はダンスユニットflep funce! 僕はキャラクターとアニメ制作全部やってます(大変だった〜!)。

見えないもので世界はできているの歌(2022)
→金津創作の森『発酵ツーリズムほくりく』の展示会場でお披露目されたアニメ。展覧会の協賛をしてくれた天野エンザイムさんの企画で、制作&プロデュースはクリエイティブエージェンシーdofチームの皆様。歌は奇妙礼太郎さんと高井息吹さん。絵はフランスのポール・コックスさん。僕は原案づくりに協力させてもらいました。酵素を楽しく学べるアニメーションです。

ちなみに近日5年ぶりに全面プロデュースの新作アニメが公開予定。お楽しみに!

監修&プロデュース

Discover Japan 『すごいぜ!発酵』(2019)『ととのう発酵』(2021)まるごと監修
→雑誌Discover Japanの発酵特集号を編集部と一緒に全面監修。特濃の特集になりました。とりわけ『ととのう発酵』は情報を詰め込みすぎて確認作業が大変すぎて徹夜した覚えが…どちらも売上好調だったようでよかったよかった。

発酵大国にっぽん(2022)
→NHKのドキュメンタリー番組。僕の著書『日本発酵紀行』の映像作品です。秋田県八森のハタハタ漁、愛知県岡崎の八丁味噌、新潟県妙高のかんずり、伊豆諸島青ヶ島のあおちゅうの4つの土地を巡ってローカル発酵文化とその土地に生きる人々の暮らしの姿を切り取った地味深い作品です。新人監督篠田さんの熱意が実り、ATP賞テレビグランプリはじめ映像業界の賞を複数受賞。何度も再放送されるヒット作となったようです。僕はなんと!主演とナレーション役です。

こうふはっこうマルシェ(2018〜)
→僕のホーム山梨県の甲府市で毎年開催される発酵をテーマにしたマルシェイベント。全国から発酵仲間たちが集まり、DJみそしるとMCごはんやU-zhaan、坂本美雨さんなど豪華ミュージシャンも登場。僕は五味醤油の兄妹と一緒に企画プロデュースに参画。一日で2万人近くが来場するする山梨の名物フェスに。

阪神百貨店の発酵イベント(2019〜)
→阪神百貨店の催事場で毎年のように催事をプロデュースしています。きっかけは関西の飲み友だちの阪神百貨店催事担当の吉田おじさん。2022年の催事『発酵ツーリズム in 阪神百貨店』では発酵デパートメントが初めての県外出店。とんでもない売上を叩き出しました。期間中毎晩のようにクセ強関西勢と飲み倒して肝臓の限界に挑戦した…!

発酵デパートメント(2020〜)
→東京下北沢にオープンした発酵専門店。日本&世界各地から600点を超える発酵食品が集っています。レストランスペースとWEBショップもあり「発酵の聖地」「下北沢の新名所」と呼ばれる人気スポットになったらしいです(やってる本人たちは必死すぎてよくわからない)。僕はオーナーかつ代表かつ最大株主で、日々実業の楽しさと厳しさを味わっています(ついでにとんでもない借金もしたよ)。みんな来てね!

番組・連載

発酵文化人類学 | ソトコト(2015〜2018)
発酵トラベルノート | アマノ食堂(2015〜2019)
日本各地の手前みそ | 日本商工新聞(2020〜2021)
発酵ツーリズムほくりく | 月間Fu(2021〜2022)
日本全国発酵の旅 | 月間清流(2021〜)
→WEBマガジンや新聞、雑誌の連載

発酵兄妹のCOZY TALK | YBSラジオ(2015〜)
ラジオ #ただいま発酵中 | ポッドキャスト (2021〜)
→僕のライフワーク、ラジオ番組のパーソナリティ。COZY TALKは五味醤油の兄妹とお届けしているもうすぐ400回達成の山梨の名物番組。#ただいま発酵中はバックパッカーズジャパンのいっしーを相方に、リスナー1万人を越える食系ポッドキャストの定番になりました。

ちなみに2022年にはなんと!日本酒の国際的なアンバサダーである酒サムライにも叙任してもらいました。発酵を全人類に伝える役割、がんばります!

10年間ありがとう。そして新著の予約販売スタート!

30代はよく働き、よく遊び、よく旅した10年間でした。これだけ集中して色んなジャンルで結果を出せた10年は本当に奇跡だったなと思います。

あまりにも挑戦しすぎて体がボロボロになったので、40代はもうちょっと余裕を持ってゆったり生きたいな…と思っています(ほんとに)。とりわけ30代後半、大規模な展覧会やお店をやるようになってからはチーム戦になってきているので、周りを活かす仕事にシフトしていくぞ!

ということで。最後にお知らせです。
今日から新著『オッス!食国(おすくに)』の予約販売祭りをスタートします。

ラジオ #ただいま発酵中 を協賛してくれているVALUE BOOKSの飯田さんが狂気の予約ページを立ち上げてくれました。僕の本を買うとなぜか発酵食品がついてくる…だと…?

『発酵文化人類学』以来の大著、誕生日祝いにぜひ予約してやってください。

☆☆予約はこちらから☆☆

次の40代もみんなよろしくね!

2023年5月15日 小倉ヒラク記す
醸造家はじめ全国全世界の友人に感謝を込めて

photo by いっしー

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