【47発酵ツーリズム】味噌汁の味は、その土地のプライド。八丁味噌

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愛知の発酵ツーリズム:
八丁味噌(愛知県岡崎市八帖地区)| まるや&カクキュー

大陸とつながる味噌の原風景


発酵途中の八丁味噌。めちゃ濃厚な匂いがする…!

八丁味噌は東海地方で食べられている豆味噌のいちバリエーション。愛知県岡崎市の八帖地区で400年以上に渡ってつくられてきたユニークなローカル味噌だ。

日本全国で食べられている米味噌では、蒸した大豆に別の場所でつくった米麹を混ぜて仕込む(なお、麹の原料を麦に変えると九州〜瀬戸内で食べられる麦味噌になる)。しかし八丁味噌は蒸した大豆にそのままカビつけして豆麹にし、そこに塩水を加えてペーストにして味噌に醸していく。つまり日本の味噌のスタンダードになっている「別工程で麹をつくって大豆と合わせる」というプロセスがない。大豆が成り行きで味噌になるという特異なスタイルなのだね。

この「成り行きで大豆が麹になり、そこに塩を加えて味噌にする」というスタイルは実は大陸系の味噌の系譜。韓国のテンジャンなどと共通する部分が多い。
中国や韓国を始めとする東アジアの発酵カビは、酸などを出して外敵から身を守る力が強く、野外環境でも麹のようなスターターをつくることができる。ところが日本のコウジカビは雑菌の汚染を受けやすいため、麹室(こうじむろ)という隔離した空間で麹をつくるようになった。その結果生まれたのが、原料の豆と麹を分離する日本式の味噌だ。

しかし八丁味噌はなぜか成り行きで発酵する、大陸から渡ってきたであろう味噌のルーツを残している。甘い米や麦の麹を入れないので、超濃厚な旨味が凝縮されたディープなコクが出て、はじめてリアル八丁味噌でつくった味噌汁を飲んだ時に

「おお、南インドのスープカレーみたいだ…!」

と叫んだのを覚えている。つまり他の味噌とは一線どころか八線くらい画した独自すぎる風味なのだね。

そんな独自すぎる八丁味噌は、岡崎をはじめ愛知・東海一帯でこよなく愛されている。単に「美味しい」を超えて、土地の人のアイデンティティを形成するソウルフード。

そう。味噌汁の味は、その土地のプライドなのだ。

どうやってつくる/食べる?

▶How to 仕込み
A:煮た大豆を潰して玉にし、そこにコウジカビを生やして豆麹とする
B:豆麹を塩水を混ぜてペーストにして木桶に仕込み、上から石を詰んで酸素を抜く
C:最低2年以上熟成させて完成とする

ポイントはBの「石積み」とCの「二年以上の熟成」。
【B】ピラミッドのように石の重しをすることで、桶のなかから酸素を抜き、イヤな匂いを発生させる菌の働きを抑える(専門的に言うと嫌気発酵を促す)。それでも残る、桶表面のはじっこの空気に触れる部分はある程度除去して出荷するそう。
【C】二年以上じゅうぶんに熟成させると、出荷してからも味が変質しにくい。つまり発酵がほぼ完成しているので、保存食としての機能性が高くなる。冷蔵庫がない時代から続く味噌ならではの知恵だ。

▶食べかた
・味噌汁にする
・うどんを始め、煮込み料理の調味料とする
・野菜や豆腐などに塗って田楽にする

僕のフェーバリットは、二日酔いの翌日にしじみやアサリなど貝類とあわせて味噌汁をつくって一息に飲み干すスタイル。体内のアルコールが一気に抜けていく!(錯覚だけど)

▶食べられている地域
東海地方一帯

☆他の味噌などと合わせて食べやすくした赤だしスタイルは関西でも好まれている
☆九州の甘い麦味噌で育った人と八丁味噌文化圏の人が結婚すると、味噌汁の味をめぐって家庭内紛争が起こることもある。汗

▶微生物の種類
コウジカビ(Oryzae系ではなくSojae系)、蔵に棲み着く野生の耐塩性乳酸菌、酵母類

旅のメモ

八丁味噌の名前の由来は、徳川家康の出生地である岡崎城下の八帖地区で400年にわたって製造してきた歴史から。徳川の武家好みの濃厚な味を代々守ってきたのが、まるやとカクキューの2つの蔵だ。この二社は旧東海道を挟んで隣り合っている。上の写真でいえば、東海道の右側がカクキュー、左側がまるや。道の幅は約4メートル程だが、この4mで微生物の生態系がガラッと変わる。共通した原料、製法で醸すのにまるやとカクキューの味噌の味は明確に個性が違う。

この微生物の個性の違いによって、二社は長い間マーケットの奪い合いをすることなく共存することができた。まるやの名物社長の浅井さんいわく、

「2つの蔵はライバルですが、同時に一緒に伝統を守ってきた者同士として尊敬しあっています」

とのこと。スピッツとミスチルみたいでカッコいい…!

大豆だけでつくる豆味噌というカテゴリー自体が東海に限定されているのに、さらにこの岡崎という地域の制限を受けながら独自性を磨き続けた老舗の2蔵は、日本の文化において発酵文化が果たす役割の大事さを理屈無用で教えてくれる。

長い長い時間の流れが、桶の上に積まれた石のように組み上げられて、その土地の味覚、そして精神性を醸し出している。つまり、尊い…!尊すぎる…!!

ちなみに今回の取材には、めちゃ好奇心いっぱいの岡崎ガールズチームと、岡崎に引っ越した山梨生まれの飯田圭くんはじめ地元の人たちにお世話になりました。また岡崎で会いましょう。


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