元才女おばさん。アラサークリエイティブ女子が直面する危機のその先。

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あなたは「元才女おばさん」をご存知だろうか?
言うまでもなくあなたは「元才女おばさん」のことを知らないだろう。なぜなら僕の造語だからね!

「はじめて聞いたワードですが、なぜか心がザワつきます…」
「ていうか、それ、私のこと…!?」

うん。詳細は知らないが、きっとそうなのだろう。
元才女おばさんは、貴女の身の回りにけっこういる。そして今僕のブログを読んでいる他ならぬ貴女のなかにも……

なぜかとっ散らかるキャリア

去年から今年にかけて、立て続けに「若い時に華々しいキャリアを送り、その後迷走した三十代後半〜四十代の女性」に会う機会があった。

「海外に留学したあとジュエリーデザイナーになって…」

おお。めちゃスゴいですね!それで?

「通訳になって…」

ふむふむ!海外の経験が役に立ちましたね。それで?

「外資系の秘書になりました」

なんと!そのままエグゼクティブ界入りですか!? めちゃすごい!

…しかしなぜか今は特に大企業でもない会社の一般事務の仕事をしていたりする。もちろん人生において仕事のプライオリティは様々なので、本人がそれで納得していればいいのだが、話を聞く感じだとそうではない。危機感を感じて資格取得に走ったりするのだが、アロマの資格を取ったと思いきや、その次に経理の資格を取ったりして妙にとっ散らかっていたりする。

そう。その女性たちのキャリアを一言で表現するならば

「とっ散らかっている」

なのであるよ。知的だし、雰囲気も明るいし、見た目も若々しくなんならめちゃ美人で知識の引き出しも多い。しかし話しているとなぜかとっ散らかってくる。

「ワタシ…もう続きを聞きたくないです!」

わかっているよ。この話がある種の女子にとってハードコアな内容だということを。かくいう僕もずっとこのブログの下書きを公開することなく二ヶ月近く寝かしておいたんだ。だから無理せずこのへんで僕のブログを読むのをやめてブックマークに登録しているしいたけ占いのリンクをクリックしてくれたまえ。

そして二度と僕のことは思い出さないでくれたまえ。アデュー。

アラサークリエティブ女子の危機

さて。
華々しいキャリア変遷を経て、なぜかとっ散らかってしまった30代後半〜40代女性。これが元才女おばさんの定義。

元才女おばさんは現代日本における「女子の袋小路」の典型例のひとつだ。
その袋小路への分岐点は30歳前後。
そして異界へのドアを開けてしまうのは才能あふれるクリエイティブ女子なんだね。

チャーミングで、お洒落で、話も文章書くのもうまくて、なんならカメラマン級の写真も撮れて、全国各地にイケてる人脈を持ち、息しているだけで人が寄ってくるようなセンスフルなクリエイティブ女子。

大変羨ましい才能だが、しかし!アラサーを境に、その才能が真綿で首を絞めるように女子のキャリアを殺すことがある。凡人には想像もつかないことだが、才能は人を殺すのであるよ

それはどのような事態だろうか。
「なんでもできてしまう」が「とっ散らかる」にクラスチェンジするという危機だ。

選ばれしクリエイティブ女子は色んなことが「できてしまう」。そしてできてしまうゆえに、捨てること、絞ることができない。自分がやるべきことのプライオリティをつけることができない。

20代半ばすぎくらいまでは「マルチな才能の子猫ちゃん」という期間限定カテゴリーがあるが、いい年したオトナになってくると何か目指すべき道を見つける必要が出てくる。

そしてその猫さまは獏とした悩みを抱える。

「いったいワタシって、何者…?」

これが世にいうアラサークリエイティブ女子・アイデンティティクライシス問題だ(言っているのは僕しかいないが)。

アラサークリエイティブ女子が迷走すると元才女おばさんになる

アラサークリエイティブ女子が迷走する理由は、高確率で「自己承認欲求と自分の幸せが切り分けられない」という、自我のとっ散らかりだ。

「人から必要とされる、評価される」という事にあれこれ手を出し続けていると「マルチタレント」が劣化して「迷走している人」になる。なぜなら二十代の時に地道に下積みしてきた同年代が各領域のエキスパートとして頭角を現しはじめるからだ。

この時に苦難のアラサークリエイティブ女子が取る道は、

A:自分がこれだ!と思う分野を突き詰める
B:仕事以外のことに自分のアイデンティティを見出す
C:さらに色んなことに手を出してはやめるリピートにハマる

の3つで、残念ながらAの可能性が一番低く、Cの可能性が一番高い
(Cをさらにこじらせるとアヤしい自己啓発やスピリチュアル系のアクティビティにハマったりする)

「捨てる」「絞る」ということをしないままものの十年ほど経つとクリエイティブ女子は元才女おばさんにジョブチェンジすることになる。

「ヤバい…!ワタシ、元才女おばさんになりかけてる…てかもうなってる…?」

そうかもしれない。そして僕にはもうどうすることもできない。
「人に承認されること」を原動力に生きてきた人が、いい歳になって「自分で自分を承認する」人生にギアチェンジをするのはめちゃ難しい。
たとえば出産・育児と仕事をいい感じに両立するならば、説得力のあるキャリアを積み上げて労働時間に縛られず結果を出せるポジションをゲットするのが望ましい(あともちろんパートナーの協力も)。有能なクリエイティブ女子なら楽勝でいけそうな感じもするが、しかし「積み上げ」に必要な「捨てる」「絞る」スキルをおざなりにすると仕事を変えるたび「積み上げ」ではなく「迷走」になる。

二十代の時にサクッとジュエリーデザイナーになったり外資系の秘書になったりしたのは「みんなに認められる自分」になりたかったからであり、その道を極めなかったのは「もう目的を果たしてしまったから」だ。そのまま自己承認ジプシーで彷徨っているうちに、仕事では「認めてもらえる自分」になれなくなってくるので、性急な恋愛や結婚に走ってしまうかもしれない。

しかしその愛も仕事と同じで「自分を認めてもらうため」のものだから、やがて自分自身が飽きるか、あるいは相手がツラくなってギブアップしてしまうかもしれない。だって、相手もまた「僕のことも認めてほしい」と思っているのだもの。人間だもの。

・なぜKEYくんは「隣り合って」座るのか?『東京タラレバ娘』の倫子さんが不憫すぎる件

愛や仕事をジプシーとして彷徨ううちに、深い疲れがやってくる。かつて自分が簡単に手に入れられたものがいくら望んでも手に入らなくなり、ようやく何かつかめたと思ったらかつてのようにキラキラで形の整ったものではなく、どこかいびつで若干腐ったようなものだったりする。かつての記憶があるぶんだけ、自分がいま掴んでいるそれを直視するのはツラいかもしれない(しかしそのいびつさや若干腐った感じは己の写し鏡でもある)。

けれども。深く考えず手を出したその愛やキャリアがいったんおじゃんになった時、あらためて貴女が向かい合う人間関係、向かい合う仕事のありかたこそが、ほんとうの意味での「自分自身の人生のスタート地点」なのかもしれない。どうか資格取得とかに走ってその大事な「スタート地点」を見過ごさないでほしい。どうかあなた自身の幸せの道を歩いていってほしい。

…と後半はなかばトランス状態で書いてしまったが、これは僕小倉ヒラクが書いたものではない。天から使わされたメッセージがたまたま僕に憑依した or 通りがかりの柴犬がそうやってワンワン吠えていただけだと思って一笑に付してくれたまえ。

コスモスの花が咲く頃にまた会おう。アデュー。

【追記1】なおこのエントリーの完成にあたっては上勝のまちづくりプロデューサーの大西正泰さんにたくさんの助言をもらいました。元才女おばさんの心情を知り尽くした大西おじさんのいる徳島県上勝では絶賛有能な移住者を募集中だそうです。

【追記2】仲良しのクラシコム青木耕平おじさんが「元才女おばさんもアラサークリエイティブ女子も社会の宝!迷走するのは社会の仕組みのせいだ。ウチならその女子たちの能力を腐らせはしない!」と切々と訴えておりました。興味のあるスキルフルな貴女はぜひ青木さんの会社に注目してみるのはいかがでしょうか?

【追記3】とあるイベントで元才女おばさんの話をしたら、参加者の男子から「これは女性に限りません!オトコにもこの罠ある〜!」とコメントもらいました。うん、多分これは現代日本における典型例なのかもしれませんね。ちなみに「元才女おばさん」と対になるエントリーはこちら。「話聞いてもらえるおじさん」の講演会の最前列で熱心にメモを取る。それが元才女おばさん…!

・話聞いてもらえるおじさん。

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