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冬は燗酒でカラダを温める。日本酒の幸せすぎる飲みかたガイド

僕、日本酒を温めて飲むのが好きなんです。

一般的に「良い日本酒」って、キリッと冷やして飲むイメージあるじゃないですか。
もちろんそれも悪くないんだけど、僕は声を大にして言いたい。

幸せになりたかったら、燗酒を飲むべし!

以下、その理由を説明しようではないか。

燗酒はロングタイム飲み向き

実は「冷やして飲む日本酒」という文化は、冷蔵庫が普及した割と最近の時代のもの。
その前は、常温あるいは湯煎で温めて飲んでいた(←これを燗酒と言う)。
冬は、囲炉裏でこさえた燗酒でカラダを温めるのが季節の風物詩だったそうな。

でね。
燗酒は生理的に見てもグルメ的に見ても非常に優れた日本酒の楽しみかたなのだね。

まず「生理的なメリット」から説明しよう。
お酒のアルコールは体温に近い温度の時に吸収されやすい。ということは、冷酒を飲んだ場合、しばらく胃腸でアルコールを温める「リードタイム」が発生する。このリードタイムのあいだにいっぱいお酒を飲んでしまうと、リードタイム終了時にいきなり酔っ払い切ってしまうという「膝からガックリ現象」が起きるのであるよ。
※冷たいアルコールの方が吸収されやすいという説もあるのだけれど、冷たい温度は胃腸の消化機能が低下してしまうのでどうなのであろうか。詳しい人教えてください

「日本酒飲んで前後不覚になりました」という「日本酒ビギナーあるある」は、飲みやすい冷酒を「いくらでも飲める〜」とクイクイ飲んでしまうことから起こる。

対して燗酒はどうであろうか。
アルコールが胃腸に取り込まれると、リアルタイムに吸収されていく。つまりリアルタイムに酔いが進行するわけで、さらに言えば「自分がどれくらい酔っているのか把握しながら飲める」ということになる。もっと掘り下げるならば「酔いをコントロールしながら長い時間楽しめる」ので、酒を愛で尽くしたい発酵ラバーにとって最高の飲みかたであると言える。

「お酒なんてろくでもないものを、よりによって長時間楽しみたい?バカじゃないの!?」

まあ否定はしないぜ。

燗酒の酔いはユーフォリア(多幸)感ある

次にグルメ的なメリットについて。
日本酒の主原料である麹(こうじ)の旨味を味わうには、温めて飲むのが最適なのだね。

日本酒は複雑な酒であるので、様々な風味がある。
冷やして飲む吟醸酒(磨いた米で醸した高級酒)の特徴は、フルーツのような上品な香りとスッキリした飲みくちだ。これが一般的に言われる「良い酒の特徴」とされる。

しかしだな。他にも日本酒特有のナイスな風味がある。
丁寧に作られた日本酒を温めて飲むと、麹の持つふくよかな旨味とビロードのように繊細な甘い香りが際立ってくる。この風味は言わば「甘酒の旨味」だ。

燗酒は、日本酒のもとが甘酒であることを想起させてくる。冷酒のようにクイクイ飲むのではなく、ちびりちびりと時間をかけて飲んでじっくり味わう。

さらにだ。
燗酒は食中酒(料理といっしょに楽しむ酒)としても優れている。
冷酒はとても美味しいのだが、ずっと飲んでいると舌が冷えて料理の味を判別しにくくなるという難点がある。程よい温度(40℃〜50℃)くらいの燗酒の場合には冷酒のような事は起こらず、しかも麹の旨味と甘味が料理の味を優しく包んでくれてサイコーな感じになる。

料理とともにじっくり燗酒を味わっていると、小一時間が経過したあたりからナゾの「多幸感」が押し寄せてくる。

「理由はないけど、生きててよかった!」

という、IQ低めの快楽が全身から立ちのぼってくる。この「日本酒ゾーン」に入ると、地方の小料理屋のカウンターでひとりで飲んでいても幸せだし、家のコタツで友だちと飲んでいても

「お前、前々から言おうと思ってたんだけど、ほんといいヤツだよな」
「何言ってんだよ、頼むからオレより先に死なないでくれよな」

みたいなテンションでサイコーにハッピーでキモい感じになる。
同様に出会いたての男女も燗酒を酌み交わすと突如深い仲になるかもしれない。

同じ醸造酒であるワインと日本酒の最大の違いは、この「酔いかたの底抜けのハッピーさ」にあると僕は思っている。ワインと違って酒飲みながらの議論はできないが、とにかく楽しく仲良く飲むのに最適なのであるよ。

ということで、年末年始はドテラ羽織ってコタツで燗酒飲んでダラダラしてね。

【追記1】最初の1〜2杯を冷酒、その後燗酒に切り替えるという「ハイブリッド飲み」が僕のお気に入りの日本酒の飲みかた。なので冷でも燗でも美味しい日本酒を重宝してます。

【追記2】燗酒の極意は、西粟倉の酒屋「日本酒うらら」の道前さんと、農大の保坂先生に習いいました。燗酒最高〜!

【追記3】燗酒だろうか何だろうが飲み過ぎるとふつか酔いになるよ。

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