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あるべきところに戻る。クリエイティビティの時代性

今年の仕事納めは、トークイベント出演。
先週末に友だちのNPOミラツク主催のフォーラムでデザインについて話してきた。

これまた友人でリスペクトしまくりのデザイナー、NOSIGNER代表の太刀川さんに声をかけてもらって、宮城県松島の銘菓、松華堂の千葉さん、建設や介護事業で驚くべきイノベーションを起こしているシルバーウッドの下河原さんと4人でのトークセッションだったのだけどさ。

トークの内容はデザインを中心に多岐にわたったのだけど、そのなかで気になったトピックスがある。それは「あるべきところに戻る」という感覚だ。

あるべきところに戻る

宮城県松島にあるお菓子屋さん、松華堂の千葉さんは店舗を観光客だけでなく地元の人も集えるカフェにして、そこを拠点に地元の花火祭りをデザインし直し、お菓子屋さんでありながら「地域の精神的な拠りどころ」をつくろうとしている。

合理的な建築工法を販売することを足がかりに、高齢者住宅の運営事業に進出したシルバーウッドの下河原さんは、従来の「お年寄りを安全に閉じ込めるための施設」を否定し、認知症のお年寄りが人間らしく暮らせて、かつ地域の子どもたちと交流できる場所をつくった。

このブログを読んでいる人にはおなじみのNOSIGNERは、地域の伝統工業や社会福祉、教育や防災などの社会事業において革新的なデザインをいくつも手がけている。

この三者に共通するのは「あるべきところに戻る」という感覚だ。

千葉さんが観光イベントになっていた花火大会を、灯篭流しや盆踊りを主とする「鎮魂のための祭り」にデザインしたのは「祭りのあるべきところ」を目指したからだ。
下河原さんが病院のように無機質な高齢者施設を、暖かいデザインと地域に開かれた場所に変えたことで、施設のあちこちに人が集って談笑するようになった。「談話室に誰も集まらないのはおかしい。談話する場所なのだから」と下河原さんが言うのは、「コミュニティのあるべきところ」を目指したからだ。
太刀川さんは従来までのデザイナーの作家性を否定し「課題に対して適切に機能するデザイン」を突き詰めたのは「デザインのあるべきところ」を目指したからだ。

「創造性」という定義の時代性

三者ともにたいへんクリエイティブな人たちなのだけど、彼らは「自分のタレントによって新たなものをつくる」という志向を持たない。
彼らの創造性は「今自分が対象としているそれは、いったい何を起源とし、どんな願いから生まれたのか」という、「ルーツへの遡及」に向かって開かれている。

クリエイティビティには時代性がある。
「己の才によって新たなものを生み出す」というクリエイティビティは時代性を失い、「起源を紐解き、価値を再定義する」というクリエイティビティが時代性を獲得した。

この時代にあって、いわゆる「クリエイション」は創造ではなく、字義を紐解くような「リファレンス」が創造になった。

この転換は、めちゃ長い時間軸で見てみると普遍性がある。
中世ヨーロッパにおけるルネッサンスも、江戸時代における国学の隆盛も実は「あるべきところに戻る」ためのムーブメントだった。ヨーロッパは古代ギリシャに帰り、江戸は古代アジアに帰る。そこが次世代へのイノベーションを成し遂げる力の源泉であると、ルネッサンスを目指すクリエイターたちは信じたのであるよ。

そう考えてみると。
新たな時代を切り開くのは「アヴァンギャルドな保守主義者」であり「ルーツに戻るためにテクノロジーを行使するデザイナー」なのかもしれない。

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