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「共感する力」という宝物。もともと自分のものでないからこそ大事にしたいこと。

社会人になって、デザインを始めたばかりの頃のこと。

当時新興ベンチャーのスキンケア会社『あきゅらいず美養品』に入社して、最初にやった仕事が「ナイスな印刷会社さんを見つける」ということでした。

通販の会社のDMや販促物の印刷って、専門の印刷会社さんではなくて「宛名管理から発送までまるっとやりますよ」的な「DM会社」さんにお願いすることが多い。便利は便利なんだけど、印刷のクオリティがあんまり良くなかったりするのね。

で。僕が入社して制作部に入った時にビックリしたのが「色校が…出ないッ!」ということでした(色校ってのは、写真や画像の色を試し刷りして、思い通りの色に調整していく工程)。
スキンケアの会社はクリエイティブが肝なのに、こんなんじゃマズいとうことで、出版社をやっているヒラク父の口利きで紹介してもらったのが共同印刷さんでした。

そこで僕たちの担当をしてくれたのが、なんと資生堂の広報誌『花椿』を手がけているチーム。そこから僕が独立する三年間のあいだ、共同印刷の皆さんに本当によくしてもらいました(たまに小石川の赤ちょうちんに呼んでもらっておじさん達と飲むのが楽しみだった。スキンケア業界は女子ばかりだからね)。

印刷のそもそもの仕組み、印刷がスムーズにできるデザインデータの作りかた、紙や印刷方法の選びかた、画像調整の方法など、紙のデザインをする上での基本を学べたのは本当に幸運なことでした。

で。
振り返ってみれば、この時共同印刷さんに教えてもらったのは、単なる技術だけではなくて。
「自分の仕事が成り立つように頑張ってくれているひとがいる」ということだったのね。

デザイナーって、なにかと傲慢になりがちなんですよ。
印刷会社さんをはじめとして、関わる人たちは「発注業者」であり、自分が全てをコントロールしている、と思ってしまったりする(←当時の僕はきっとそう思っていた)。

でも、そうじゃない。
むしろ逆で、印刷技術やパッケージや素材の成形技術や加工技術という「基本のインフラ」がまずあって、それをチョイスしていくということでデザイナーの仕事が成り立っている。

要は、「たまたま上澄みを掬っている」だけ。
色んな会社や専門家の積み上げてきた技術を「ちょっとお借りします。すいませんね」というカタチで自分の存在できているわけです。

20代半ばまでの僕は本当にしょうもないダメ野郎で、「自分が自分として振る舞うことを支えていてくれる人たち」という存在に目を向けようとしなかった。
自分のセンスや発想で社会の何かを変えられると思っていたし、それは特権的な仕事なのだと思っていた(←困ったもんだね)。

そうやって生意気なまま独立して、見事に仕事がなくてどん底になったのも、今となってみれば必要なことだった。

会社という後ろ盾があるからこそ、印刷会社の担当さんは色々親切にしてくれるわけだし、自分が動かなくても仕事は降ってくる。でも、後ろ盾が外れて自分が裸になった時に、そこにはただの生意気な若造がいるだけ。

キャリアもスキルもマナーもない「何も持たない自分」というところからキャリアをスタートすることができて、本当によかったなと思う。

東京の「いわゆるデザイン業界」にアクセスすることができない状態で出会った、日本各地の一次産業や伝統文化に携わる「ものづくり」に関わる人たち。
結果的に僕のキャリアを育ててくれたこの人たちから習ったことも、共同印刷さんと一緒で「自分が生きていることを支えている現場がある」ということ。

食べ物だって、食べ物を盛る器だって、器を置く机だって、お店にいってお金と引き換えに手に入れる「商品」ではなく、原料を育て、それを何世代もかけて継承した技術で加工して、地道に営業して売っている「無数のひと」がいっしょうけんめい働いて存在している。

そういうモノを使って自分の暮らしが成り立っている。
文章にしたらシンプルなことだけれど、身体を使って実感するのには何年もかかる。そういう得難い体験を、独立したばかりの頃にしたことで得たものがある。

それは、「共感する力」というヤツだ。
共感というのは「当たり前に思える事象の裏側にある、色んなひとの想いや努力」についてイメージする、ということ。

今の僕の仕事の源泉として、この「共感する力」を大事にしている。それはなぜかというと、「後天的に得たもの」だから。
自分以外のことを顧みることがない、生意気な若造に付き合ってくれた色んな人たちが、僕に「共感する力」という宝物を授けてくれた。

もともと持っていないものだからこそ、人生をかけて大事にしたいと思うものがある。
それはつまり、「仁義を切る」ということなのだ。

(なんか独り言のようなエントリーになってしまった…!)

 

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