「カルピス」のひみつを紐解く!発酵ツーリズム展 × 乳酸発酵

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後半戦に入った渋谷ヒカリエ発酵ツーリズム展。
全国のローカル発酵文化を探し出し、発酵という視点から日本の多様性を体系化していく。

見に行ってくれた人ならおわかりのとおり、けっこう壮大な企画です。
でね。企画した本人が言うのもなんですけど、かなり公共性の高いプロジェクトなので、行政のサポートとかもらっても良さそうなんですが、100%インデペンデント、民間事業として自分たちで資金を集めて開催したんです。

それが可能になったのは、クラウドファンディングで支援してくれた個人のみんな。
そして、展覧会スポンサーになってくれた志ある企業の皆さまです。
アヴァンギャルドすぎる内容にもかかわらず、意義を感じてくれた素晴らしい企業にこの展示は支えられています(しかも費用対効果の見返りをほとんど求めずに涙)。

本当にありがとうございます。もう感謝しかない…!
ということで。僕のブログの場を借りて、この展覧会のメインスポンサーになってくれた3社、アサヒ飲料さん(「カルピス」の製造販売)、環境ダイゼン(きえーる)さん、糀屋三左衛門(ビオック)さんについて、恩返しも兼ねてエントリーを書いていきたいと思います。

全3回のシリーズ、まずは「カルピス」から!

日本の近代発酵カルチャーの先駆け、「カルピス」!

「えっ、そもそもなんで発酵の展覧会のスポンサーに『カルピス』が?」

「カルピス」って発酵食品なんですよ。
しかもみんなが思っているより歴史長い(今年で100年目)。実は明治以降の日本の近代発酵カルチャーの先駆けとして、「カルピス」は大きな意義を持つプロダクトなんだね。

いきなり壮大な話になって申し訳ないのだが。「カルピス」を語るためには、日本における近代の黎明期から語らねばならない。

微生物界の巨人の一人にメチニコフという超奇人がいます。彼は免疫システムの存在に気づいた先駆的な生物学者なのですが、晩年はヨーグルトにめちゃくちゃハマっていました。

当時ブルガリアのローカル発酵食だったヨーグルトを「これを食べれば乳酸菌が腸内を腐敗させる菌が繁殖しないようにさせる。つまり不老長寿食である!」と大絶賛し、世界各地に「第一次乳酸菌ブーム」を巻き起こしました。

このブームの余波は日本にも及び、1912年には大隈重信(←僕の母校早稲田大学の創設者)の強力プッシュのもとメチニコフの論考を『不老長寿論』というタイトルで翻訳。

「日本人の健康を乳酸菌で健康にするぞ!」

と気合を入れたのか、1914年には大隈重信は首相に返り咲き、日本における乳酸菌ブームを推進していきます。
この20世紀初頭のこのムーブメントに前後して誕生したのが東欧由来のヨーグルトのみならず、アジアでも家畜の乳を使った独自の乳酸発酵カルチャーを持つモンゴルの遊牧民族の食文化にインスピレーションを得て生まれた「カルピス」だったりするんですね。

みんな、知ってた?「カルピス」って歴史ある発酵食品なんですよー!!

工場見学行って、どんな発酵してるか調べてきました


岡山にある製造工場に行ってきたよ!

ということで。スポンサーになってもらった権限(?)を活かし、ずっと前から行ってみたかった「カルピス」の製造現場の見学に行ってきました。で実は「カルピス」はヒラク家の常備品。朝に炭酸水で割って飲んだり、夜にお酒で割って飲んだりするのがお気に入りなのさ!

▶「カルピス」の発酵の原理
それでは「カルピス」の発酵原理を解説していこう(案内してくた斎藤さん、ありがとうございます!)。

まず生乳(スーパーで売っている牛乳のような加熱殺菌をしていないもの)をタンクに入れ、脂肪分を取り除く。なんで脂肪分を取り除くか聞いてみると、

「脂肪分を取り除かないとうまく発酵しなかったり、発酵が安定しなかったり。製品にする時に油分が浮いてきてしまうこともある」

からだそう。「カルピス」はキレイな液状で仕上げたいので脂肪分を取り除くわけだ。

次にタンクで一回目の発酵をさせていく。乳に乳酸菌をつけて増殖させ、酸っぱくしていく。この一次発酵乳、つまり「カルピス」の初期段階、もちろん市販してないので飲んでみたいじゃないですか。

めっっっっっちゃ酸っぱい!

pH値を確認してみたところ、乳酸発酵ではMAXに近い強酸性(これ以上強いと酢酸発酵レベル)。

でね。今回現場に行っていてわかったんだけど、同じ発酵乳製品であるヨーグルトの大きな違いは、一次発酵の時の乳酸菌の種類。「カルピス」の乳酸菌は一般的なヨーグルト乳酸菌とは違う、より強い酸を出すヤツだったんだ。この酸度の違いが「カルピス」独自の風味をつくりだしていくんだね(詳しくは後述)。


タンクのなかで発酵する「カルピス」。日本酒の酒母みたいだぜ…!

そして二回目の発酵に移る。乳酸発酵して酸っぱくなった乳に砂糖を加え、今度は酵母が主役となって発酵が進んでいく。砂糖は酵母のエサ。酵母の種類はパンやお酒をつくるわりとメジャーなヤツだ。酵母が増殖していくと、あのよく知っているフレーバー、甘酸っぱくてちょっとかぐわしいあのニオイが生まれていく。

そしてだな。
乳酸発酵した後にじゅうぶん酵母が発酵し、適度に糖分が残った乳。これすなわち「カルピス」なのだね。発酵が終わった後に細々と調整はするのだが、酵母発酵が終わった時点でほぼ「カルピス」は完成している。


充填されていく「カルピス」。プロダクトとして美しい…!

製法と成り立ちから予想はしていたが、「カルピス」は通常の清涼飲料水と異なる、ガチ発酵食品だった。メインとなる原料は生乳と砂糖のみ。そしてその複雑な風味は乳酸菌と酵母による共生発酵によって生まれる。シンプルな原料から発酵によって複雑な風味が生まれるという点において、味噌のような仕組みとも言える。


発酵タンクを見つめるヒラク。至福の瞬間…!

今回現場を見てみて非常に印象的だったのが、一次発酵の乳酸菌の強い酸度を活かして、二次発酵の酵母へのバトンリレーを行っていたことだった。もう今は工場で厳密に環境コントロールできるのだが、「カルピス」が生まれた100年前はもっと雑菌が混入しやすかったので、「カルピス」の乳酸菌の強い酸は雑菌をブロックして酵母を守るために有効だったのだろう。イメージとしては、日本酒の生酛づくりのプロセスにちょっと似ているとも言える。

…と突っ込んだこと書いてしまったのだが、担当者の皆さま、内容大丈夫かしら?


店舗に卸すダンボール。デザインかわいい…!七夕仕様の特別デザインだそうな。

ちなみに上記の製法が一番基本の希釈用の「カルピス」。割って飲むやつだね。「カルピス」を炭酸水で割った「カルピスソーダ」。純水ですっきり味に仕上げた「カルピスウォーター」、他にも果実風味を足したラインナップなど、様々なものが出回っているが、大元はこのシンプルに発酵した濃縮液だ。

発酵ツーリズムで乳酸菌イベント開催!

モンゴルの遊牧民伝統の発酵乳文化がインスピレーションとなって生まれた「カルピス」。その歴史は日本の近代以降の発酵の歴史、そして今日に至る乳酸菌ムーブメントの歴史とも言える。

こんな興味深い話、イベントやらないわけにはいかない!
ということで、渋谷ヒカリエの発酵ツーリズムの関連企画として乳酸菌フォーカスのイベントやります。午前中の子供向けワークショップと、午後のトークセッションの二本立て。

後半のトークセッションでは、「カルピス」チームに「特別なプレゼン資料持ってこないでください!僕が根掘り葉掘り質問するので」と言い渡しているので、発酵ツーリズム仕様のディープな話が聞けること間違いなし。乳酸菌トレンドの最先端を知りたい方はぜひ遊びに来てね。イベントはこちら。

「カルピス」の皆さま、志しかないスポンサーありがとうございます!
会場でも「カルピス」売ってまーす。

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