暮らしのなかの暗さに目を凝らそう。『日本発酵紀行』が9刷になりました

2019年刊行の『日本発酵紀行』が地道に版を重ねていまして、先日累計9刷になりました’(めでたい)。電子書籍なども入れると国内で3万部弱。海外版も含めると5万部近いのではないかしら。
『発酵文化人類学』に比べると地味かもしれませんが、ずっと読みつがれるロングセラーになっています。

発酵は「暗さ」から生まれた

さて。
この本は文章と同じくらい写真がいい!という声が寄せられます。撮影は僕自身。本当は47都道府県の調査を行う時にカメラマンにも同行してもらおうとしたのですが、天候や漁期や仕込みのタイミングで確実なスケジュールを組むことができず、自分で撮るしかない!とSONYα7とヴィンテージのレンズを持って醸造の現場の貴重な場面に立ち会うことになりました。

当初はベタにカール・ツァイスのレンズとか使おうとしたんですが、醸造の現場はとにかく暗い。彩度の高いレンズが全然マッチしない。そこで僕が選んだのが無名のクセありレンズ。オートフォーカスがほぼ機能せず、周辺減光出まくり、マニュアルモードでしか使えないポンコツですが、バッチリハマった時の質感がすごく生々しくて気に入りました。

ただでさえ暗い蔵の中で、手ブレ補正のない初代α7で自然光のみで撮影しようとして腕をプルプルさせていたのが懐かしい。

こういう悪戦苦闘の中から生まれてきたのが「暗さの中の質感」への着目でした。
この本にある写真はどれも暗い。北海道標津の写真なんて、晴天の野付半島の氷の上を歩いているのにめちゃくちゃ暗い。発酵は光と影でいえば影から生まれ、ハレとケでいえばケの生活を支えてきた日本の文化です。その「暗さ」をむしろ愛着を持って捉えてみたい、というのがこの本全体を支えるコンセプトでした。

出版当時と比べると、発酵は日本はもちろん世界のトレンドとなり、世間のイメージはずっと華やかなものになったかもしれません。しかし各地に根付く発酵文化の大半は、もともと「暗さ」の中に宿っていたものだったのです。

“暮らしのなかの暗さに目を凝らそう。過去からつないできた、忘れられた存在の小さな声、光が輝いている”

文庫版と単行本両方あるよ

この本は、写真やデザインの良さもあって、D&DEPARTMENTの単行本とKADOKAWAの文庫版が両方流通しています。旅先で気軽に読みたい人は文庫版を、保存版にしたい人は単行本をどうぞ。

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小倉 ヒラク

発酵デザイナー。1983年、東京都生まれ。 「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちとプロジェクトを展開。下北沢「発酵デパートメント」オーナー。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など多数。