▶宿酔いを徹底分解!人間の体内でも発酵が起こっている!?ソトコト16年10月掲載
前回、酢酸菌によるお酢の発酵をしましたが、実はこの発酵って僕たちの体のなかでも起こっているって知っていましたか?今回はいつもより三割増しに発酵という現象に深入りしてみることにしましょう。サイエンス!
お酢の発酵と宿酔いの共通点
通常、発酵は空気のない場所で進行します。ところがお酢の発酵は例外で「空気(酸素)のある場所」で特異的に起こる。具体的に何が行われているか、飲みかけのワインがビネガーになる場面を想像してください。空気が侵入してきたビンのなかで、酢酸菌という発酵菌がワインのアルコールを食べ、それを酸素と反応させてエネルギーを得る。で、エネルギーを得る過程で搾りかすのように排出されるのがお酢なんですね。
驚くべきことに、この反応はヒラクが宿(ふつか)酔いになった時に身体のなかで起こる反応にめちゃ似てる。身体のなかに入ってきたアルコールを、体内酵素によってアセトアルデヒドに分解する、というところまでは読者の皆さまはご存知だと思いますが、実はアセトアルデヒドは最終的には別の酵素によって再度分解されて酢酸=お酢になる。どひゃー!
宿酔いの緊急レスキュー法
宿酔いになると、ベッドのうえで身じろぎもできず「金輪際お酒なんて飲まないと誓うので神さま助けてプリーズ」と絶望の淵に沈むのが常。しかし!酢酸発酵の原理を知ることによって迅速に現世にカムバックすることができるのだぜ。
宿酔いのアナタに必要なのは4つ。「酸素&水分&糖分&アルカリ性」です。酢酸発酵は大量の酸素を必要とするので、まず深呼吸してください。次に水分。発酵の最終段階で酢酸と共に水分が排出されるので脱水症状にならないように水をいっぱい飲んでください。さらに糖分。宿酔い状態の時には身体がアルコール分解を最優先して脳みそや各器官を働かすための糖分が作られなくなるのでチョコレートや甘酒で直接体内にぶち込んでください。ラストにアルカリ性。体内でお酢がつくられるわけなので、当然身体が激しく酸性に傾き、これが気分を悪くするのに拍車をかける。そこで食欲が戻ってきたらアルカリ性食品であるカレーを食べる。すると当然水が飲みたくなるし、汗と一緒に分解物が排出される。
ここまでコンプリートすればかなり人間に戻れるはずです。
ではこのような処置をしないとどうなるのか?酸素が不足して過呼吸になり、水分が不足して脱水症状になり、糖分が不足して頭痛になり、身体が酸性に傾いてめちゃムカムカする。おまけに前身から酸っぱいニオイが立ちのぼって目も当てられない。おお、まさに宿酔いの典型症状でないか!
微生物による発酵は、人間の体内でも起きている
生物学的に細かく見ていくと、微生物に特有だと思われていた発酵は、実は僕たちの体内でも起こっています。
宿酔い以外にもう一例。「筋肉疲労」は実はヨーグルトの発酵によく似ている。過度に運動すると「筋肉に乳酸が溜まる」とか言うじゃないですか。筋肉の細胞は通常酸素を使ってエネルギーをつくるんだけど、短期間のうちに酸素を使い切ると、酸素を使わないエネルギー代謝に切り替える。この代謝は酸素アリよりもエネルギーが少ないし、副産物としてヨーグルトでおなじみの「乳酸」が出る。だから運動会のあとのお父さんの足をかじると結構美味しいかもしれない。
驚くべきことに、僕たちの体内には酢酸菌と乳酸菌の遠い遠い親戚が住んでいるのかもしれませんぞ。
【追記】酢酸発酵の化学式。エタノール(アルコール)と酸素(空気)が化合すると、酢酸と水が分解される。これを宿酔いに当てはめると、お酒を飲んで深呼吸すると、身体から酸っぱいニオイが立ち上り、汗がダラダラ出るということになります。
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