先日、友人の森田真生くんのトークライブを聴きに京都を行ってきました。
会場は京都のCom-ion。テーマは「場所の生命(いのち)をはぐくむ」。

秋田のマタギの話や森田くんが訳したレイチェル・カーソンの”Sense of Wonder”の話を下敷きに、場所はしばしば個人の人生の時間軸を超えて自律性を持っていく、と森田くんが語るのを聴きながら、僕は自分のここ数年、いや社会に出てからの20年間のことを考えていました。
就活というものを知らないまま大学を卒業した僕が一番最初にした仕事は、ゲストハウスをつくることでした。2026年、まだ日本を訪れる海外客が700万人しかいない時代です。三鷹の大きな一軒家を借りて、僕と同年代の世界各地の馬の骨を受け入れて暮らした数年間は、まだ「インバウンド」という言葉すらない状況でのマルチカルチャーの場所づくりでした。

色んな言語が飛び交うヘンテコだけど風通しのいい空間でした。今でもこの時のネットワークが世界中で続いています。
そこからデザイナーを経て発酵の仕事を始め、2020年に下北沢に発酵デパートメントをつくり、コロナ禍の困難を経て、世界中の発酵ラバーが集まるグローバルな場に育ちました。

新著『僕たちは伝統とどう生きるか』にも登場したコロンビアチーム。
同時にこのお店は下北のご近所さんにも愛されているようで、常連さんたちがいつもスタッフや他のお客さんと楽しくおしゃべりしているのを見かけます。オープンしてから5年が経った頃から、商店街の旦那さんたちからもまちづくりのお声がかかるようになって、ここもただ買い物をするお店ではなく「場所」になったんだと実感します。

発酵デパートメント山梨店の二階にある本屋さん、方方で行われたスズキナオさんとのイベントの様子。
2025年、僕の住む山梨県甲州市に発酵デパートメント山梨がオープンしました。
農政局だった300坪の建物を倉庫として使っていたのですが、ご近所さんや知人から「人が集える場所にしてほしい」「空いてる区画をお店やアトリエにしたい」との要望があり、アウトドアギアやコーヒー、土鍋はじめ生活雑貨、クラフトビールのタップルームからデザイン子供服まで集うDIY商業施設として、ずっと使われていなかった建物が賑やかな場所に生まれ変わりました。
僕としては「まちづくり」をする気はなく、東京ではできない大きな敷地を倉庫や作業場として借りただけだったんです。けれども僕の近しい人たちの声で、ここもまた生命をはぐくむ「場所」になっていきました。
気がついたら複合施設になっていたこの場所、僕は「シルク(Cirque)」と名付けました。
塩山という地域は、かつて山梨でも指折りの養蚕業(絹糸生産)の拠点でした。月に何度か、養蚕業を営む農家たちが山から街に下りてきて、絹糸(シルク)を納品して映画を見たり飲み屋さんで遊んでまた山に帰っていったそうです。僕の借りた元農政局の二階にあるセンター長室は、養蚕農家の麻雀接待部屋だったそうな。笑
施設からほど近い市役所は、2000年代後半まで「シルク」という名前のショッピングセンターでした。僕が甲州市塩山に引っ越してからは、同年代のご近所さんから「小さい頃はよくシルクに家族で買い物にいっていたよ」という思い出を聞きました。
養蚕業や林業が盛んで今のように東京が近くなかった昭和後期までは、塩山は通りに人があふれる繁華街だったそうです(日本各地でよく聞く昔話です)。
森田くんがトークの終盤にこんなことを言っていました。
「生命の起源は、集まることにあったのではないか。40億年前、海底の火山口近くで普通では考えられない密度で化学反応が集まった」
ある場所に、密に何かが集まって、コミュニケーションが始まっていく。
それが生命の始まりであり、場所こそが生命をはぐくむ理由でもある。
塩山のご近所さんたちの思い出話を聞いて、僕は自分の借りた敷地にシルク(Cirque)という名前をつけました。かつて地域の人たちが集った旧市役所の名前やこの土地の産業の記憶を偲んで。もう一つは、サーカス(Cirque)のようにちょっとヘンで情熱的な人々が活躍する場であってほしいという願いを込めて。
東京でも山梨でも、発酵デパートメントは文化を育む場所、文化を育てないと願う人々が集う場所になりつつあります。きっかけはたまたま僕ですが、きっと近いうちに僕の意志、僕の人生を越えて未来の生命や文化をはぐくむゆりかごになっていくのかもしれません。

京都、法然院のお庭。様々な生き物たちが密に集う、僕の大好きな庭で森田くんと。
【追記】そもそも森田くんがトークしたCom-ionは、森田くん(とそして僕も)が普通考えられないような奇跡のようなご縁のある場所でした。宮下拓己さんという早逝したシェフの導きによって、僕たちはあの場に共にいたのです。その経緯はまた別のお話で。
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