仕事の価格について

仕事の価格について

こんばんは、ヒラクです。

ここ最近、悩んでいました。

何を悩んでいたかというと、合同会社++の「仕事の価格」についてです。

もっと直裁的に言うと、「見積りの金額感」です。

僕たちは、会社の理念やスタッフの経歴上、地域に根付いて活動している全国各地の中小企業やNPO団体さんから仕事に依頼をしてもらっています。

特に最近は、少なくない数の仕事のオファーが届きます。

それはとても嬉しいことで、僕たちも一生懸命プランを考えて提案します。

…がしかし!結構少なくない確率で「見積り」の段階で折り合いがつかなくなるんですね。

「正直想定していた金額とかけ離れています」となることが多い。

僕もその気持ち、わかります。

例えば商品のパンフレットを作る場合を考えると、いわゆる街場の印刷屋さんや制作会社さんの少なくとも2倍以上の金額感だと思うんです。

ではそれがわかっているのにも関わらず、なぜ++はそんなに費用がかかるのか?

必然性のデザイン

それは、「デザイン・制作を始める前」のプロセスに理由があります。

小さな企業や団体だと、その組織の強みだったり、存在理由だったり、一貫したコーポレートイメージだったり、的確なワーディングが存在していなっかたりします。

だから、まず目に見えるモノを作る前に、「なぜこの組織が必要なのか」「なぜこの商品が必要なのか」ということの整理・明文化をする。

僕はこのプロセスを必然性のデザインと呼んでいます。

そのために、その組織はもちろん、その組織が根ざしている地域の文化をリサーチをしたり、経営に関するデータを洗い出したり、ありとあらゆることをする。

これは目に見えにくい作業なのですが、(小さい組織ほど)とっても大事で、手間と議論を尽くすところなのです。

思うに、これがクライアントワークにおける「++の存在意義」だと思うのです。

で、結果同じ「パンフレットを作る」であっても値段感が変わってきてしまう。

それはなぜかというと「パンフレットを作る」というのはアウトプットであり、それができるプロセスのなかでの「経営へのフィードバック」も同時に考えている、ということになるからなのです。

例えば、「なるほど、予算の2倍ですか。じゃあ半分の予算でできることを考えましょう」と提案した場合どうなるか。

「ここに入る文章を下さい」「ここに入る写真を下さい」で、それをあるセンス良く組み立てて納品になる。

でも、例えば自社のリソースの明文化とか、広報や制作の担当者がない場合になると「文章がありません」とか「写真がありません」ということが往々にしてあり得る。

そうなると僕たちのほうで主導的に考える事になり、その時に「どういう文章であるべきか」「そういう写真であるべきか」という根拠を探すために、やっぱり「どういう組織であるべきか」という「そもそも論」へ行き着くことになる。

…だから、どうしても「あるものを組み合わせて制作」だけをすることができない。

本当に、声をかけてもらったことは涙が出るぐらい嬉しい。

だから、要望にお答えしたいのです。

だけど、根本からの「問題解決」をするためには、通常の「デザイン・広報費」の予算外になっている領域の手間が必須になるのです。

まだ始まって間もない会社で生意気かもしれないけど、そこをご理解頂きたい、と思うのですね。

ヒラクが個人事務所「小倉工作室」でやっていた時代は、そういう膨大な手間がかかろうとも、「僕個人で何とか辻褄合わせよう。

やりがいあるし」と引き受けさせてもらっていたのですが、合同会社++という法人を立ち上げてからは、そういうわけにはいかなくなった。

僕だけの人件費を考えるわけにはいかないし、「生態系と人間の営みの調和した社会をつくる」という未来のビジョンのための投資も必要になる。

だから、ヒラク個人が、自分のやりがいにかける「フリーリソース」を提示することができなくなり、「実費を見積る」という必要性が出てくる。

自分が「経営者」という立場になった時に、やっぱり「手間は手間として勘定に入れる」という事をちゃんとお伝えする時期にさしかかってきたな、と感じています。

デザインを、コストでなく投資と見る。

通常、販促物やデザイン物を作るというのは「コスト」になります。

つまり、チラシをまくからそれを「作らなくてはいけない」という、「本当はゼロ円にしたいんだけどしょうがなく予算計上する」ものになります。

(WEBは例外なんだけど、それはまた別の話)

本当はゼロにしたいんだけど、やらなきゃいけないんだから、見栄の良いものにしよう。

あまりにも竹を割ったようなもの言いですが、それが一般的な「本音」だと思うんです。

だけど、今、僕たちの提案する見積りとプランは、それを「コスト」でなく「投資」と考えてもらわないと、納得いってもらえない金額感だなと感じています。

経営戦略をブレないものに強化したり、人事のモチベーションを高めたり、中長期で見た時の広告費用を下げるために、なかなか答えの見つからない「経営課題」に対する具体的な答え、あるいはBSには明示できない「見えない資源」を具現化する作業に対しての、積極的な投資という風に捉えてもらえないとそれは「悪くないけど高すぎる」ものになるであろうと、正直思います。

それでも、大手の代理店を通した価格よりは比較的安いと思うので、そんな不当に「高価である」というわけではないのですが、それでもやっぱりデザインにかける予算が印刷費とセットになっている「コスト」的な考えかたからはかなり高く感じるかと思います。

(特に助成金や補助金で運営しているNPO法人にとっては)

だから、我がままな言い方かもしれないけれど、++へお声がけしてもらう場合は、自身が感じている根本の問題解決のための「投資」をする、という感覚を持ってもらえれば、きっとお互いにとって良い結果が出るでしょう。

これぐらい「コスト」をかければ、これぐらい「リターン」が戻ってくる、という「ガラガラポン」的なビジネスモデルはほとんど成り立たなくなってきている。

それが僕が色んな組織と一緒に仕事をさせてきてもらったなかでの、ほぼ全項一致の「時代の宿命」です。

その時代をサヴァイブするためには、デザインやクリエイティブを「経営資源」として見ることが大事になります。

だから、その資源を蓄積するために「投資」である、という考えかたができるかどうかが、サヴァイブするための(絶対とは言いませんが)必要条件であるとヒラクは強く確信しています。

(++じゃ役不足だ、という人はもっと名の知れた所に行くのが吉だと思います)

恐らくそんなに遠くない未来、今までの産業基盤が本当に底割れになった時に、「これこれが必要なので、まず見積りを下さい」という前提自体のパラダイムチェンジが少なからず起こるでしょう。

だけど、今すぐそれが日本のあまねく場所で起こるにはまだ早い。

(IDEOみたいなやり方がメジャーになるにはまだ早いし、かくいう僕たち自身のシフトチェンジもまだ充分じゃない)

だから、今僕たちはなるべく僕たちに興味を持ってくれる人たちの声を大事に、誠実に悩んでいこうかな、と思っています。

正直、こういう(半)公の場でお伝えするのはどうかと迷ったのですが、(恐らくクリエイティブに関わる色んな領域の人たちにとっての)大事なお話だと思ったので、忌憚なく書いちゃいました。

【追記】ちなみ、これまでお仕事をご一緒させてもらった皆様については、もうベースの地ならしができているので、これまでと同じ感じで継続していきたいと思っています。本当に今まで育ててもらってどうもありがとうございます。これからもよろしくどうぞ。



【CONTACT】お問合せはこちらからお願いします。





お名前 (必須)

メールアドレス (必須)

お問合せ内容 (任意)





※送信する前にこちらをご一読ください→

メッセージ(任意)

Published by

小倉 ヒラク

発酵デザイナー。1983年、東京都生まれ。 「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちとプロジェクトを展開。下北沢「発酵デパートメント」オーナー。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など多数。