発酵デパートメントで起こっていることについて書きます。今年に入ってから、今までのように仕入れられないものが急激に増えて危機感を覚えてます。値上げとかそういう話じゃなく「原料がない」「資材や設備がない」「つくる人がいない」要因が重なり、仕入れられない。これは米だけじゃないんです。
産業全体が限界に近い
例えば海の問題。秋田はハタハタ漁が壊滅的で、しょっつるがつくれないと連絡がありました。岐阜では暑すぎてアユのなれずしが崩れてしまったとも。宮崎では海の生態系が変わって海藻が取れず、むかでのりが取り扱えません。各地の郷土ずしも魚が取れずに苦労しています。これは今年だけの話じゃない。
もっと身近な食材でもそう。 僕たちのお店では地域のメーカーのものを多く扱っていますが、乾麺は一回あたりこれくらいしか出せない、漬物は一回あたりこれくらい、と上限が出てきています。つくる人が高齢のご家族だけだとこうなる。こういうものほど人気なので負担かけてごめんね、という気持ちです。
資材や設備の問題も厳しい。お酒や調味料を入れるビンも、メーカーが廃業したりラインの廃止で新しく作られないものが出てきました。レトロで可愛い一合便のお酒もそのうち見られなくなります。工場の機会が壊れても修理が難しいとか、農業や漁業だけじゃなく食を支える産業全体が限界に近づいている。
来年からどうなる?
食における「環境」とは自然環境のことだけではありません。
働く人の持続性もそうだし、各地域で育んできた産業の仕組みもそうです。原料がない、つくる人がない、資材や設備がない。食のこと、ものづくりのこと、地方のことを長いあいだ軽視してきた結果が今年、2025年に出てしまったのです。
それで来年以降どうなるのか?
発酵食品店の視点から見てみましょう。まず味噌などの調味料がめちゃ値上がりします。1.5倍から倍くらいになるかもしれません。しかも国産原料を使う地方のメーカーほど値上げ幅が激しくなります。「こだわりのお味噌」は贅沢品になるかもしれません(たぶんなる)。
お米の問題を一番強く受けるのが日本酒。グレードの高い特定名称酒ほど影響を受けます。これも1.5倍くらいになりそう。嗜好品なので個人で飲むぶんはギリギリ許容できるかもしれません。問題は飲食店。おそらく日本酒一杯の値段を2倍とかににしないと経営が成り立たない。外食で日本酒飲むのも贅沢になってします。
新しい日本酒に触れるのは居酒屋さんや日本酒バーなので、ここの経営が立ち行かなくなると小売にも影響が出て(とりわけ地方の酒蔵)、これまでなんとか維持してきた日本酒の多様性がピンチになります。しかし来年起こるこの事態を防ぐ手立ては正直ないと思います。
この状況を受けて、蔵が自分で米をつくるようになるかもしれません。しかしそれで解決、というわけではなく日本の農業の構造的問題、スケールしづらい、働く人がいない問題に向き合わざるを得ず、変数が増えて経営を難しくします。つらい…
選択肢がなくなる危機
お味噌や日本酒、漬け物のような伝統食は海外から調達できません。もし国内で作れなくなったら、いくらお金を積んでも手に入らなくなります。今起こっているのは値上げの問題「ではない」のです。そうではなく自分たちの伝統を失い、選択肢がなくなる危機なのです。
酒でも味噌でも大手メーカーは比較的値上げせずに来年を迎えられるかもしれません。ミニマムアクセス米をはじめ安価な原料を優先的に手に入れやすいからです。しかしそれも長くは続かない。自国の原料の選択肢がなくなれば、仕入れ価格が自分たちでコントロールできない外部に依存せざるをえないから。
日々の生活が苦しいなかで安価な輸入食材が増えるのはありがたい、けれどもその裏で自分たちの選択肢がなくなっていくことは認識したほうがいい。
このスレッドを見てくれているみんながやるべきことは、選択肢を増やす日々の行動。来年から「終わらない日常」の延長では生きられないのです。
ではどうしたらいいのだろう?
手前みそな話ですが、発酵デパートメントで扱っている醸造蔵や農家さんを応援してほしい。
それぞれの地域のそれぞれの持場で頑張っている人たちがたくさんいます。僕たちのお店で買わなくてもいいので、選択肢を増やす行動を自分のできるぶんだけしていって欲しいのです。必ずしも発酵デパートメントじゃなくてもいい、日本全国に地域のこと、ものづくりのことについて真剣に取り組むお店があります。自分の家に近いそういうお店を見つけて、そこの活動も支えてほしいと思います。
(ちなみに今やっている発酵ツーリズム東海は、参加したみんなに地域で崩壊を防ぐための最前線を見てもらうための企画です)
なるべく前向きに日々活動していきたいと思っていますが、今の厳しい状況を書き残しておくことします。全国各地の志を同じくするみんな、力をあわせて行動しよう。
PS: 最近の事情を色々話してくれた醸造蔵や一次産業に関わるみんな、どうもありがとう。僕もがんばる
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