いつだって、僕は仕事に意味を求めるんだ。
ポール・オースターの小説に、「偶然の音楽」という作品があります。
妻と別れて自暴自棄になった主人公が、アヤしい大金持ちとのポーカーで借金を背負い「何もない空間に石を積んで壁を作る」という労働を課せられるという不条理なストーリー(いかにもオースター節)。
この小説を読むと、僕は「仕事の本質」というものを考えてしまう。
主人公に課せられる「ただ石を積み続ける」という労働には、何の意味も目的もない。「モダンタイムス」の、自動車工に扮するチャップリンが直面するのが「自分の仕事の全体像がわからない不安」であるのに対し、「偶然の音楽」の場合は「そもそも意味が無い」という究極の不条理に直面する。
その時に主人公はどうするかというと「ただ石を積むという行為自体によって、自暴自棄になった自分の人格を浄化する」という意味を発見していくのです。
オースターのつくり出す「究極に非人間的な世界」では、人の本質が浮き彫りになっていく。
僕たちは、無意味な労働にさえ「意味」を付与せずにはいられない。
それは言い換えれば、仕事には意味が必要だということなのです。
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僕は、独立して++をつくった時、「嘘をつかない仕事」をしようと決めました。
「その仕事に対して、自分が納得できるかどうか」について、なるべく妥協しないでやってみようと思ったのです。
その結果、「地と人をつなぐ仕事」というコンセプトができ、今のような仕事のスタイルが少しづつできていきました。
でね。
じゃあ何が「納得できる仕事=意味のある仕事」かというと、分解すると2つの要素があると思うんですね。
一つは、職能に対する納得です。
例えば、医者であること、エンジニアであること、料理家であること、デザイナーであること、起業家であることetc. 自分の望む職種に付き、その技術を日々磨くことで喜びや対価を得る。よく「自己実現」といわれるようなこと。これが仕事に対する大きな意味付けです。
で、もう一つは、貢献に対する納得です。
人に感動を与えたい、農業を立て直したい、IT技術で社会を変えたい、環境問題を解決したいetc. 自分の仕事が、自分の共感できる何かに貢献するかどうか。自分が毎日8時間働いたら、大河の一滴でも良いから、世の中に良い流れをもたらすと信じられるかどうか。これもまた大きな意味付けだと思います。
自分が心の底から納得できる仕事は何か。
それは、二つの喜びが重なる仕事ではないでしょうか。
どちらか片方でも、まあ納得はできる。仕事を続けていくことはできる。
でもね。どこかで嘘が出てくる。自問自答が始まってしまうんですね(←特にヒラクの場合)
「本当に自分の能力は、何かに役立っているのだろうか?【職能だけ】」
「本当にこの仕事は、自分のやるべき仕事だろうか?他にふさわしい人がいるのではないか?【貢献だけ】」
様々な関係性で成り立っている社会というフレームのなかに、ある能力を授かった自分というパーツがある。それがなるべく違和感のないカタチで収まるようには、自分の職能が社会の役に立つという確信があるのがいい。「仕事」というものに対する僕の理想はこんな感じです。
で、次のフェーズ。
それを理想論で終わらせずに、実践していくためにはどうしたらいいのか。
答えは望むビジョンをまず作ってみるでした。
それが、合同会社++の「++ VISION」の絵です。これを公表して、関わる人全てと「僕たちはこの世界を実現する」ということをシェアする。これは、自分たちの仕事から「意味」が失われないようためのセーフティネットみたいなのだと思うんですね。
難しい状況で、道に迷ったらここに戻ってくることができるし、それを隣の人とも共有することができる。それに、僕個人の考えは常にブレてあんまり信用できない。ので、「こういうことになってますよ」という看板を掲げ続ければ、周りの誰かから「おいおい、なんか違わない?」と強制的に軌道修正がかかる(と希望)。
「嘘をつかない仕事をしたい」という人がたくさんといるということは、「嘘をつかない仕事をするのはけっこう大変」ということ(当たり前だけど)。
で、その困難を突破するためにはやはりそれ相応のテクが必要だな?と痛感します。
無駄な手間が出て赤字にならないようにプロジェクトのやり方を最適化しておくとか、「仕事をたくさん回さないと経営が成り立たない」という状態を避けるために、なるべくキャッシュフローを見える化しておくとか、「経営的な足腰の強さ」を鍛えることも大事(こうすることで「仕事を断る不安」を取り除くことができる)。
そして、何よりも大事なのはやはり「自分たちが仕事をする意味」を徹底的に考えて見えるようにしておくことだと思うんです。
毎日仕事で向き合うことの一つ一つに「意味が与えられる」ような装置を置いて、定期的にメンテナンスしておく。
そういう、一見目先の仕事には役に立たなさそうな地味な作業こそが、日々喜びと安心を感じながら働く、「納得できる仕事」を維持していくための下支えになるんだ、と最近常々感じるのです。
【追記】ちなみに今日のエントリーの「嘘をつかない仕事」というのは、budoriの有村さんから「好きなことと良いことのバランス」という考えが基になっていたりします。有村さん、どうもありがとうございます。弟(妹?)分の++、頑張って良い仕事をつくっていきまーす!