皆さまにお知らせです。
8月25日、角川文庫から『日本人の発酵史 うまみのフォークロア』という本が出ます。
なんですけど、これは新刊ではなくて。2023年に出版した『オッス!食国』というタイトルで出した単行本の改題・新装版です。
正直に言おう、僕の本の中で一番読まれてない本だった
率直に、2023年に出した本の経緯のことをお伝えしたい。僕はこの本をめちゃくちゃ気に入っていて、なんなら内容の密度でいうと過去イチなのではないかと思っているんです。
もともとは過去に書いたエッセイをまとめたアンソロジーとして始まった本でした。なんですが原稿を集めて並べてみたら、書籍にするにはちょっと内容軽いかも….という感じだったんですね。すでに書いたものを集めるだけでは「日本人にとって食べるとは何か」というテーマにに向き合ったことにならないなーと思って、企画を一度ひっくり返して、全部を書き下ろしにすることに。
そうして生まれたのが「なぜ日本人はこんなに美味しいにこだわるのか」という問いを、日本神話の起源まで遡って追いかける本だったんです。
古代の文献を読んでいくと、この国のはじまりの神様たちはやたら食物に関連している。
穀物が生まれる話、酒を醸す話、供えものを分け合う話。稲作、発酵、共食。国の成り立ちそのものが、食と分かちがたく結びついている。ということは、日本人の美味しいもの好きというのは、単なる趣味嗜好というよりは、そもそもの国に成り立ちに結びついている…?
という当初の企画とは違う、壮大なテーマに書いている途中に変化していった本。
なんですけど、実際リリースされた2023年時のタイトルと装丁は、企画の当初のイメージが反映されておりまして。中身は神話の起源を追う本なのに、外側は気軽な読み物に見える。このミスマッチが、喉に刺さった小骨みたいにずっと残っていたんです。
僕の本の熱心な読者にも「タイトルと内容が合ってないかも」という指摘も複数もらっていました。
そのミスマッチもあってか、正直に言おう、この本は僕の過去の著作のなかではいちばん読まれていない。過去の一般流通に乗った本はだいたい一万部を超えているんだけど(出版不況の時代にありがたし)、この本はそこまでいきませんでした。その理由は、当初の企画と実際できた原稿の乖離にある。
文庫化にあたって外装と中身の釣り合いを取りました
なので文庫化の話が出た時に、まっさきに思ったのはこの乖離をなんとかするぞ!ということ。
タイトルは『日本人の発酵史 うまみのフォークロア』に変更。装丁も柚木沙弥郎さんの型染めの作品に変更。自然の混沌のなかから生まれてきた、日本ではじめての人型の神様「ウマシアシカビヒコヂノカミ」の世界観を反映させました。
(とはいえスケラッコさんの絵が大好きなので、その世界観はちゃんと文庫のデザインにも引き継いてきます。ページをめくってもらえればわかるはず)
そして!変わったのは外装だけじゃないんだな。
文庫化にあたって新しく1万5千字の章を書き下ろしました。テーマは「直会(なおらい)」です。
神事のあとに、神様に供えたものを人が食べる。同じものを口にすることで、非日常から日常へ戻ってくる。お神酒を回し飲みし、供物を分け合う。そこで日本文化における「マレビト=客人」の意味が明らかになる。
人と神が「共に食べる」という営みのなかに、日本人の食へのこだわりの原型があるのではない?。
「美味しい」という感覚は、味覚であると同時に、社会的な感覚なのではないか?単行本のときに書ききれなかったこの部分を、ようやくちゃんと書けました(単行本の時は、エッセイ本の予定だったのでページ数が事前に決まっていたのです)。
この「直会」の章。新著『僕たちは伝統とどう生きるか』の呼応する、僕の考えてきたこと、日本各地で出会ってきたこと全体の答え合わせのような章になったと思っています。
つまり、めちゃ良い文章なんだよ。
食を通して、日本の起源を考える
今回のリニューアルを通して、2023年に僕が言いたかったことがよりクリアになったかと思います。
本の核になる「食の神仏習合」という主題の通り、日本文化が土着の文化と大陸から文明のハイブリッドによって和食のアイデンティティが生まれたこと。
そして、伝統とは、同じ形を守り続けるではなく、本質を保ちながら、時代に合わせて姿を変えていくものであるということ(これは新著とぜひ合わせて読んでもらいたい)。
タイトルも装丁の変更も、ある意味では「小文字の伝統」と相似かもしれません。
中身が変わらなくても、それを時代の分文脈に即して届けるための姿は変える。。
発酵もそうです。蔵に棲みつく菌は継代するたびにその性質が変わっていく。設備も技術も味も時代とともに変わっていく。それでも「蔵の味」は続く。変わらないために変える、というのは、発酵の現場では当たり前のことでもあります。
2023年の『オッス!食国』もそういう小文字のトランスフォームを遂げました。
『僕たちは伝統とどう生きるか』で、日本の文化がどう受け継がれていくのかに興味を持ってくれた人にも、たぶん響くと思います。この本では伝統というテーマをとことん「食」を介して掘り下げていきます。
いや、あの、なんというか。
3年前より2026年の今、この『日本人の発酵史』が届く感じがあるんです。
改めてもっかい。僕この本の内容めちゃ気に入っているんです。『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』のような僕の初期作と、新著『僕たちは伝統とどう生きるか』のブリッジとなる本です。
みんな読んでね!
….で。毎回恒例の本のリリース祭りですが、今回もちゃんと仕込んでるんだぜ。
お披露目の舞台は、8/26から始まる阪神百貨店の恒例『発酵マーケット 麹』です。
そちらのお知らせもどうぞお楽しみに!
Published by