一ヶ月強の海外旅行から帰ってきたら、お酢ができていた。

正確に言えば、うっかり冷蔵庫にしまい忘れていたブドウ酵母がお酢化していたのであるよ。

「酵母がお酢になるだと…?どういうことなのか説明したまえ!」

いいとも。

【A】まず、パン種などにする自家製酵母は、リンゴやブドウなどの果実を水のなかに漬け、酵母菌をおびき寄せたもの(ワインのような原理だと思ってください)。

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【B】酵母菌がビンのなかで果実に含まれる糖分を食べ、炭酸と香り、アルコールをつくる。この写真のようなシュワシュワは、酵母が生きている証なのであるよ。

【C】酵母菌が糖分をあらかた食い尽くしたところで、酵母がつくったアルコールを食べに、空中にいた酢酸菌がビンに入ってきてアルコールをお酢に変える。こうして酵母がお酢になる。
※ちなみに酢酸菌が活発に動ける温度は約30℃〜なので、夏の気候はバッチリなのであるよ。

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お酢化した酵母がこれ。上に白い膜が見えますが、これは酢酸菌の働きでできたもので、酢酸膜と言います。ちなみにプロのお酢屋さんの酢酸膜はもっともっと薄くて、たぶん雑菌も入っている微妙な素人仕様(というか単に放置しただけですが)。
この膜の下で酢酸菌がアルコールと酸素を反応させてpH値2.5〜3.5の強酸性の酢酸をつくり、どんどん酸っぱーーーい液体がビンのなかに溜まっていく。

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ちなみに酢酸発酵の化学式はこちら。一般的な発酵は酸素O2を使わないので、やや変わった発酵方法と言える。ちなみにこの化学式によく似た作用が、人間が宿(ふつか)酔いになった時に起こる。酒飲みの人間は酢酸菌と遠縁の親戚なのかもしれません。汗

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上から見るとこんな感じ。透明の膜になっています。
この膜は大事にとっておいて、他の酵母に移植してお酢の「種菌」にします。

ドライ粉末状にして長期保存できる麹菌や酵母菌、乳酸菌と違い酢酸菌はけっこうデリケートなヤツで、生きている状態で種を継いでいかないとすぐ死んでしまう。

実は東京時代にも何度かお酢づくりに挑戦したんだけど、なかなか上手くいかなった。たぶん環境に菌がいなかったからで、さすがに田舎の山の中は菌の生物多様性がスゴい。今度は地元のワインを使って2代目を培養しています(お酢になる途中に虫が発生しやすいので外に出している。伝統製法でも外でつくるものがある)。

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さっそくサラダにかけて食べてみました。ただ酸っぱいだけではなく、適度に旨味や甘味が残ったフルーツビネガーっぽい味で美味しかった。お酢もDIYできるようになったのは地味に嬉しいぜ。

 

【追記1】酵母からお酢をつくるためには4〜5%くらいのアルコール分が必要。厳密に考えると一度「薄いワインのようなもの」ができているわけで、法律的にはグレーだ(でもこれをアウトにすると柿酢もダメということになる)。なので、お酢を自分でつくりたい場合は、出来合いのお酒をお酢にするのが(法律的には)正しい。そこらへんよろしく。

【追記2】いや、でもよく考えてみれば「パン用の酒母は酒税法の適用外」なので、このやりかたなら法律的にもOKだと思われる。

【追記3】けっこう厚い膜だったのでいわゆる「ナタデココ系の微妙な膜」だと思ったのですが、できたものの味自体はお酢だったので、もう一度作り継いでみたら今度はまあまあの酢酸膜になりました。いったいどういうことなのかしら?戸塚さん、今度教えてください(>_<)