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「いつもやる気」はありえない。価値の創造と運用のマネージメント。

こないだ大学の後輩でもあるメディアアーティストの市原えつこさんから「独立して二年間経って、独立当初のようなやる気がなくなってきました」という相談がありました。

で、僕がその時思ったのは「そもそも常時やる気なんておきない」ということ。「100%内発的なやる気」はレアメタルのような希少資源なので、ゆっくり採掘するのが吉です。

僕の話をするとだな。
僕は自分でもビックリするぐらい「やる気あるタイム」が少ない。たぶん創造的なことをできる時間はよくて15%くらいで、あとはやるべきタスクを消化したり調べものしたり整理整頓したりお昼寝したり。

「なんだその怠け者っぷりは!もっと気合入れて仕事したらどうなんだ?」

という突っ込みも聞こえてきそうですが、僕はやる気タイムの割合を増やす気もなく、考えているのは限られた15%の価値をいかに引き出すか

思うに、「やる気」ってのはそんなに出ないからこそ価値があるんですよね。

だから「常に100%創造的な自分」を目指すライフハックって「三食全部サーロインステーキ食べる」みたいで胃もたれしそう。「たまに出るやる気」にレバレッジをかけて日々をのらりくらりと暮らすのが結局は長く続くと僕は思います。

やる気を「希少なもの」とカウントするのか「常時あるもの」とカウントするので仕事に対する取り組みが変わってくる。

「希少なもの」としてカウントすると、やる気ないタイムは「希少資源のマネージメント」として割り振られることになります。常に資源を採掘しまくるより、適切な量を採掘してその価値をマネージしたほうが生産性が良い、と言えるのではないかしら?

表現やプロダクトが生まれるのは「やる気ある(創造的)タイム」ですが、その表現やプロダクトの「価値」が生まれるのは「やる気ない(運用)タイム」だったりする。

だからやる気ないタイムはやる気あるタイムと同じく大事なんです。
やる気ない自分は、やる気ある自分のマネージャーの役割。

やる気あるハイテンションな時に「こんなことやりたい!」と用事を仕込んでおいて、やる気がフェードアウトしたタイミングで「やれやれ」と用事を片付けていくバランスで僕の仕事は回っています。ずっとやる気あると片付かない用事がどんどん増えるので、やる気はぼちぼちくらいじゃないと破綻する…!

「いつもやる気100%」って思うほど良いものじゃないと思う次第です。

自分のなかに「良い読者」を育てる。

最近はずいぶん文章を書く仕事が増えました。
で、その時にいつも気をつけていることがあります。

「書く自分」の前に「読む自分」を育めているか。

何か文章を書いた時に一番最初にそれを読むのは自分自身。自分という最初の読書のレベルが自分の書くもののレベルを決める。だから上等なものを書くためには、自分のなかに「上等な読者」がいる必要があります。

でもさ、書く訓練より、読む訓練のが難しいんだよね…!
その理由としては、書くことには仕事として対価が発生する可能性があるのに対して、読むことには対価が発生しないから。

「読む」というのは「120%の好き」からしか発生しない。

でもほら、誰にも求められない「好き」って現代における希少資源だもんね。
見返りを求めない「好き」からしか表現のセンスを育てることはできない。

良いものをつくりたい!と思ったら、良いものにたくさん触れる時間を持つことが大事。日本はありがたいことに文章でも食でもデザインでも知恵を絞ればお金ない若者でもアクセスできる回路があります。数百円あれば、叡智が詰まった古典の本が買えるし、美術館や博物館のアーカイブにたっぷり触れることができるし、こだわりの飲食店の定食を味わえる。

 

【求むエースな人材】リビセンでポスト東野唯史な敏腕デザイナーを大募集している件

こんにちは、ヒラクです。またもやこのブログで求人企画やるよ!。
諏訪にある仲良しのReBuilding Center JAPAN(通商リビセン)が、

時期エース候補のデザイナー!

を絶賛募集中だよ!とのこと。こないだのかもめブックス/鴎来堂の柳下おじさんの時と負けず劣らずのハイスペック求人きたぞー!

・【求むナイスな人材】かもめ柳下おじさんが右腕を募集している件

(僕のブログにハイスペック求人の話がくるのは、読者の皆様に才人が多いということなのかしら…?)

DIYカルチャーを刷新するリビセンのコンセプト

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リビセンの店内の様子。各地からレスキューした古道具や古材でいっぱい!

さてさて。
リビセンを知らない人に軽く説明しておくと、解体される建物から回収した建材を売るリサイクルショップで、そこにデザインコンサルや施工サービスが付随している。
自分でDIYできるお客さんは建材だけ買って自分でアレンジすればいいし、工務店のように施工サービスを頼むことができる。だけどサービスを頼むとしても完全お任せではなく、施主自身もDIYすることが前提になる。詳しくは僕のブログのこの記事をどうぞ↓

・新しいデザインの美意識の話をしよう。リビセンの本を読んで考えたこと

で、今回オーナーの東野夫妻に頼まれたのはデザイン部門の次期チーフ候補。
現状メインのデザイナーとして稼働しているのはファウンダーの東野唯史くん。なんだけど事業をより発展させていくために現場を任せられるデザイナーを絶賛募集中だそうな。

うん。なんかわかるよ。
個人事業が事業化していくステップで、デザイナーはより全体を俯瞰できるクリエイディレクターにならなきゃいけないタイミングがあるからね。一個一個の現場も大事だけど、リビセンというコンセプトを守らなきゃいけない時期にきてるんだね〜!!

・古材で文化を作るリビルディングセンタージャパンの挑戦 | BAMP

リサイクルとモダンデザインを融合する新鋭よ来たれ!

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山梨の我が家から一時間ちょいのリビセン。キッチンの建具をゲットしました。

激しくリスペクト&共感するリビセン。
古材を使った空間やインテリアのデザイン設計の才能よ来たれ!
ということで、オーナー夫妻の東野華南子ちゃんに「どんな人がいいのかしら?」と聞いたところ、以下のような返答が。

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今回の採用で求めている職能は、ズバリデザイナー。もっと未来を切り開いていくことに力を使っていくために、デザインプロジェクトを自走させることができるデザイナーを採用したいなと思ってます。 夫の東野唯史のデザインが必ずしも好きである必要はないけれど、古材が好きで古材の可能性を信じることができることが求められます。
古材の新たな可能性を探りつつデザインできれば大丈夫!古材をツールに、世の中たのしくしていけたらいいね、と思ってます。 』

だそうな。そして募集したい人材は具体的には、


 

▶実務経験があり実際に店舗設計や住宅設計をメイン担当で複数経験したことがある

▶クライアントや業者とのやりとりを最初から最後まで担当できる

▶クライアントの事業計画書・収支計画書を元にその店舗(ビジネス)が成功へと向かうデザイン的な提案から、リノベーションによるデザインを行うため、リノベーション独特の様々な状況に対して柔軟に対応し、デザイン的な変更や改善を素早く対応していける

▶自社で制作できないプロダクトや施工技術に関して新たに作家さんやアーティストさん、・職人さんと共同してデザインや制作活動を行うことで空間の価値を高めることを楽しんで取り組める

▶古材いっぱい運ぶのでできれば力持ち!


 

というスキルを持っている人だそうな。むむむ、こりゃ挑戦しがいあるぞ…!
雇用条件としては、

・正社員(試用期間中は契約社員)
・月給要相談(諏訪でちゃんと生きていける金額、最低20〜25万円は保証)
・賞与・社宅・有給制度あり
・設計以外にも色々仕事あるよ

だそうです。
で、リビセンがこれからこんなこと取り組むよ!というメッセージとしては、

☆現在は遠方のプロジェクトも多いけど、ここから少しずつ諏訪近郊のプロジェクトに絞っていって、もっともっと諏訪という地域を掘り下げてリビセンらしい楽しいコミュニティをつくっていきたい!

☆今回の募集はポスト東野唯史&私のパートナーの募集でもあって。 これまで東野さんとペアで空間をつくってきたことしかないので、どんなひととどんな哲学持って一緒に空間をつくっていけるのか、とても楽しみ…!

だそうです。

「むむむ!これは気になる!ぜひ名乗りあげたい〜!」

という人のために問い合わせフォームを開設しました。以下からどぞ。

※〆切は4/21の23:59まで!我こそは!と思うアナタのご応募待ってまーす。

お名前

メールアドレス

リビセンが気になる理由は?

座右の銘をどうぞ

今までの経歴アピールや質問をご自由にどうぞ

※リビセンの窓口に直接メールが届きます
※個人情報は他の用途には使いません

それでは良きご縁がありますよう。

【追記1】僕は求人エージェントじゃなくて。友だちの縁で勝手に求人しているので詳しいこと聞かれてもよくわからない!ので何かあったらメールフォームから詳細聞いてね。

【追記2】なおちょっと前に仲良しの仕事百貨でも求人がありました。僕のこのエントリーはこの求人を受けてさらにエース候補!という内容です。求む才気煥発なデザイナー!

【追記3】年末の柳下おじさんの求人企画は大成功。近々「その後どうですか?記事」を寄稿してもらう予定です。お楽しみに!

発酵とファッションはよく似ている。逃れられぬトレンドという宿命。

『発酵文化人類学』の出版記念企画として、雑誌ソトコトの連載バックナンバーを無料公開!  なぜそんなことをするかというと、書籍版は過去の連載記事を全部無視した「完全書きおろしREMIX」だからなのだ!
発酵とファッションはよく似ている。逃れられぬトレンドという宿命。
 ソトコト2016年4月号掲載
「発酵」は日本に脈々と受け継がれてきた伝統文化。そしてこの伝統というシロモノ、昔から変わらないというものではなく、実は時代の流れにあわせて変わり続けているのです。
今回は、発酵文化から日本人の好みの変遷を考察してみたいと思います。

日本人の死因と、食生活の変化

昔と今でがんの種類を比べてみると面白いことがわかります。日本では高度経済成長期を境として、それまで最もポピュラーだった胃がんが減り、かわりに腸のがんの患者がどんどん増えていきました。これは何を意味しているのかというとだな。塩をたくさん摂ると胃がんにかかり、動物性の脂質やタンパク質をたくさん摂ると腸のがんにかかるということなのね。
つまり、昔のひとはしょっぱいものを食べ過ぎて死に、今のひとは動物性の食品を食べ過ぎて死ぬ、という傾向なわけだ。動物性のものを食べるようになったのは食生活が欧米型に移行したからなのは理解できる。ではしょっぱいものを食べ過ぎていたのなぜか?
それは「冷蔵庫がなかった」という理由が大きい。低温設備がない状態で食品を保存するには、塩をたくさん入れて発酵させる必要があったのですね。

塩味と酸味

ほら、よく古民家の縁側とかで漬物かじりながらお茶飲んでるおばあちゃん、みたいな光景があるじゃないですか。このしょっぱいもの好きなおばあちゃんは、酸っぱいものがニガテなんだね。日本酒も酸っぱいものが「火落ち酒」として嫌われるように、昔の日本人は酸っぱいもの=ダメになった食べ物と思っていたフシがある。
翻って現代に生きる僕たちはどうよ。朝起きたらヨーグルト食べるし、夜はバルでワイン飲んだり、酸っぱいものが大好き。反対に塩味のキツいお漬物がニガテ。このように、同じ日本人といっても、時代とともに味覚や好みは変わってくものなのです。

日本酒とファッション

例えば日本酒を例にとってみよう。昔の日本酒って、甘いか辛いかどちらかの味が好まれた。昔は砂糖が簡単に手に入らないから、甘いもの=美味いものだった。そして同時に、水のようにキリッと澄んだ辛口の日本酒も高級な味として嗜まれた。
しかし、そんなトレンドも最近は変わりつつある。僕と同世代、30〜40歳の若い醸造家がつくる酒に、ワインのような酸味と濃厚な旨味があるものが出てきた。これは紛れもなく、「新しい味覚の持ち主による新しい感性」なわけです。
えーと、この感覚何と言ったらいいのかなあ。80年代のTVドラマの登場人物がさ、肩パッド入ったDCブランドのジャケットとか着てるの見てもお洒落だなあって思わないでしょ。当時はこれが最先端で高級だったんだな、とは思うけどピンと来ない。かわりに、マーガレット・ハウエルのプレーンな白シャツをラフに着ているアイツお洒落だなあ、なんて思うわけです。
伝統文化である発酵食の世界にも、このような変化が起こっているのです。若い人は、自分と同世代の醸造家がつくる調味料やお酒を飲むといいですぞ。その時に、醸造家のファッションがイケてたらなおいいね!

【追記】僕の個人的な見解ですが、「最近若い人が食べてくれないんです」と嘆かれている発酵食品は、しょっぱすぎるものが多い。その代表格が、滋賀の熟れ寿司。これは「昔のひとの味覚によって作られた食べ物」の典型。熟れ寿司の未来は、伝統を貫き通すことではなく新しい感性でイノベーションを起こす必要があると思う。


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みりんで考える「甘み」の哲学


『発酵文化人類学』の出版記念企画として、雑誌ソトコトの連載バックナンバーを無料公開!  なぜそんなことをするかというと、書籍版は過去の連載記事を全部無視した「完全書きおろしREMIX」だからなのだ!

みりんで考える「甘み」の哲学
 ソトコト16.1月号掲載

どの家庭の台所にも置いてある調味料の定番、みりん。実は人間の味覚と生理作用を考えるときに大変示唆に富んだ存在なのです。今回はみりんを例にとりながら、人間にとっての「甘み」とは何かを考察していきましょう。

そもそもみりんとは何か?

新橋のSL広場でサラリーマン100人に聞いてみてもおそらく一人も答えられないであろう、みりんの製造過程。すごーくざっくり言うと「水のかわりに焼酎で仕込む甘酒」です(と書くとみりん業界からの突っ込みを受けそうですが)。

麹(こうじ)を焼酎で加水し、そこにもち米を投入。麹菌がもち米を糖化し、焼酎のアルコール分が腐敗をブロックします。そのまま数ヶ月かけて発酵させ、日本酒のようにもろみを絞ってボトルに詰めてできあがり。これが伝統的なみりんの製造方法。江戸時代頃にレシピが確立され、大正時代にほぼ完成されたようです。
スーパー等で売られている「みりん風調味料」というのは、この伝統的なみりんの味を糖類やアルコールを添加することでシミュレートした調味料のことで、発酵食品であるみりんとは別物なのです。

ブドウ糖とショ糖の違い

さて、そんな米と水と菌だけで作られたみりん。その糖度はめちゃ甘いメロンの軽く二倍以上。麹菌による、デンプン糖化酵素の力を極限まで引き出すことでこんなにも甘い食品を作り出すことができるのか…と先人の発酵技術の洗練っぷりに感心しきりです。
それでは次に、みりんに含まれている糖の種類の話をしましょう。みりんの糖の主体はグルコース、別名ブドウ糖です。対して、コーヒーに入れるスティックシュガーはスクロース、ショ糖といいます。同じ糖といっても種類が違うのですね。多くの食品に添加され、僕たちが普段親しんでいるのはショ糖。甘みの特徴としては、ガツン!と甘みが来て、スッと引いていきます。それに対して、みりんに含まれるブドウ糖はもうちょっと穏やかな波を描くんですね。じわっと甘みが来て、余韻を残しながら去っていく。

試しに本格みりんをストレートで舐めてみてください。すごく甘いんだけど、そこに丸みと余韻があるのに気付くはず(みりんはアルコール度数がけっこうあるので、おいしいからといって飲み過ぎはダメですよ)。

ナイスなみりんは、和食に魔法をかける!

和食に砂糖を入れるのは今や定番ですが、かつてはこんな便利な粉はなかったわけなので、みりんをおおいに活用していたはずです。砂糖とみりん、その違いを考えると、ショ糖とブドウ糖の味の違いに行き着きます。和食の持ち味は、丸みとあと引く余韻と、麹やダシの作りだす旨味です。この特性にみりんの甘みはピッタリ合う(というか、そういう食材によって日本人の舌が作られてきた)。

ふだん砂糖を入れているところを本格みりんを贅沢に使ってみると、いきなり料理がやたら上手くなったように錯覚します。食材の味の奥行きが出て、口にした時に味がスッと舌に吸い込まれていくようなテクスチャーが出てくるんですね。
それはなぜかというと「発酵によって形づくられた日本人の味のDNA」が覚醒するからなのですね。

料理上手の近道は、調味料の特性を知るところから。
手始めはみりん!普段みりん風調味料を選んでいる人は、ぜひ米と麹だけでつくった本格派を手にとって見てくださいね。

【追記】余談ですが、みりんはアーバンな知的労働者にオススメしたい。知的労働は脳を酷使しますが、その脳のエネルギー源となるにはブドウ糖のみ。アタマを目いっぱい使った日の食卓は、みりんをたっぷり使ったブリの照り焼きなんていいんじゃないですかね。

 


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発酵でつながるローカルのコミュニティ

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▶発酵でつながるローカルのコミュニティ ソトコト17年11月掲載

「この土地ならではの発酵文化の話を市に来てほしい」と日本各地からお誘いを受けます。現地の醸造蔵を見学したりローカル発酵食を食べて、その後に地域のコミュニティのみんなと対話する。そんな仕事をやっていると、発酵を通して地域にある様々なコミュニティがつながっていくことに気づきます。

発酵に紐づく様々なキーワード

一口に「発酵」と言っても、そこには様々なキーワードが紐付いてきます。郷土食、健康、農業、歴史、ローカルビジネス、DIY、子どもの食育、おばあの知恵、etc… 人によって発酵に期待することは様々。となると「発酵について話すよ!」と呼びかけると、そこには色んな人種が集まるんですね。醸造家はもちろん、農家や漁師、エステやセラピーをやっているキラキラ女子に工芸作家や郷土史家、食育サークルのママさんや行政職員、若い起業家やアンテナ張ってる大学生、給食センターのおばちゃんまで、多様性ありまくりでカオス!な場ができあがります。何度もこういう場面に遭遇しているうちに「実は地域コミュニティでこんなにも多様な人が集まって対話する機会って珍しいんじゃないの?」という気づきがあったわけなんだな。

異なるコミュニティに横串を刺す

札幌でトークイベントをした時のこと。これぐらい大きな街になると、そこにはジャンルごとに地域コミュニティがあります。カルチャー好きコミュニティと農業コミュニティは普段ほとんど接点がないんだけど、両コミュニティとも僕の発酵イベントに興味を持ってくれる層だったりする。こういう場ができると、イベント後の懇親会が盛り上がるんだね。「ずっと前から名前は知ってました!」「なかなか会う機会がなかった!」と、異なるコミュニティが出会うきっかけになる。

発酵は「良い関係性の発見」であると僕は定義しています。この原理は、微生物の世界にとどまらない。今まで接点のなかった異なる存在が結びつき、ケミストリーが生み出される。微生物の世界で麹菌や酵母、乳酸菌が出会うと美味しいお味噌やお酒ができ、人間の世界ではHIP HOPなお兄ちゃんと地元の農家のお母さん、アツい志を持った市役所員が出会うと素敵なコミュニティやプロジェクトが生まれていくわけなんですね。

異なる領域にいても、地域のために何かをしたい!という気持ちは一緒。そこからジャンルを超えたプロジェクトが始まることもしばしば。

いつの間にか発酵は「バラバラになった関係性」をつなぎあわせる接着剤のような役割を社会のなかで期待されるようになってきたのかもしれません。実際に酒蔵や醤油蔵の醸造家が地域コミュニティのまとめ役を担っていることも。

今回、この連載をまとめた本を全国のみんなに届けて回るなかで「発酵を起点に始まる地域のコミュニティ」そして「文化の多様性」の可能性に気づきました。

あ、あと懇親会が盛り上がってくるといつのまにか僕、隅っこでひとりポツンと取り残されがちなことにも気づいたよ。地元コミュニティが盛り上がるのは嬉しいけど、ちょっと切ないぜ


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人間にとって味覚とは何か? 発酵から見る味のクロニクル

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▶人間にとって味覚とは何か?発酵から見る味のクロニクルソトコト17年9月掲載

発酵食品と言えば「美味しい」もの。なんだけど、そもそも美味しいって何なの?発酵のことを研究していると、僕たちがふだん当たり前のように口にするおい美味しさの概念が実はとても曖昧であることに気づきます。今回は人間にとって味覚とは何か?を考えてみようではないか。

舌だけで味わっているわけじゃない

超スピードで解明が進む人間の脳の認知システムにおいて、難関とされるのが音楽と味覚。どちらも異なる脳の部位をいくつも連動させながら複雑な感覚を発生させているようです。例えばジュースを飲んだ時で考えてみよう。①まず舌で「甘い」という刺激を受け取る。②そして夏場の炎天下のなかだと触覚で「冷たい」と快感を受け取る。ここまでは生理的な欲求なのだが、脳の複雑な認知システムではこの生理的欲求のうえにバーチャルな情報が乗っかってくる。③子どもの頃から慣れ親しんできた味だとより美味しく感じる(やっぱりジュースはコーラがいい!)。④誰かにオススメされたり、パッケージがカワイイとより美味しく感じる(好きなあの子もそういえばコーラが好きって言ってた!)。

この①~④の要素が脳のなかで統合されて「やっぱ夏場は冷たいコーラが最高!」という感覚ができあがることになるわけですね。

絶対の味覚はありえるのか?

地方の農家民宿に泊まると、宿主のお母さんが「お客さん、私のどぶろく飲んでみるかね?」なんて勧めてくれて、いざ飲んでみると「こ、これはお世辞にも美味しいとは言えねえ!」みたいな味だったりします。それで愛想笑いしながら横を見るとお父さんが「そうだ!母さんがつくるどぶろくが世界一美味い!」と上機嫌でどぶろくをぐいぐい飲んでいる。そこで「お父さんは美味い酒を知らない!」と詰め寄るのは間違いで、お父さんの脳内においては本当に「母さんのどぶろくは世界一!」なのです。母さんへの愛=バーチャルな情報がそのどぶろくをお父さんにとっての特別なものなものにしているわけだからね。

発酵食品を例にあげてみると「普遍的に美味しい味」というものが幻想でしかないことがわかります。日本酒でもワインでも水のように澄んだ味が最上だとされていたのが、一人の天才醸造家がその価値観を覆し、原料の味わいを活かした濃厚な味をトレンドにしてしまう。あるいは田舎で細々と食べられてきたものすごく臭いチーズが、インフルエンサーが「この臭さがイイ!」と評価した途端に高い値段で売れるご当地グルメになってしまう。これはつまり味覚というは人気投票のようなものだと言えるのです。ちょっとしたきっかけでオセロが黒から白に引っくり返るように「美味しい」の定義が変わってしまう。

発酵食とは、いわば時代の価値観とともに変わっていく「人間の感性を写す鏡」なのです。去年までみんな着ていた服が今年では途端にダサく見える。青春時代に聴いていたヒット曲がどの時代の音楽より最高に思える。そんなトレンドの変遷の波間にふとした瞬間にエバーグリーンな普遍性がチラッと垣間見える。

トレンドに100%乗っかるのも楽しいし、セントジェームスのボーダーシャツやビートルズの名曲のようなスタンダードを変わらず愛し続けるのもまた楽しい。

自分が何を美味しいと思うと感じるのか。そこには実は自分の人生の履歴が残っているのですね。

「えっ、それってつまり自分が美味しいと思うものからその人の価値観が見えちゃうってこと?」

ご名答!

【追記】味覚は物理的な刺激とバーチャルな情報の複数のレイヤーが重ね合わされてできる認知。同じものを食べても同じような味覚を感じているとは限らないのです。


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思想としての発酵。不確かさを醸すよろこび

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▶思想としての発酵。不確かさを醸すよろこび  ソトコト17年9月掲載

春にこの連載の書籍版が発売されてから三ヶ月。発酵好きの人からはもちろん、もっと広く文化やテクノロジー一般に興味のある人たちからたくさんの感想をもらいました。そこで気づいたのが「思想としての発酵」という可能性。単に「美味くて身体に良い食文化」ではなく、世界の見方、自分の生き方のヒントを発酵という現象に求めている人が多いことに驚きました。そう。発酵はもはやライフスタイルを超えてカルチャーになりつつあるのです。

不確かさを愛でる

考えてみるに現代はあまりにもモノの見方が方程式化してしまっているかもしれません。「この仕事をしたら、こういう風にお金が儲かって、モテます」とまるでボタンを押したらポップコーンがポン!と出てくるかのような思考が強くなっていくなかで、発酵には「ボタンを押したら何が出てくるかわからない」という面白さがあります。

醸造家たちの仕事は、複雑さや不確かさのなかから生み出す創造性の象徴。食材の質はもちろん、醸す場所の気候や微生物の種類や働きなどの複雑な要素によって出来上がりが左右されます。発酵において、醸造家(人間)は本質的に「つくる」ことはできません。できるのは「仕込む」ということなんだね。

食材や微生物や気候の相互作用によって何か未知の、でもイケてるサムシングが生成されてくる「環境」をしつらえる。「味わうたびに微妙に味が揺らぐ」ことが美味しくて楽しいわけです。

サムシング・スペシャルへの飛躍

自分で仕込む手前みそ。そこには「サムシング・ニュー」から「サムシング・スペシャル」への思考の飛躍があります。

「社会一般にとって新しいこと」を追い求めるのではなく「自分にとって特別なこと」を味わう。「結果」ではなく「過程」に軸足を置いてみる。

これだけ世界中がインターネットで接続されるようになると自分が思いついたナイスアイデアが、実は地球の裏側の誰かがすでに実践していたことだったことがわかってしまう。そんな状況のなかで「世間の誰もが成し遂げなかったNEW」を追いかけることは苦しい。「他人と比べて進んでいる/遅れている」という価値観とは違うモノサシが必要なのではないかしら?

例えば手前みそを仕込むことは何百年も前から続けられているフツーのことなんだけど、やってみるとその人だけのスペシャルな体験を味わえます。みんなで共有できるのに、一人ひとりが特別感を味わえて、しかも出来上がりもそれぞれ違う。誰がいちばん美味しいかという正解もない。そこには「プロセスを味わう喜び」と「喜びを共有する楽しみ」がある。これが「サムシング・スペシャル」的な世界観。

発酵文化において奥深いのが、長く続く価値をもったプロダクトのほとんどが「競争」ではなく「共創」によって生み出されていくこと。「それぞれの人が自分の感性で試したこと」が共有知になって技術が洗練され、同時に味の多様性が生まれていく。「これはオレだけのNEWだ」と囲い込むことではなく「オレとオマエの味噌を交換しようぜ」と共有していくことで個性が生まれ文化が生まれていく。「サムシング・スペシャル」は自分だけの世界に閉じこもることではなくて、それぞれのスペシャルを分かち合うこと。

新しさを追い求めすぎると、世界は貧しくなっていく。新しさを追い求めるのではなくて豊かさ、楽しさを醸し出していく。不確かなもの、自分のカラダで感じられる特別さを感じとること。そしてそのプロセスをじっくり時間をかけて味わっていく。急がず、楽しく、自分らしく。そのための世界の捉えかたこそが「思想としての発酵」。均質化とスピードを追い求める世界と対峙するための方法論なのであるよ。


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三角形の幸せなコミュニケーション。発酵界には「読モ」が必要だ!

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▶三角形の幸せなコミュニケーション。発酵界には「読モ」が必要だ! ソトコト17年6月掲載

僕、微生物の研究に入る前は全国の地場産業に関わるデザイナーだったので、今でもたまに醸造業界から商品開発やブランドづくりの相談を持ちかけられることがあります。よくあるパターンのお悩みとしては「なかなか一般の人に知ってもらえなくて…」「広告やPRをどうしたらいいかわからない」のような「関係性のつくりかた」があるようです。

今回は僕なりに考える「幸せな関係のつくりかた」をお伝えしたいと思います。押忍!

不信感を生む関係性

発酵食品をつくるメーカー(作り手)と、それを味わうユーザー(受け手)。この信頼関係がマーケットおよび文化を形作る。なんだけど、しばしば両者は信頼ではなく疑いの線でつながってしまう。典型的なやり方でいえば、作り手は商品を広告して「ウチはこんなに素晴らしいものをつくっています」とアピールする。ところが受け手は「そうやってメーカーは不当にモノを高く売りつけようとする」と不信感を持つ。その反応を見た作り手は「消費者は文化の質を知らない」とガッカリしてしまう。

この悪循環を繰り返すうちに「あれ?この業界なんか行き詰まってない?」という状況が生まれることになる。

「わかる!ウチもそうです!」と心当たりのある読者の方も多いのではないかしら?

直線関係から三角関係へ

悪循環を脱出するには、作り手↔受け手の直線関係の上にもう一つ点を置いて、「幸せな三角関係」をつくることが大事だとヒラクは思うのですね。この三角関係の象徴を、僕は「読モ(読者モデル)」と呼んでいます。ほら、ファッション誌とかに出てくる「読者と業界のあいだにいるひと」のことね。この読モが文化が盛り上がる時のキーになるのだな。

日本酒を例にとってみよう。作り手の酒蔵と、たまに日本酒を飲む受け手がいる。そしてこのあいだに、お酒の嗜(たしな)みかたをよく知っていて、作り手の背景も知っていれば飲み手の素朴なギモンにも応えられる読モ的存在を置いてみる。すると滞っていたコミュニケーションが循環し始める。酒蔵は読モを唸らせるお酒を頑張ってつくり、読モはそのお酒をいちばん美味しく飲む方法を発明し、飲み手に「このお酒は、こんな人がつくっていて、こんな飲み方したら美味しいよ!」と楽しく伝える。すると飲み手は「日本酒ってこんなに美味しいんだ!ワタシももっと嗜み上手になりたい!」と開眼する。読モを通して作り手は自分のお酒の新たな可能性を知り、飲み手は作り手へのリスペクトを深める。

するとほら!みんなが幸せなコミュニケーションの循環が始まるではないか。

読モ=小売店&飲食店!

発酵業界における読モは、料理研究家やソムリエだけではなくて。重要なのは小売店と飲食店なのですぜ。日本酒でいえば、酒屋さんと居酒屋さん。ここが各地の蔵を訪ねて理解を深め、自分の店オリジナルのラインナップと飲みかたを提案し、お客さんと一緒に遊びまくると、停滞していた業界が盛り上がりはじめる。

実はだな。2017年現在、発酵業界における作り手の質はかつてないほど高まっている。一生懸命ものづくりに取り組む作り手に「もっと伝え方を考えないと」なんて言わせてはいけない!醸造家レボリューションの後は、読モレボリューション。ナイスなコミュニケーションをつくるポイントは「みんな幸せになる遊びかた」の発明なのですね。

人口5000人にも満たない岡山県西粟倉村で酒屋「日本酒うらら」を営む道前理緒さん(イラスト右)と深夜まで盃を酌み交わしながら語った席で、今回の「読モ理論」が生まれました。道前さんの実践こそ発酵文化の未来の種なのです。


このソトコト連載のバックナンバーを全て破壊しイチからREMIXしなおした書籍『発酵文化人類学』の書籍版、絶賛発売中!

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黒糖焼酎をめぐる、アジア的蒸留酒のミステリー

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▶黒糖焼酎をめぐる、アジア的蒸留酒のミステリー ソトコト17年6月掲載

こないだ奄美大島を訪ねてきました。目的は黒糖焼酎の醸造現場を見に行くこと。奄美諸島で育まれたこの不思議な発酵文化を紐解くことで、アジアにおけるお酒のルーツが見えてくるのではないか…?と期待して足を運んでみたら大当たり。黒糖焼酎を通して、東アジアへの「発酵の海道」が見えてくるのでした。

そもそも黒糖焼酎とは何だろうか

それではまず黒糖焼酎の説明をしよう。米でつくった麹を水に漬けて発酵させ、もろみ(酒母)をつくる。次にそのもろみにサトウキビを精製してつくった黒糖と水を足し、チョコレートのようなどぶろくをつくる。そのどぶろくを蒸留器で何度も蒸留(液体を蒸発させ、アルコール分を取り出す)、アルコール度数25~40度の酒を取り出したものが黒糖焼酎。もろみに米を足すと米焼酎、芋を足すと芋焼酎、黒糖を足すと黒糖焼酎になるんですね。

そしてだな。麹をつくる時の麹菌の種類も特徴的。日本酒をつくる黄麹菌でも、焼酎をつくる白麹菌でもなく、泡盛をつくる黒麹菌でつくる蔵がけっこうあります。全国に流通している大手のメーカーは焼酎用の白麹菌で飲みやすく仕上げているが、地元の小さな蔵には泡盛のような方法論で黒糖焼酎をつくるところがある。これらのローカル黒糖焼酎は、九州の焼酎文化とは一線を画す、僕なりに表現すれば「ものすごくオリエンタルなパンチのある風味」を持つ蒸留酒なんだね。

黒糖焼酎のルーツは琉球由来?

これは地理的に見れば納得の話で、奄美諸島は鹿児島県なのだけど文化的には琉球のルーツが色濃い。

黒麹菌で仕込んだ黒糖焼酎の発酵中のもろみを舐めさせてもらったのだけれど、コクと苦味と濃厚な甘みと酸味をあわせもった複雑精緻な旨味が醸し出されていた。淡麗な日本酒やスッキリとした焼酎をつくるときに複雑な風味は雑味として嫌われることが多いのだけど、南国のノラカビとしてサバイブしてきた黒麹菌(ルーツとされる菌は学名でアスペルギルス・リュウキュウエンシスという)独特の酸味と苦味が、黒糖の力強い甘味とバッチリはまるのだな。

焼酎×泡盛×ラム?

黒糖焼酎の原料になるサトウキビは、実はラム酒の原料でもある。なぜ一度麹でもろみを作ってからわざわざ黒糖を発酵させる必要があるのだろうか?最初から黒糖のみで酒をつくることも可能なのに。…と現地に行くまで不思議で仕方なかったのだけど、答えはシンプルでした。奄美には元々琉球から伝わった焼酎文化があり、離島では穀物や芋などの主食を原料とするよりも黒糖のほうが作物として合理的だったんだね。醸造工程はややめんどくさいのだが、その変わり焼酎と泡盛とラムのいいとこ取りをしたような個性的な酒ができあがった。僕のお邪魔した小さな蔵では、ラムのように樽で長期熟成させる琥珀色の黒糖焼酎の実験をしていた(色が透明じゃなくなると厳密には焼酎と呼べなくなってしまうのだけど)。これは奄美諸島以外に類を見ない、ものすごいキャパシティを持つ酒文化なんですよ。小さな島々に異なる文化の醸造技術が流れ込み、この地域独特の気候と作物とケミストリーを起こすことで、他の何物にも似ていない官能性を育て上げた。

黒糖焼酎のルーツを西へと辿っていくと、琉球王朝、台湾、そして東アジアの大陸へと行き着く。そう。奄美諸島はアジアにおける「蒸留酒の海の道」の東端なのであるよ。

【追記】黒糖焼酎のお供に欠かせないのが、奄美の島唄。みんなで歌い踊りながら黒糖焼酎を楽しむのが、奄美の最高のエンターテイメントなのです。


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発酵的ブリコラージュ。気候風土が生みだす野生の思考

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▶発酵的ブリコラージュ。気候風土が生みだす野生の思考ソトコト17年6月掲載

大好きなフランスの文化人類学者、レヴィ=ストロースの有名なコンセプトに「ブリコーラジュ」というものがある。

これはフランス語でいうところのDIY、日曜大工のこと。レヴィ=ストロースは世界中の神話を分析するなかで「こんなにも多様な神話が生まれた背景には、DIY的な方法論があるからにちがいない」と確信した。その気づきは、実は発酵文化にも当てはまるのだね。ということで今回は文化人類学の話でGO!

限られた材料から発想する

ブリコラージュの方法論とはなにか。僕なりにざっくり要約すると「目の前にあるものを集めて、それを並べる。そこから何をつくれるかを発想して組み立てる」ということ。日曜大工でも、道具箱から工具や余った木材やペンキを引っ張り出して「うーん、この材料だったら犬小屋がつくれるなあ」と発想したりする。それと同じようなことを、世界中の民族が神話をつくるときにやっていたのだね。

例えばエスキモーの文化だったら、そこには海があり、氷河があり、アザラシや犬がいて…という「材料」がある。それを組み立てると「お父さんに裏切られた娘が、海のなかで、犬やアザラシとともに神さまになる」という摩訶不思議な神話ができることになる。

世界各地で材料は違う。南米だったら熱帯雨林にカラフルな鳥がいて、中東だったら砂漠やオアシスにラクダがいる。その「材料の違い」が人間の文化の多様性

を生みだす。言い換えれば気候風土の違いが人間に文化の多様性を「生み出させる」と表現できやしないだろうか?

発酵はブリコラージュだ!

それでは発酵の話に移ろう。各地を歩いて思うのが「どうして世界中にこんなにも多様な発酵文化があるのか?」ということ。これって、レヴィ=ストロースの問いによく似ている。で、その答えも実はそっくり。世界各地で気候風土とそこに棲む菌の種類が違うからだ。レヴィ=ストロースは主著『野生の思考』のなかでブリコラージュの方法論を「雑多な要素からなり、かつたくさんあるといってもやはり限度のある材料を用いて自分の考えを表現することである」と定義している。これを日本の発酵に当てはめてみるとどうなるのかというとだな。

まず日本の農業の基本って田んぼでしょ。伝統的な田んぼでは、米の裏作で麦を育て、あぜ道で大豆を育てていた。米・麦・大豆が田んぼから導き出される「材料」だ。この材料を、田んぼや家に棲みついているコウジカビや納豆菌、乳酸菌などと掛け合わせる。すると、米から麹ができ、麹と大豆から味噌、大豆と麦から醤油、大豆をワラに包んで納豆ができてしまう。豆腐の味噌汁に、納豆かけご飯という定番のメニューは、田んぼの収穫物を「ブリコラージュ」してできるものだ。限られた材料を、発酵菌の働きと掛け合わせることで、毎日食べても飽きない多様なメニューを生みだすことができ、しかも原料そのものを食べるよりも栄養機能が高まっているというミラクル…!

日本人にとって当たり前すぎるこの定番セットは、エスキモー文化圏や中東の砂漠には存在しない。なぜなら材料自体がないからだ。

神話のブリコラージュにおいて、氷河やアザラシからエスキモーの神話が、山やヘビから日本の神話がつくられる。同様に発酵のブリコラージュにおいては乳を乳酸菌で醸す砂漠の発酵が、米をコウジカビで醸す里山の発酵がつくられる。

「物語のDIY」と「発酵のDIY」は、実は同じ方法論によって多様性が生み出されているのだね。文化人類学って、ホント役に立つ学問だぜ!

【追記】レヴィ=ストロースはブリコラージュの実践者を「器用な素人」と呼ぶ。発酵文化の起源も、無名の器用な食いしん坊が工夫してつくりあげたDIY文化なのだね。


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ヒトと見えない自然の織りなす芸術。「発酵文化人類学」が書籍になります!

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▶ヒトと見えない自然の織りなす芸術。「発酵文化人類学」が書籍になります!ソトコト17年5月掲載

2015年春から連載をはじめて二年。いよいよ「発酵文化人類学」が書籍になります!いったいどんな内容になるのか、この場を借りて皆さまにお知らせ&宣伝させてもらいたいと思います。やっほー!

まさかの100%書きおろし

普通、連載の書籍化って今までの内容に加筆して仕上げるんですけど「発酵文化人類学」は今までの連載内容を破壊し、ゼロから書きおろしています。単なるコラム集にしたくなかったのと、発酵の入門書を超えたディープな本にしたかったのですね。

僕の専門である麹をはじめ、ワインや日本酒、日本各地の変わり種発酵食品の技術的特徴を解説しつつ、微生物にまつわる科学的原理までわかるというお得な内容になっています。しかもソトコトの特集にも登場した、ミツル醤油やマルサン葡萄酒、五味醤油など新世代の醸造家たちも登場。彼らの現場に密着して発酵的ワークスタイルを掘り下げていきます。入門編の教科書に書いてある一般的な内容よりもさらにさらにディープな情報をこれでもか!と詰め込んでいるので、発酵や食にまつわる仕事をしている専門家の皆さまにも楽しんでもらえるんじゃないかしら?

文化人類学の入門書としても読める!

連載と大きく違うのは、文化人類学にまつわるトピックスがたくさん出てくること。文明と宗教の起源、神話的思考、交換儀礼、トーテミズム、贈与経済など、20世紀の文化人類学者たちが挑んだ「人間のルーツの謎解き」のプロセスを発酵文化と結びつけて僕なりに読み解いています。

20世紀初頭、アジアやアフリカ、中南米の部族世界が「未知のフロンティア」として文化人類学のフィールドワークの対象になりました。そして、世界の隅々まで開拓された21世紀において、次なる未知のフロンティアは目に見えない微生物の世界。微生物界に潜む生命原理を、僕たち人間の世界に当てはめてみたらどうなるのか?と仮説を立ててみたらあら不思議、社会にまつわるモヤモヤの答えが見えてくるのですね。

競争原理で社会は幸せになるのか?テクノロジーは人間を豊かにするのか?ヒトと自然の関係はどうなるのか?そんな疑問の答えの一端は、文化人類学と微生物学の交差点にあるのかもしれません。

発酵のことが知りたくて読んだら、文化人類学にも興味が湧いてきてしまった…!となること必至の「発酵カルチャー本」ですぞ。

WEBキャンペーン&出版ツアーやってます

出版にかこつけて、編集部と一緒にお祭りもはじめました。僕のWEB(hirakuogura.com)で「発酵文化人類学」のキャンペーンをやっています。これまでの連載のバックナンバーが読めるのと、本にまつわる様々な記事が楽しめます。さらに!出版にあわせて全国にイベントツアーに出ます。東北から沖縄まで、各地の醸造家&クリエイターたちと愉快なトークイベントやワークショップ、食事会を開催予定。それも僕のWEBページで随時情報をアップしていくので要チェック!全国の個性派書店と一緒に楽しい企画も盛り上げていくので、こちらも乞うご期待。

発酵ブームを発酵ムーブメントに。全国各地の醸造家や食の実践者の皆さまとともに「発酵文化人類学」の楽しい祭りが始まるぜ!みんなよろしくね。

【追記】発酵本とは思えない斬新すぎる装丁デザインは、SNSで呼びかけた投票によって決まりました。本をつくるプロセスもまた祭りなのだぜ…!


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クラフトビールを巡る、つくり手と飲み手の幸せな関係

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▶クラフトビールを巡る、つくり手と飲み手の幸せな関係ソトコト17年4月掲載

ビールの話の続き。ここ数年、スーパーの棚にクラフトビールが並ぶようになりました。大手メーカーの「いわゆるビール」ではない個性派ビールの台頭には、いったいどんな背景があるのでしょうか?今回は「つくり手と飲み手の関係性」を掘り下げまーす。

クラフトビール=個性派ビール

まずクラフトビールの定義。ローカルのビール屋さんが、職人的な技法や、メジャーなビールではできない原料や酵母を使うことによってクラフト(工芸)的な個性を持つビールができあがる。大手メーカーの主要銘柄は、喉越しの良いドイツルーツの「ラガービール」だが、クラフトビールはベルギーやイギリス、チェコやアメリカなどの様々な文化を反映したビールがある。

なかでも最も「ふだんのビールと全然違う!」と実感できるのが、ラガービールと違うタイプの菌(酵母)を使った「エールビール」だ。ラガービールよりも高温で発酵させ、醸造家のセンスや醸す環境の特性が色濃く反映される「味わうビール」なのだね。炭酸味やキレがラガービールより少ないぶん、口に含んだ後の味や香りの奥行き、心地よい余韻を残す苦味や旨味など、好みにはまればめちゃ心地よい陶酔感を味わうことができる。

こういう複雑な風味のクラフトビールが受容されるということは、つまりビールの楽しみかたが「とりあえず」から「じっくり味わう」に変わってきたと言えるのですぞ。

クラフトビール人気の背景

実はバブル期、観光目的の「ご当地クラフトビール」をつくるのが流行ったことがあった。自治体が大金を投じて「オラが町のビール」を開発したのだが、大半が10年ももたずに淘汰された。高価で見知らぬ味のビールを買う人が全然いなかったんだね。これ以降しばらく「日本人は結局大手のラガービールしか受け付けない」という定説が流布することになった。

しかし2000年代以降のクラフトビールムーブメントは違った。お酒好きが熱狂的に支持し、グラス一杯1,000円のビールをガンガンオーダーする。かつてのブームと一体何が違うのだろうか。ヒラクの私見では「飲み手のセンスの向上」がポイントだ。

つくり手と飲み手の幸せな関係

僕は日本各地で様々な年代の人たちと発酵食品の仕込みやテイスティングのワークショップをする。そのなかで、世代が下になればなるほど「味覚のセンス」が鋭くなってくるんだよね。

特にアートやデザインが好きなオシャレ女子の味覚はかなりのレベルで、先入観に囚われずに美味しさを判断できる。しかも、クラフトビールの複雑な味や香りをちゃんと要素分解して、自分の言葉で印象を語ることができる。反対に、上の世代は「情報」や「慣れ」によって好みの味の幅を限定していて、雑誌や本に書いてある味わい方を自分なりに追体験している、という人が多い。

クラフトビール専門のバーに行くと、オシャレな若者でいっぱい。彼らはビールを最先端のアートを楽しむような感じでビールを飲んでいる。

いくら良いものをつくっても、その良さを理解してくれる人がいないと文化は生まれない。革新的なプロダクトが根付くためには、先入観に囚われない柔軟なセンスが飲み手が大事なのだね。

「つくる」だけがアートじゃない。「楽しむこと」もまた文化をかたちづくる創造的な行為なのであるよ。

【追記】メジャーなビールとクラフトビールの典型的な違いはこんな感じ。他にもクラフトビールには様々なタイプがあり、自分なりの好みを見つけるにもハマる要因になるのだ。

 


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ビール黎明期に見る文明開化とモダンデザインの誕生

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▶ビール黎明期に見る文明開化とモダンデザインの誕生ソトコト17年3月掲載

ビールは文明開化の象徴だ!といきなり断言してもいいぐらい、明治時代、ビールが日本にもたらされた頃の歴史を紐解くと面白いエピソードがいっぱい出てくる。西洋文化をいかに日本的に取り込むか?当時の日本人の努力と好みがビールから見えてくるのだぜ。

日本のビール史は横浜から始まる

鎖国を解いて西洋文化を受け入れた明治の日本。そこにはもちろんお酒も含まれていました。ビールはなかでも最も日本人の口にあったらしく、明治初期から輸入が始まり、やがて横浜で国産ビールの醸造も始まります。

でね。当時ビール醸造は新興ベンチャー。一攫千金を目指して小さなブルワリー(醸造所)が2000年前後のIT黎明期よろしく次々と生まれていきます。この時にお手本にされたのが「イギリス式エールビール」。ロンドンのパブとかで出てくる色も味も濃い、コク主体のビール。しかし明治中期になると今度は「ドイツ式ラガービール」が登場。僕たちがよく知っている、黄金色で喉越しのいい、キレ主体のビールです。

日本人の好みにはドイツ式のほうが合っていたらしく、イギリス式ベンチャー醸造所は衰退、そしてドイツ式ビールの先駆者が、今の僕たちの知るキリンやエビス、アサヒ、サッポロといった国民的ブランドに成長していきます。

同時にどんどん値段がビールの値段が下がり、普通の庶民にも普及していきます。これが明治後期〜大正にかけてのこと。ビール黎明期は「海千山千のベンチャー戦国時代」だったのさ。

 モダンな商業デザインの誕生

日本のビール黎明期の歴史は、デザイナーとしても面白い。デザインの王道中の王道である「ポスターデザイン」の元祖は、なんとビールなのだ。明治が始まるとともに、化粧品や薬品などの看板や広告のデザインが隆盛する。しかしそれは新聞に印刷したり、浮世絵のような多色刷りで少部数のチラシを刷るようなものでした。

しかし大正4年、当時業界最大手のサクラビール(アサヒとサッポロの母体)が大規模な「デザインコンペ」を開催。 一等に採用された画家、北野恒富のポスターはなんと7万枚。これはやはりヨーロッパから導入された、大量かつ高速に多色かけ合わせ印刷ができるオフセット印刷機の技術によって可能になったもの。この瞬間、モダンな「商業デザイン」の世界がスタートしたと言っても過言ではないのね。

生き残りをかけた広告合戦

最新技術で印刷された人気画家のポスターは、当時流行のカフェやビアホールにアート作品として飾られ、同時にブランド認知の強力なツールとなった。するともちろん有力メーカーがこぞってデザイン界に参入し、ポスターはもちろん、マッチ箱やコースターなどのノベルティ、果ては漫画広告まで、今の広告デザインの基礎を成すプロトタイプが連発され、ました。

今でも昭和レトロをモチーフにした飲み屋さんや雑貨屋さんに行くと当時のポスターがすぐ見つかるのはそれだけ「大量に印刷された」から。ドイツ式のビールは、イギリス式と比べて味の個性が出しにくく、だからこそ味ではなくイメージにおける「差異化」が必要だったとも言えますね。

ビールをつくっている洋酒メーカーはたいていコンサートホールやミュージアムを持っていたり、人気クリエイターをCMやデザインに器用する文化がありますが、その起源は文明開化期の「ベンチャー戦国合戦」なのでした。

【追記】大正期のビールのポスターは、たいていが色っぽいお姉さんの絵のはじっこにブランド名が入った「美人画」スタイル。殿方はビール飲みながら「こんな素敵なお姉さんとデートしてえなあ…」と遠い目してたんでしょうね。


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微生物染色の極北、藍染の秘密に迫る!

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▶微生物染色の極北、藍染の秘密に迫る!ソトコト17年2月掲載

「発酵」と言って思い浮かべるのは食べ物やお酒ですが、実は食以外にも発酵技術は大いに活用されています。

例えば、日本の植物染色の代表格である藍染。あの独特のインディゴブルーは、微生物の働きによって生まれるのだな。

藍染ってそもそも何?

藍染とは、蓼藍(タデアイ)やインド藍などの「藍の葉」を使って深いブルーの色味に布を染める植物染色。
その起源は古代エジプト文明まで遡り、日本には奈良時代前後にシルクロード経由で入ってきたといいます。インド起源と中国起源が二大ルーツで、日本に入ってきたのは蓼藍を使う中国ルールで、江戸時代に徳島(阿波)で大きく発展しました。他にも北海道や沖縄には独自の藍染カルチャーがあります。
様々なバリエーションのある藍染ですが、基本の方法論としては以下の通り。

藍(アイ)の葉をコンポスト状にして固めたものを、石灰液のなかで発酵させた染色液で布を染める。もっと原理的に言えば「藍の葉に含まれるインディゴ色素を、発酵のちからによって布に移す」ということ。

藍染は、他の草木染めと比べて濃厚で深い風味と、色落ちしにくい特性があります。その秘密はズバリ「発酵のちから」なのだぜ。

インディゴ色素を取り出す

通常の草木染めと違い、なぜ藍染に発酵菌が必要とされるかというと、染色するための「インディゴ色素」が植物の外に出てこない「引きこもり色素」だから。そこで発酵菌がカウンセラーのごとく、色素を植物の外に引っ張り出すのさ。
それでは順を追って説明しよう。
まず、藍の葉をカラカラに乾燥させて丸めます。酸素と植物酵素の力により、インディゴ色素を分離するんですね。この乾燥葉を丸めたものを「すくも」と言います。

次に、このすくもを灰汁やふすま、酒などを入れたプールのなかに入れ、発酵させます。ここにいるのは「インディゴ還元菌」と呼ばれる特殊な菌で、石灰によってつくられるアルカリ性の環境で繁殖します。

この菌の働きによって、藍の葉のなかに引きこもっていたインディゴ色素が、プールのなかに溶け出していきます。

最後に染色。プールのなかに布を浸し、その後、野外で布を干し…というプロセスを何度も繰り返します。野外で干すのは、布を酸素に触れさせて「酸化」させるため。アルカリ性になって動けるようになった色素を、酸化させることでもう一度布のなかに閉じ込めるわけです。例えるならば。「引きこもりをシステムエンジニアに就職させて、今度はオフィスに引きこもらせる」みたいな状態ですね。

藍染はツンデレ発酵である

藍染の特性は「濃厚な色味で、色落ちしにくい」であると定義しました。

これが可能になる理由は「染めにくい色素をあえて使う」という発想にあります。インディゴ色素は、基本葉っぱから出てこない。だから一度他の物質(布)に移ると、強力に定着するわけです。いい年になるまで恋愛経験無しのエンジニアが一度濃厚に恋をすると、もう目移りしない=脱色しない、という原理になるわけなのですね。平匡さん…!

【追記】伝統的な藍染は発酵プロセスを使ってインディゴ色素を取り出しますが、最近は化学作用で直接色素を取り出す方法がメインに。とはいえ日本のあちこちに、発酵藍染の工房が今でも元気に活動しています。


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発酵の反対は呼吸?エネルギーの観点から発酵を捉えてみる

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▶発酵の反対は呼吸?エネルギーの観点から発酵を捉えてみるソトコト16年10月号掲載

突然ですが問題です。「発酵」の対義語は何でしょう?

「えっ、腐敗に決まってるじゃん」

うん。そうなんだけど、実はもう一個答えがある。それはなんと「呼吸」なのさ。前回宿酔いのサイエンスに引き続き発酵という現象をさらにディープに掘り下げていきたいと思います。押忍!

生物は呼吸でエネルギーを得る

伝説の潜水夫ジャック・マイヨールでも10分間呼吸をしないと死んでしまう。僕たち人間をはじめ、ほとんどの生物は酸素を呼吸することで生きている(魚だってエラで水中の酸素を呼吸している)。生物学的に見てみると、呼吸はめちゃ効率のいいエネルギー獲得テクなのだね。
食べたものを酸素と反応させることで高速かつ徹底的に分解し、その過程でATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる、生物界における「ドル札」を大量生産する。なぜドル札と表現するかというとだな。ATPは身体中の細胞に持ち運び可能で、必要な時に必要なだけエネルギーに交換することができる。エネルギーを溜めたり使ったりできる便利な存在なのだね。しかも異なる細胞や生物種のあいだでも共通で使えるから、共通通貨=ドル札なのさ。

発酵の効率の悪さが役に立つ

呼吸が酸素を使って効率良くエネルギー(ATP)を得る現象だとすると、発酵はその逆。酸素を使わずに、その生物の消化酵素だけで分解してエネルギーを得る。地球上に酸素がなかった時代からサバイブし続けている微生物たちは、酸素も太陽の光もなくても発酵することによって生きていくことができる。
これが生物学的な発酵の厳密な定義だ。(別にこんなこと知っていても合コンではモテないけどね)

便利な酸素という触媒を使わないので発酵のエネルギー獲得は効率が悪い(呼吸の1/16のATPしかつくれない)。
しかしこの「効率の悪さ」こそが、発酵が僕たち人間にとって役立つ理由なのさ。呼吸は取り込んだ物質をほとんど分解し尽くすが、発酵はちょっとのエネルギーを得るかわりにたくさんの余剰物を排出する。つまりなんだ、山盛り食べても速攻トイレ行って全然太らない大食いギャルタレントみたいなヤツなんだよ、発酵菌は。

でね。この大量の余剰物ってのが「乳酸=ヨーグルト」とか「アルコール=お酒」のこと。発酵食品とは「菌が消化しきれずに排出したウンチとかオシッコを人間がありがたく頂いているもの」のことです。

そこのアナタ、嫌そうな顔しないッ!

醤油や酒を撹拌する理由

よく醤油蔵で職人が桶のなかのもろみをかき混ぜていたりするでしょう。これは何をしているかというと、微生物の発酵と呼吸をスイッチしているんだね。もろみの表面には酸素があるので、ある種の発酵菌は呼吸することができる。でもそれだと人間に役立つ物質ができないから、そいつらを酸素のないもろみのなかに引っ張り込む。そうすると菌たちは「酸素なくなった!しょうがない、発酵するか〜」と代謝を切り替え、わずかなエネルギー(ATP)と引き換えに、せっせと人間サマが喜ぶ物質を献上するわけです。

…と書いているうちに、人間が発酵菌を薄給でこき使うブラック企業の経営者のように見えてきてしまったではないか。困ったもんだ。

【追記】呼吸と発酵におけるエネルギー(ATP)獲得方法の比較。酸素を使うことで分解を促進、複雑な代謝回路を経て多量のエネルギーを得ることができる。対して発酵はめっちゃシンプル。


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宿酔いを徹底分解!人間の体内でも発酵が起こっている!?

▶宿酔いを徹底分解!人間の体内でも発酵が起こっている!?ソトコト16年10月掲載

前回、酢酸菌によるお酢の発酵をしましたが、実はこの発酵って僕たちの体のなかでも起こっているって知っていましたか?今回はいつもより三割増しに発酵という現象に深入りしてみることにしましょう。サイエンス!

お酢の発酵と宿酔いの共通点

通常、発酵は空気のない場所で進行します。ところがお酢の発酵は例外で「空気(酸素)のある場所」で特異的に起こる。具体的に何が行われているか、飲みかけのワインがビネガーになる場面を想像してください。空気が侵入してきたビンのなかで、酢酸菌という発酵菌がワインのアルコールを食べ、それを酸素と反応させてエネルギーを得る。で、エネルギーを得る過程で搾りかすのように排出されるのがお酢なんですね。

驚くべきことに、この反応はヒラクが宿(ふつか)酔いになった時に身体のなかで起こる反応にめちゃ似てる。身体のなかに入ってきたアルコールを、体内酵素によってアセトアルデヒドに分解する、というところまでは読者の皆さまはご存知だと思いますが、実はアセトアルデヒドは最終的には別の酵素によって再度分解されて酢酸=お酢になる。どひゃー!

宿酔いの緊急レスキュー法

宿酔いになると、ベッドのうえで身じろぎもできず「金輪際お酒なんて飲まないと誓うので神さま助けてプリーズ」と絶望の淵に沈むのが常。しかし!酢酸発酵の原理を知ることによって迅速に現世にカムバックすることができるのだぜ。

宿酔いのアナタに必要なのは4つ。「酸素&水分&糖分&アルカリ性」です。酢酸発酵は大量の酸素を必要とするので、まず深呼吸してください。次に水分。発酵の最終段階で酢酸と共に水分が排出されるので脱水症状にならないように水をいっぱい飲んでください。さらに糖分。宿酔い状態の時には身体がアルコール分解を最優先して脳みそや各器官を働かすための糖分が作られなくなるのでチョコレートや甘酒で直接体内にぶち込んでください。ラストにアルカリ性。体内でお酢がつくられるわけなので、当然身体が激しく酸性に傾き、これが気分を悪くするのに拍車をかける。そこで食欲が戻ってきたらアルカリ性食品であるカレーを食べる。すると当然水が飲みたくなるし、汗と一緒に分解物が排出される。

ここまでコンプリートすればかなり人間に戻れるはずです。

ではこのような処置をしないとどうなるのか?酸素が不足して過呼吸になり、水分が不足して脱水症状になり、糖分が不足して頭痛になり、身体が酸性に傾いてめちゃムカムカする。おまけに前身から酸っぱいニオイが立ちのぼって目も当てられない。おお、まさに宿酔いの典型症状でないか!

 

 

微生物による発酵は、人間の体内でも起きている

生物学的に細かく見ていくと、微生物に特有だと思われていた発酵は、実は僕たちの体内でも起こっています。

宿酔い以外にもう一例。「筋肉疲労」は実はヨーグルトの発酵によく似ている。過度に運動すると「筋肉に乳酸が溜まる」とか言うじゃないですか。筋肉の細胞は通常酸素を使ってエネルギーをつくるんだけど、短期間のうちに酸素を使い切ると、酸素を使わないエネルギー代謝に切り替える。この代謝は酸素アリよりもエネルギーが少ないし、副産物としてヨーグルトでおなじみの「乳酸」が出る。だから運動会のあとのお父さんの足をかじると結構美味しいかもしれない。

 

驚くべきことに、僕たちの体内には酢酸菌と乳酸菌の遠い遠い親戚が住んでいるのかもしれませんぞ。

【追記】酢酸発酵の化学式。エタノール(アルコール)と酸素(空気)が化合すると、酢酸と水が分解される。これを宿酔いに当てはめると、お酒を飲んで深呼吸すると、身体から酸っぱいニオイが立ち上り、汗がダラダラ出るということになります。

 


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実は最古の発酵調味料?お酢のスゴさを思い知るべし!

▶実は最古の発酵調味料?お酢のスゴさを思い知るべし!ソトコト16年10月号掲載

ふだん何気なく使っているお酢。実は深い歴史と技術を持つスペシャルな発酵調味料です。今回は発酵食品のなかでは地味めな存在にスポットライトを当ててみるぜ!

そもそもお酢とは何か?

お酢は英語で”Vinegar”と言いますが、語源は元々フランス語の「酸っぱいワイン」から。「お酒が酸っぱくなったもの」。これがお酢の定義です。
ではどのようにしてお酒が酢になるのかというとだな。酢酸菌という発酵菌がお酒のアルコールを食べて、酢酸という強酸性(pH値2.5〜4)の酸をつくる。この「酢酸液」がつまりお酢。
でね。ここで1つポイントがある。
食品における発酵の多くは「空気のない環境」で起こるけど、酢酸菌は変わったヤツで空気が大好き。飲みかけのワインやビールを放っておくと「おや?俺の大好物のアルコールと空気があるではないか!」と、新橋駅高架下の赤提灯に吸い込まれるサラリーマンのおじさんのごとく開いたビンのなかに侵入しお酒をお酢に変えてしまうのであるよ。

ということはだ。お酢の歴史は「お酒の歴史と同じくらい古い」ということになる。

クスリにも使われた酢の効用

調味料としての用途以外にも、古代ギリシャ時代には、哲人ヒポクラテスが「飲むとクスリになるで」と病人にレコメンしていたというお酢。

一体なにがそんなにグッドなのであろうか?食材の味をタイトに引き立たせ、爽やかな風味を与えることができる(シチューに使うとお肉が柔らかくなるよ)。マヨネーズの原料になるし、マリネやピクルスとして酢漬けにもできる。寝る前に水やジュースで割って健康飲料にしたりと、お酢の調味料としての可能性は果てしない。
さらに。お酢には強い抗菌効果もある。お酢ほど強い強酸性の環境に、並のバイキンは耐えることができない。病原菌にやられている患者にお酢を処方したヒポクラテスは正しいのであるよ。
ちなみにお酢は掃除にも使える。僕の家の床はスギの無垢材なのだが、お酢を使って水拭きすると裸足のアカ汚れはキレイに落ちるし、空気も清らかになる。ビバお酢!

イチから作ると手間がかかる

では次に製法について。お酢はイチから作るとめちゃ手間がかかる。日本の伝統調味料である「米酢」を例に説明するとだな。まずお米に麹菌をつけて麹をつくる。次に麹と蒸米と水を混ぜて酵母の発酵で日本酒をつくる。さらにその日本酒をカメの中に入れ、1〜3ヶ月のあいだ酢酸菌による発酵を行って、そこから数ヶ月〜1年以上熟成させる。複数の菌をバトンリレーさせながら、長—い時間をかけてようやく完成する。手間がかかるぶん、原料の味がギュッと閉じ込められ、なんともいえない香りと風味がある。お酢というのは実に貴重なものだったんだね。
でも最近は、穀物をブレンドしたアルコール液を空気入れながら撹拌することで短期間に仕上げる速醸法が開発され、気軽にお酢が使えるようになった。僕は調味料に伝統製法、掃除用に速醸法のお酢を使い分けている(伝統製法のお酢で掃除すると匂いがスゴい)。

最後にちょっと小咄。酢酸菌発酵とよく似た現象は、僕たちの体内でも起こっていることをご存知かしら?アルコール、分解、空気…。ご名答、宿(ふつか)酔いでしたー!

【追記】僕のホーム、山梨にある戸塚醸造は日本でも数少ない「イチからつくる伝統製法」を実践するお酢屋さん。蔵に遊びにいくと、酢酸菌独特の酸っぱいような甘いような香りにテンションが上がります。


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微生物が生み出す、ローカル発酵食品の脅威の多様性

▶微生物が生み出す、ローカル発酵食品の脅威の多様性
ソトコト16年10月掲載

 

今回は特集と連動してお届け。特集で日本あちこちのローカル食を取り上げるということで、郷土食と発酵文化の関わりについて掘り下げてみまーす。

微生物は環境に超敏感

僕は仕事柄、日本のあちこちへ行って郷土食を食べる機会が多く、北から南、雪国から南国まで、日本の郷土食文化の驚異的な多様性を実感しています。なかでも僕の専門である発酵食は同じような食材であっても、地域ごとのバリエーションが広い。

それはなぜかというと、発酵菌が人間よりもはるかに環境に敏感だから。1℃の温度の違い、風通しの有無、酸性かアルカリ性か、水質や土質、塩が強いか糖が強いか等など、様々なファクターの微妙な違いが発酵菌にとっての「生きるか死ぬか」のボーダーになるのだな。

では具体例をば。江戸時代に日本酒醸造の技術が確立したのは兵庫県灘地域。冬の時期に六甲山から吹いてくる厳しい寒風が、雑菌を防ぎ、酵母をゆっくりと働かせる寒くて乾いた気候をつくりだします。しかもこの灘の「宮水」と呼ばれるミネラル分を含む「ちょいカタめ」の水質が、辛口のキリッとしたお酒をつくるのに適していた。同じ日本酒でも、お隣の銘醸地、京都の伏見では水質がもっと軟らかいので、辛口よりももっと甘味と旨味のある酒になります。昔の人はこういう土地の気候条件と発酵菌の働きの微小な違いに敏感で、灘の「男酒」、伏見の「女酒」と表現したりしていました。粋〜!!

保存食・貿易品としての価値

冷蔵庫のない時代、いかに食材を腐らせず長持ちさせるかがその土地の人々にとって死活問題でした。日本において最もポピュラーな防腐方法は「塩」。高い塩分のもとでは、腐敗を引き起こす雑菌が生きていくことができず、逆に風味と栄養をつくり出す発酵菌を呼び寄せることを経験的に知っていたのですね。ところがこの塩、昔は貴重品だったわけで、海から遠い山村とかではおいそれと手に入らない。そういう歴史を持つ土地では、塩を入れない味噌や漬物など、常識破りな発酵食品を見ることができます。
微生物の視点で見ると、塩は「クラスで一番の美人にヘンな虫がつかないよう目を光らせるメガネで性格キツい女子」みたいな存在で、そのガードをかいくぐってデートを申し込めるのはよっぽどの度胸とテクがいるので並の菌には無理!しかし休日に街角で偶然会ったしノーガードの彼女なら…!というテンションで、塩を使わない発酵食品では、ふだんお目にかかれない「ハイスクール!奇面組」みたいな変わり種の菌が活躍します。その結果、同じ味噌でも通常とは全く違う、チーズのような風味や香りを持つ個性的すぎるローカル食材が生まれるわけです。

さらに。個性的な発酵食品は貿易品としても重宝されたりします。土佐のかつお節は天下の台所、大阪へ。同じく土佐の碁石茶は瀬戸内海を渡って茶粥として重宝されました。貿易品になるということは付加価値が高いということなので、さらに技術と生産量が高まって「郷土の名物」としての地位が確立することになります。

 

1gのぬか床の中に数億の菌がひしめく、発酵という超ミクロコスモス。人間には及びもつかない小さな差異によって、大きな風味の個性が生まれていく。

その土地独自の食材×気候風土×菌のかけ合わせによる無限の可能性。ローカル食のイノベーションの鍵は、微生物にあるのかもしれません。

【追記】一般的にもっとも菌がいっぱい住んでいるのは湿り気のある土のなか。1平方cmあたり何億も棲息していることも。水中は以外に菌濃度が低い。家の中では、エアコンの通風口にいっぱいカビが住んでいたりするので、要掃除!


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知られざる豆腐ようのルーツ。中国と沖縄を巡るミステリー

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▶知られざる豆腐ようのルーツ。中国と沖縄を巡るミステリー ソトコト16年7月掲載

こないだ沖縄へ発酵文化のリサーチに行ってきました。目玉は沖縄独特の発酵食品「豆腐よう」の現場を見に行くこと。今回は、珍味好きに根強い人気を誇る豆腐ようの秘密に迫ります。

豆腐よう=豆腐の塩麹漬け

豆腐ようは、ドロドロに溶けたチーズ状の豆腐を爪楊枝などでチビチビ舐めながら泡盛のつまみにします。
味もまるでチーズのようで、酸っぱさ、甘さ、苦さ、そして独特の(というか臭い)香りが複雑に入り交じる、発酵界でも屈指のこじらせ食品と言えます。

ではどのように作るのかというと、超ざっくり言えば「豆腐の塩こうじ漬け」です。泡盛をブレンドした塩麹の漬け汁に、干して水気を抜いた豆腐を漬けて熟成(長い時は半年以上)させると、あら不思議、豆腐のタンパク質がドロドロに溶けてチーズのように。

麹菌を始めとする発酵菌の多数の酵素が豆腐を分解しまくった結果、もともとの原料には含まれていなかった糖類や旨味成分が濃縮され、香り高い泡盛の古酒(くーす)と合わせると「このまま海に沈むサンセットを眺めながら永遠(とわ)に発酵していたいけど、何も言えなくて…夏」と君の耳にそっと囁く夢を見たけれど、起きたら絶望的なふつか酔いだった…という話をよく聞きます(ホントかよ)。

実はピンクじゃない?琉球王朝に眠るルーツ

豆腐ようと聞いてイメージするのは、鮮やかなピンク色。これは、本土で使われている麹菌とは種類の違う、紅麹(べにこうじ)菌がつくり出す色。ところが、僕の行った豆腐ようの製造現場は、紅麹ではなく普通の麹に漬け込んでいた。この正真正銘の「豆腐の塩麹漬け」を製造している「琉球うりずん物産」にその理由を聞いてみたところ、「琉球王朝時代に口頭で伝えられていたレシピを調べてみると、本土と同じ麹でつくるものがメインだった。

現在メジャーになったピンクのものは、沖縄が本土復帰した後に物産品として発展したもの」とのこと。
口頭のレシピということで厳密には確証できないが、どうやら豆腐ようのルーツはピンクではなく味噌色であった可能性がある。

さてではピンク色の豆腐ようのルーツはいったい何なのであろうか。その答えは中国に古くから伝わる「腐乳」という豆腐をカビや細菌などで発酵させた加工品の文化。その中でもとりわけ台湾で重用される「紅腐乳(紅麹に着けた豆腐)」が、今日の豆腐ようのルーツとされる。

でね。気になるから行ってみたのだよ、台湾の紅麹工場に。そこで色々話を聞いてみたところ、驚きのエピソードが。

台湾の紅麹は、今から100年ほど前に日本からやってきた発酵学者と台湾のメーカーがチームを組んで紅麹菌の分離と純粋培養の方法論を確立したらしい(ちなみに日本に帰って農大の先生に聞いてみたら「そんな歴史は聞いたことない」との解答)。
近代的な発酵技術が開発されたことにより、紅麹は漢方食材として日常に普及しました(肥満や生活習慣病に効能があるとされている)。台湾に行くと、豆腐ようの他にも紅麹のお酒や、紅麹を練り込んだピンクのラーメンなど、目にも鮮やかな食文化を見ることができます。沖縄は古くから台湾と交流があったので、どこかのタイミングで紅麹の文化が共有されたのでしょう。

しかし発酵文化ってのは、掘れば掘るほど異文化間の交流が見えてきます。美味しいし、保存できるし、珍しいし、そりゃ価値のある貿易品になるよね。

【追記】色で麹の分類をすることもあります。お酒や味噌に使うのは黄麹菌、焼酎に使うのは白麹菌、豆腐ように使う紅麹など。赤い豆腐ようの鮮やかな色は、おみやげにはピッタリです。

 


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輸入文化も100年立てば土着になる。甲州ワインの今昔

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▶輸入文化も100年立てば土着になる。甲州ワインの今昔ソトコト16.6月号/発酵文化人類学

僕の住む山梨県甲州市には、150年続くワインの文化があります。

引っ越した当初、フツーのおじちゃんがステテコ姿でナイター見ながら、湯のみについだワインを飲んでいたのを見て仰天してものでした。しかも酒の肴はマグロのぶつ切り!
今回はその土着化しすぎた不思議な洋酒文化を皆さまに紹介するじゃんね(←甲州弁)。

みんな大好き!な超絶コスパワイン

甲州ワインの歴史が始まったのは明治初期の頃。フランスで修行を積んだ高野正誠と土屋竜憲という二人の青年が日本ではじめてのワイン醸造をスタート。当初は専用の設備が無かったので日本酒用の樽で仕込み、一升瓶に詰めていました。今でもスーパーや酒屋さんに行くと一升瓶ワインを目にすることができる(しかも旨安チリワインもビックリの超絶コスパ)。

甲州市をはじめとする山梨中央部では、老若男女ほんとに地元のワインが大好き。僕も山梨に来てから海外のワインをほとんど飲まなくなりました。
なんでそんなローカルなワイン愛が育ったのか。そこにはちゃんと理由があったのだな。

ローカル最適進化の個性派

「ガラパゴス進化」。

これが甲州ワインの特色だと断言してしまおう。まずブドウの種類。ワインは普通ワイン用ブドウを使って醸造するのだが、甲州ワインは「甲州」という昔からこの地に根付いている食用ブドウがスタンダード。他にも「ベリーA」とか「ブラッククイーン」とか「アジロン」とか輸入ワインではさっぱり見かけないブドウが使われている。

ワインの原料は、ブドウだけ(水も使わない)。なので、ブドウの違いは味の違いに直結する。

甲州ワインの味の特徴は「軽くて」「丸くて」「ミネラルっぽい」。赤ワインであっても何年も熟成させたりしないで、フレッシュなうちに飲む。まるでジュースを飲んでいるような喉越しの良さと人懐っこさがある(どっしり重いヤツもあるにはあるが)。

ワインは食中酒なので、お酒単体ではなく、食卓とのマリアージュが大切なわけですが、甲州ワインはどんな食事とマリるかというと「山梨の郷土食」とマリっちまうわけさ。マリ!

日本的テロワールの真髄

ここ数年、国際的な評価も急上昇中の甲州ワイン。その秘密は「ヨーロッパを真似しない」というスタンスにありました。ローカルな老若男女のためのテーブルワインならば、みんながフツーに食べているものにフィットするものでなければいけない。意外に保守的な山梨県民、外食以外でイタリアンやフレンチを嗜むわけでもないので、ほうとうにも煮物にも合うほっこりテイストを目指すのは必然。遠くのワインマニアよりも、とにかくご近所さんを喜ばすために工夫を重ねたら、いつの間にやら本場フランスやイタリアからも注目される個性派ワインになってしまったのだな。

最後に小話を一つ。友人のワイン醸造家の若尾くんに「和食に合うワインって、どんなイメージで作ってるの?」と聞いたらば「うーんと…焼き鳥の塩が白ワインで、タレが赤ワインかなあ」という驚きの返答が。

わかりますか?これが日本的テロワールってヤツなのよ。

【追記】ワイン醸造は、原始的であると同時に奥深い発酵技術。ブドウ汁の糖分に酵母が繁殖してアルコールや有機酸を生成していくわけですが、ブドウの品種や発酵期間によって笑えるぐらい味が変わります。要素が少ないぶんだけ、ブドウの出来で味が決まるので「ワイン醸造=ほぼ農業」と言える。

 


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漬物はロマンだ!菌と人との遠距離恋愛の風情を科学してみる

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▶漬物はロマンだ!菌と人との遠距離恋愛の風情を科学してみるソトコト16年6月掲載

携帯のなかったその昔、デートの待ち合わせってなかなかドキドキだったと思うんですよね。「◯月☓日、桜の樹の下で待つ」という手紙を下駄箱に入れて、さてあの人は来るのだろうか…

そんな昭和の学生のほのかな恋の風情を、僕は漬物に感じます。

漬物=人間と菌の共同作業

ぬか漬けや西京漬け、味噌漬け。日本は漬物文化の宝庫です
で、漬物の定義ってのは何よ?ってな話なんですが「発酵した汁やペースト、あるいは塩などに野菜や魚介などを長期間漬け込んで熟成させたもの」です。その中でも全国に広く分布しているスタンダードが「野菜を乳酸菌によって発酵させた漬物」。漬物と聞いてイメージするのは、菜っ葉なキュウリなどが塩っぽくて酸っぱい感じにしんなり発酵したものですよね。

この漬物の原理って、科学的に見てみても大変面白いものなのだな。野菜=植物は、固い細胞壁が細胞のなかの栄養成分(糖質やタンパク質等)をガードしているので、ほっておいても乳酸菌等の発酵菌は細胞のなかに入っていけない=発酵しない。で、漬物のレシピを見てみると、最初に塩を揉んだり、包丁でザクザク切ったり、重しを乗せて潰したりしています。これは「細胞壁を壊して、発酵菌がなかに入れるようにする工夫」なんですね。
人間がこうやって手助けすることによって、漬物が発酵できるようになるわけです。

漬物=待つことの美学

下ごしらえが終わったら、後は発酵菌の働きに委ねます。

うまく熟成が進むように願いつつ、待つ。早いものなら数日で結果が出るし、長ければ何ヶ月も、何年も待って幸せが訪れることがある。もちろん、微妙なコンディションの変化によってうまく発酵しなかったり腐ってしまったりすることもある。事前に万全は尽くすが、そこから先はコントロールできない。願いが成就(=美味しいものが食べられる)するかどうかは、神のみぞ知る。

限りなくスローな味わいの漬物は、まだるっこしいけれども、いちど発酵したならなかなか腐らず、長く楽しめる。待ったぶんだけ、複雑なテイストで飽きない。

…ほら、なんか古風な純愛のようにロマンチックでしょ?

漬物が美味しい&長持ちする理由

さてそんな漬物が発達したのは、保存食としての活用が第一(100年前は携帯どころか冷蔵庫すらなかったし)。

漬物が長く保存できる理由は大きくわけで2つ。一つは、塩による雑菌のブロックです。古代から塩は「場を清めるもの」として重用されてきましたが、これはスピリチュアルなだけでなく、科学的に見てもそのとおり。で、日本の発酵菌には塩に強いものが多く、腐敗を防ぎ発酵を促すという二重の効用があるわけです。

もう一つは、pH値のコントロール。乳酸菌や酢酸菌の発酵作用によって、食材のpH値が酸性に傾きます。pH値が中性から酸性に傾くと、これまた雑菌が入ってこれなくなるんですね。前者は塩漬の原理、後者は酢漬けの原理。で、ぬか漬なんかだとその両方を兼ね備えているわけです。

塩味があって、発酵菌のつくり出す旨味もあって…となると、これは当然日本人の主食であるコメによく合うわけですね。
昔の日本人は、恋文を出したらお家に帰って、漬物をポリポリかじりながらご飯を食べていたに違いない。で、お茶をすすって口の中の塩味を洗い流しながら「あの人は、桜の樹の下にあらわれるのだろうか…」と想いを馳せていたんでしょうねえ。

待つことの美学。なかなか粋なもんですなあ。

【追記】日本の数ある漬物文化のなかには、滋賀の熟れ寿司のように魚介を何年も漬け込んだものや、沖縄の豆腐ようのように加工品にユニークな赤カビをつけて発酵させたものなど、ビックリ仰天な珍味がいっぱいあります。死ぬまでに全部味わうことができるのかしら?


 

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日本に最初にやってきたお茶は発酵していた?知られざる発酵茶の世界

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▶発酵文化人類学とはなにか? ソトコト2016年6月号掲載 

近年サードウェーブ系コーヒーが大流行ですが、僕はお茶派です。

お茶好きになったきっかけは、中国への旅。飲み慣れた日本のお茶と全く違う世界がそこにはありました。フレッシュな緑茶とは一線を画す、重厚かつ濃厚な発酵茶をご案内するぜ。

最澄が日本に持ち帰った発酵茶

日本に初めてお茶の文化を持ち込んだ比叡山の開祖、最澄がはるばる唐から持ち帰ったお茶は、おそらく発酵していたであろうと言われています。
このお茶は、団茶(だんちゃ)と呼ばれる、茶葉に麹のようなカビをつけて長期間熟成させた世にも不思議な発酵食品。中国雲南省で飲まれているプーアル茶をさらに濃厚にしたような味わい。茶葉の水分をカラカラに抜いたうえでギュッと固めたブロックの形をしています(全然お茶に見えない)。

団茶は、唐の時代には貢物として重宝されていました。それも理由があって、ゲストが祖国に帰る長旅のあいだにも発酵熟成が進んで劣化しないわけです。

僕も中国で最澄が飲んでいたものに近いお茶を飲んだことがあります。腐葉土一歩手前のテクスチャー、かぐわしすぎる香りに怯みつつ、思い切ってひとくち飲んでみたらば、ガツンと頭と殴られたように覚醒し、心臓バクバク、身体中から汗が吹き出た記憶があります。日常食ではなく、恐らく薬のように使われていたのでしょう(ちなみに値段も目が飛び出るぐらい高かった)。

日本文化に根付かなかった発酵茶

さてそんな薬効あらたかな発酵茶ですが、残念ながら日本には根付かなかった。重厚な味わいがニガテでフレッシュさを好む僕らのご先祖は、発酵菌によってではなく、手でワシワシ揉むことで茶葉の酵素と旨味を引き出すことを選んだのでした(何事もせっかちな民族なことよ)。
まあでもそれもわからなくはない。塩味や甘味が強い日本の郷土食には、発酵茶の苦い味なじまないのさ。

発酵茶の末裔、高知の碁石茶

でもね、実はまだ残っているんだよ、最澄のお茶の末裔が。

高知県には、碁石茶という知られざる発酵茶の文化が残っています。

いやあ。さしもの発酵デザイナーも驚いたね、このヘンテコなお茶には。

蒸した茶葉にカビを付けるところまでは団茶と一緒。そしてそこからさらに茶葉に湯を加えて重しをし、漬物にしていく。つまり乳酸発酵させていく。なんと二段構えの重発酵茶なわけよ。

原理としては、恐らくまずカビを生やすことによって茶葉の細胞組織を破壊し、漏れだした内容物を乳酸発酵によって酸味や旨味に変えているのだと思われます(乳酸菌は植物の細胞膜に自力で入っていく力がない)。

で、味はといえば、酸っぱくてやや苦味を感じつつ、全体的には爽やかな仕上がり。ほら、最近オシャレ健康マニアの間で流行っているkombucha(紅茶キノコ)ってあるでしょ、あれにちょっと近い感じがあるので、いずれトレンドの発酵食品になるかもしれません。

最澄の持ち帰った発酵茶の文化、1000年以上の時を経て日本でもリバイバルするのではないか…と期待しちゃうぜ。

 

なお、本場中国には団茶やプーアル茶以外にも様々な発酵茶があります。味も香りも千差万別で、利き茶が激烈に楽しい。作法を重視して「道」になった日本茶に対して、あくまで味の多様性を楽しむ中国茶カルチャーの豊穣さよ。お酒好きのヒラクですが、もしお医者さんから禁酒命令が出たらば、茶道楽に移行したいと思っています(たぶん酒道楽よりお金かかるけど)。

【追記】最澄が持ってきたお茶の木のオリジナルが、比叡山の山中の茶畑に現存しています。この畑でとれたお茶は政所茶と言われ、滋賀や京都で飲むことができます。老舗のお茶屋さんに数年間熟成させた政所茶を振る舞ってもらいましたが、とても日本茶とは思えない味でした。おいしかった〜!


 

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日本のキムチは実は発酵していない?キムチのダブルスタンダード。

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▶日本のキムチは実は発酵していない?キムチのダブルスタンダード。ソトコト16年10月掲載

僕、免弱男子(めんよわだんし=免疫力弱め男子の略)なんです。
食習慣や生活習慣が崩れると、幼少からの体質であるアトピーや喘息が発動し、布団から起き上がれなくなってしまう。そんな免弱男子の強い味方が、何を隠そうキムチ。免疫を活性化させ、辛味の刺激で低体温をポカポカ温めてくれるサイコーな発酵食材なのだよ。

韓国の誇る高機能発酵漬物!

そもそもキムチとは何ぞや?小魚の塩辛に唐辛子や塩水、にんにくなどをブ

レンドした調味液に、白菜や大根などを入れ、冷涼な土地で数日〜数週間発酵・熟成させたいわゆる「漬物の一種」です。関与する発酵菌は、すげーたくさんの種類の乳酸菌。他にも酵母や、無酸素環境に住む古代の細菌も多数住んでいるらしく、1gあたりなんと5〜10億匹の発酵菌が棲息しています。

そんな「菌の共和国」とでも言いたくなるキムチ。味の特徴としては、乳酸菌のつくり出す酸味と唐辛子の辛味、野菜のまろやかさや魚介の旨味、さらに酵母がつくり出すガスによるシュワっとした口当たりが複雑に絡み合いまくる独特すぎるテイスト。僕にとってはサイコーな味なのですが、人によっては「強烈すぎて食べられない」ということもあるそうな。

 日本のキムチは発酵していない?

日本人がキムチを常食するようになったのは、1970年代後半以降。しかし当初から「辛すぎる」「ニオイが強すぎる」

という声があり、国産のキムチは辛味の香りも穏やかなテイストになっていきました。

でね。これってどういうことかというと「発酵させない」ということなのさ。キムチ風の調味液に白菜を浸した浅漬けが、日本のスーパーに並んでいるキムチの過半なのです。知ってました?
さて、本来発酵食品のはずのキムチが日本では発酵していないということを聞いてビックリした本場韓国、「ウチのはちゃんと発酵してますぜ」ということがわかる基準を作ったのです。

発酵キムチの見分け方

発酵キムチを見分ける方法を主に2つ。1つはローマ字の名称。日本ではキムチを”Kimuchi”と表記することが多いですが、韓国では必ず”Kimchi”です。パッケージにこの表記があれば、それはつまり韓国基準の発酵食品。もう1つが「唐辛子のゆるキャラ」です。これは「韓国直輸入の本格キムチ」を表すマークです。

ざっくり言うと「本場韓国の味!」を強調していれば発酵しているキムチ、「安心の国産!」を強調していれば発酵していないキムチ風浅漬と思ってもらっていいかなと。

ちなみに発酵デザイナーともなると食べるだけで発酵の可否がわかります。ぬか漬けとヨーグルトを足してややこじらせたような独特な香りと、菌のつくり出すシュワっとした酸味、これを感じれば発酵しているということ。

対して和風キムチはどうかというと、酸味控えめで旨味と甘味が強く、日本人の味覚に沿うものにアレンジされとるなという印象。ドイツ伝来のビールにお米やとうもろこしのでんぷんを添加してしまう日本人。「旨甘」の味覚から離れられないんだよねえ。

免弱男子の僕は、ふだん発酵キムチを好んで食べていますが、和風キムチもそれはそれで、「たらこスパゲッティ的な味わい」があると思ったりして…。

【追記】スーパーの棚に並んでいるキムチは、7:3の割合で発酵していないものが多い。発酵キムチは時間が経つにつれて熟成が進んで風味が変わるので量販店の流通に適していないのかもしれません。発酵食品ってそういうもんなんだけど。


 

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東京都美術館『おべんとう展』に新作アニメを出展します。

ニュースでーす。
今年2018年の7/21〜10/8まで、上野の東京都立美術館で開催される展覧会『おべんとう展』に新作アニメーションを出展!します。

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アニメのイメージボード。おべんとうを探して色んな国や文化を旅するストーリー

「歌って踊れるお弁当」をテーマに、展覧会全体のプロモーションソングとして、そして展示会場でいちばん冒頭の作品になります。僕、美術館の仕事はじめてなんですけどめちゃ大仕事ではないか…!がんばるぞ〜!

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主人公となるキャラクター「ね子ちゃん」と「おべんとウサギ」。

『手前みそのうた』や『こうじのうた』でもおなじみの、一度聴いたらクセになる可愛い歌と、親子で楽しく踊れるダンスとともにお弁当の楽しい世界をガイドします。


このアニメは展覧会のPRソングでもあるので、展覧会スタート前に公開をスタートする予定。どうぞお楽しみに〜!

でね。
こないだプレスリリースの時に作家の皆様と集まってお互いの作品の情報交換したんですが、現代美術のインスタレーションからお弁当を食べる人の写真展、古今東西のお弁当箱のコレクション公開など、どう考えても面白すぎる内容に胸アツ…!

ちなみに参加作家はこんな感じ。

・阿部了(写真家)
・大塩あゆ美(料理家)
・小倉ヒラク(発酵デザイナー)
・北澤潤(現代アーティスト)
・小山田徹(現代美術家)
・平野太呂(写真家)
・マライエ・フォーゲルサング(イーティング・デザイナー)
・森内康博(映像作家)

さてどんな愉快な展覧会になるのでしょうか?
こちらのティザーサイトで順次内容がアップデートされていくようです。

☆☆おべんとう展公式サイト☆☆

【追記】ということで、4月〜6月前半にかけて全力でアニメを制作しなければいけないので基本的には山梨のアトリエで菌になります。どうぞよろしく。