神さまと人をつなぐ山の寿司。柿の葉寿司

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柿の葉寿司(鳥取県智頭町)| 國政勝子さん

お盆の精進落しに食べる華やかな郷土寿司


日本昔話に出てくるような牧歌的な景色。智頭は古くからの林業地だ

日本各地の発酵文化には、それがあまりにもローカルに流通しているゆえ醸造メーカーすらなく、地元のお母さんたちが手づくりで継承しているものも少なくない。今回紹介する鳥取県智頭町の『柿の葉寿司』もその一例だ。

鳥取県南部にある智頭町は、人口6000人強の山間の町。川沿いの集落の小高い丘の上に住む料理名人、國政勝子さんが智頭の柿の葉寿司の伝統を守っている。


桶のなかにギッシリとお寿司を詰めていく

関西でメジャーの柿の葉寿司は、ちまきのように柿の葉でご飯を包んでつくる押し寿司スタイルなのだが、智頭町のスタイルは柿の葉に握り飯を乗せ、さらにそのうえに具を乗せる江戸前寿司スタイル。葉の緑、飯の白、具のピンクが目に鮮やかで可愛らしい。

初夏から秋口までにちぎった柿の葉に、酢で〆た白米と鱒(ます)で握った寿司を載せ、その上に山椒の実や穂など季節の香草をアクセントにする。それを桶に仕込んで何段も重ね、1〜5日間ほど発酵させる。柿の葉と酢によって腐敗を防ぎ、お盆の暑い時期の防腐対策としたのだろう。

写真の通り一度に何十個と仕込むので、柿の葉寿司は親族や村の共同体で集まって食べるパーティ食なのだ。

「いつからこのお寿司があるのかは知りません。私は祖母から教わって、その祖母もまた彼女の祖母から習ったの。そうやってずっとおばあちゃんの味が続いてきたのよ。私も気づいたら50年以上柿の葉寿司を作り続けているみたい」

と勝子おばあちゃん。超絶シャイで可愛いぜ…!

今でこそ一年を通してお祝いの場で食べられる柿の葉寿司だが、元はお盆の終わりをつげる『精進落し』として食べらていた。
(ちなみに現代の精進落しは死者の火葬が済んだ夜に食べる食事のことを指すけれど、元は神事や巡礼、重大な災害などが落ち着いた後に「おつかれ!」という気持ちを込めて食べる食事のことだった)

山深く、肉食を禁じられた土地で、貴重な魚肉と白米をいっぺんに食べられる柿の葉寿司はお盆という夏の一大事を終えた共同体の労をねぎらう「ありがたい山のお寿司」だったのだろう。年に一度のことだから、見た目も美しく、味も酸味と甘味が効いている。智頭のおばあちゃんの優しさが泣けるほど伝わってくる郷土寿司の真髄だコレ!

どうやってつくる/食べる?

▶How to 仕込み
A:柿の葉の上に、酢で〆た白米と鱒で握った寿司を載せる
B:寿司の上に山椒の実や穂など季節の香草を乗せアクセントとする
C:それを桶に仕込んで何段も重ね、1〜5日間ほど発酵させる。

☆発酵しないうちに食べると甘酸っぱいフレッシュな味、発酵が進むと酸味とコクが効いた旨味の強い味に。どちらを選ぶかは人の好みだそう。
☆鱒ではなく紅鮭を使う場合もあるが、味が淡白すぎて鱒のほうが上等とされるらしい。

▶食べかた
・家族や村の寄り合いでみんなでガシガシ食べる

▶食べられている地域
握り飯スタイル:智頭町はじめ鳥取・石川
押し寿司スタイル:和歌山・奈良

▶微生物の種類
主に柿の葉に棲み着いている野生乳酸菌

旅のメモ


柿の葉を集める様子。勝子おばあちゃんは家の近所のものをたくさん集めて料理に使う

郷土寿司はスピリチュアリティと深い関係を持っているらしい。
勝子おばあちゃんによると、智頭には2つの郷土寿司の文化がある。

一つはお盆の精進落しに食べる柿の葉寿司。
もう一つは、正月に歳神さまにお供えするサバのなれずし。

前者はご先祖様が帰った後の「おつかれ!」で、後者は新年を迎える「ようこそ!」だ。

勝子おばあちゃんの話を聞いている時に、僕の母方の実家の佐賀の漁村の文化を思い出した。漁師だったおじいちゃんは、お盆が始まると漁に出なくなる。この時期に海に行くと「ご先祖様に連れて行かれてしまう」ということなのだそう。

お盆の最後の日に海に紙や木でつくったミニチュアの船にお供え物を入れて流し、その儀式が終わったら漁に出て、魚が食べられるようになる。海や川など、水と深くつながった土地において、お盆の終わりに魚を食べることは彼岸と此岸の境界線を引く特別な食事であることがわかる。

かつての地域文化において、お寿司は神様と人の間をつなぐ重要な食べ物だったのだ。


もはや時空を超えた存在といえる勝子おばあちゃん。尊い…!

ちなみに今回の旅は、野生菌でパンとビールを醸すタルマーリーの女将、渡邉麻里子さんにコーディネートしてもらいました。古くからの発酵と新世代の発酵が同居する町、智頭は景色も人もサイコー!また遊び行きますね。


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