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酒造りはアートだ!人間と自然をめぐる美の探求の世界

『発酵文化人類学』の出版記念企画として、雑誌ソトコトの連載バックナンバーを無料公開!  なぜそんなことをするかというと、書籍版は過去の連載記事を全部無視した「完全書きおろしREMIX」だからなのだ!

▶酒造りはアートだ!人間と自然をめぐる美の探求の世界 | ソトコト2015年7月号掲載 

酒造りはアートである。

よく言われることだけど、これホント。今回は醸造家が「どのようにしてお酒をデザインしていくのか」を掘り下げながら、「僕たちにとって美とはなにか」を考察していくぜ。どうぞよろしく!

そもそも日本酒ってなんですか?

日本酒とは、前回取り上げた「麹」を元にして、米と水の原料だけでつくるお酒。世界でも類を見ないユニークなものです。

普通お酒は、ブドウや麦芽など「糖分のある原料」に酵母菌をつけて発酵させます。しかし日本酒の原料、お米には糖分はない。それでもお酒は飲みたい。どうするか?「麹」に糖分をつくってもらって、そのあと酵母を呼びこむのです。つまり「菌のバトンリレー」をデザインするわけよ。よく考えついたものですなあ。

このように異なる菌の働きを見極めながらつくっていく日本酒は、「原料の質≒酒の質」のワイン等よりも、醸造家の「発酵テク」によって味が左右される。これが「アート」っぽいところ。

人間と自然、どちらが美をつくる?

紀元前から続く議論として「人間が美を生み出すのか」、あるいは「自然の中にある美を人間が取り出すのか」というものがあります。これ、酒造りを見ているとよくわかるのね。

現在の主流は前者で、醸造家が自分の感性で酒の味をデザインします。
つまりだな。最初に「フルーツみたいな華やかな香りで、スッキリした飲みくちで…」と味を設計したら、それに見合う麹菌や酵母菌を注文する。で、繊細に温度や湿度を管理しながら、醸造家の美意識に沿った味を再現していくわけです。試飲会で感動するような吟醸酒の多くはこのようなプロセスで作られる、正に匠のこだわり。

だがしかし!アートと発酵の素晴らしさは「正解がない」ことにある。

千葉県神崎町にある「寺田本家」では、今の主流と違うアプローチで「美」を見つめているのだな。
ここでの酒造りは「そこに住む菌と一緒につくる」ということを前提としている。これはどういうことかというと、近所の田んぼに住む麹菌をとってきて、蔵に何百年も住んでいる酵母菌を降ろして酒をつくるということなのね。

ここで人間ができることは「自然がつくりだす現象を取り出してくる」こと。醸造家がどのような味にしたいかということよりも「その土地の自然を引き出してみたら、結果こんな味になりました」という世界観なのです。

これはまるで、写実的なアカデミズムに対して、自然の光をそのまま写し取ってキャンバスに定着させた画家モネの「自然美の媒介としての芸術家」のごときスタンスではないか!

正解はない。無限の「美味しい」だけがある。

さて。「その場にあるものを使う」という前提でつくったお酒はどうなるかというと、大変に個性的な味になる。

「うまい日本酒」の指標は、「スッキリ味」「華やかな香り」。対して寺田本家のお酒は「酸っぱい味」「土っぽい香り」なので、いわゆる「日本酒好き」は敬遠するが、一方で新たな日本酒ファンを生み出してもいる。「その場にある自然」に委ねることで個性が生まれ、それが新たなニッチをつくりだす。そうやって多様性が生まれていく。

文化とは、ただ一つの正解に向かって収斂するのではなく、無限の問いに開かれていくものなのだ。

「ところで、ヒラク君はどっちが好きなのかね?」

えっ、僕ですか?両方好きですよ。だってどっちも美味しいんだもの。


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