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発酵とファッションはよく似ている。逃れられぬトレンドという宿命。

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発酵とファッションはよく似ている。逃れられぬトレンドという宿命。
 ソトコト2016年4月号掲載
「発酵」は日本に脈々と受け継がれてきた伝統文化。そしてこの伝統というシロモノ、昔から変わらないというものではなく、実は時代の流れにあわせて変わり続けているのです。
今回は、発酵文化から日本人の好みの変遷を考察してみたいと思います。

日本人の死因と、食生活の変化

昔と今でがんの種類を比べてみると面白いことがわかります。日本では高度経済成長期を境として、それまで最もポピュラーだった胃がんが減り、かわりに腸のがんの患者がどんどん増えていきました。これは何を意味しているのかというとだな。塩をたくさん摂ると胃がんにかかり、動物性の脂質やタンパク質をたくさん摂ると腸のがんにかかるということなのね。
つまり、昔のひとはしょっぱいものを食べ過ぎて死に、今のひとは動物性の食品を食べ過ぎて死ぬ、という傾向なわけだ。動物性のものを食べるようになったのは食生活が欧米型に移行したからなのは理解できる。ではしょっぱいものを食べ過ぎていたのなぜか?
それは「冷蔵庫がなかった」という理由が大きい。低温設備がない状態で食品を保存するには、塩をたくさん入れて発酵させる必要があったのですね。

塩味と酸味

ほら、よく古民家の縁側とかで漬物かじりながらお茶飲んでるおばあちゃん、みたいな光景があるじゃないですか。このしょっぱいもの好きなおばあちゃんは、酸っぱいものがニガテなんだね。日本酒も酸っぱいものが「火落ち酒」として嫌われるように、昔の日本人は酸っぱいもの=ダメになった食べ物と思っていたフシがある。
翻って現代に生きる僕たちはどうよ。朝起きたらヨーグルト食べるし、夜はバルでワイン飲んだり、酸っぱいものが大好き。反対に塩味のキツいお漬物がニガテ。このように、同じ日本人といっても、時代とともに味覚や好みは変わってくものなのです。

日本酒とファッション

例えば日本酒を例にとってみよう。昔の日本酒って、甘いか辛いかどちらかの味が好まれた。昔は砂糖が簡単に手に入らないから、甘いもの=美味いものだった。そして同時に、水のようにキリッと澄んだ辛口の日本酒も高級な味として嗜まれた。
しかし、そんなトレンドも最近は変わりつつある。僕と同世代、30〜40歳の若い醸造家がつくる酒に、ワインのような酸味と濃厚な旨味があるものが出てきた。これは紛れもなく、「新しい味覚の持ち主による新しい感性」なわけです。
えーと、この感覚何と言ったらいいのかなあ。80年代のTVドラマの登場人物がさ、肩パッド入ったDCブランドのジャケットとか着てるの見てもお洒落だなあって思わないでしょ。当時はこれが最先端で高級だったんだな、とは思うけどピンと来ない。かわりに、マーガレット・ハウエルのプレーンな白シャツをラフに着ているアイツお洒落だなあ、なんて思うわけです。
伝統文化である発酵食の世界にも、このような変化が起こっているのです。若い人は、自分と同世代の醸造家がつくる調味料やお酒を飲むといいですぞ。その時に、醸造家のファッションがイケてたらなおいいね!

【追記】僕の個人的な見解ですが、「最近若い人が食べてくれないんです」と嘆かれている発酵食品は、しょっぱすぎるものが多い。その代表格が、滋賀の熟れ寿司。これは「昔のひとの味覚によって作られた食べ物」の典型。熟れ寿司の未来は、伝統を貫き通すことではなく新しい感性でイノベーションを起こす必要があると思う。


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