▶レビュー

木を生やす。森を守る。「産土―懐―」を見ておもうこと。

映画「産土―懐―」を明治神宮に見に行ってきました。

この作品は、日本と世界各国の監督がキャラバン隊を組んで「日本各地のルーツ的な場所」を巡るドキュメント映画。人の生まれた場所、守り神を意味する「産土」というキーワードから、森や海に生きる村人の生業と祈りを切り取っていく。

↑ロング予告編。なんと友人の音楽ユニット「たゆたう」が音楽を手がけている(驚)!

これ、しみじみと良い映画でした。
えーとちょっと違うな。映画というよりは「アーカイブ」と言ったほうがいいかもしれないな。姫田正義さんが創始した「民族文化映画研究所」のアーカイブを、すごーくイマドキにリミックスしたような感じです。

九州から東北まで、アクセスが悪そうな小さな村にひたすら通う。現代版「宮本常一」のような地道な作業が積み上がってできた映画なんだろうな〜。今から10年後か20年後、僕たちの世代は、儀式もお祭りも森や海との関わりも記憶喪失になるかもしれない(ていうか多分なるだろうな)。その時に、「本当にこんな記録残してくれてありがとう!」と色んな人から感謝される作品となることでしょう。

ひょっとこが重要な役割で登場してくる。

で。あともう一つ印象に残ったこと。
上映後のトークセッションに、明治神宮所属の今泉宣子さんという研究者が登壇していたのだけど。今泉さんの「明治神宮の森はどのようにできたか」という話が面白かったんだな。明治神宮の森は、もとから森だったわけではなく、100年前にボランティア有志で「えいやっ!」と10万本の植樹をしてつくられたらしい。久しぶりに歩いてみて、「新しい森だな」とは思ったんだけど、ゼロから人口でつくったとは思わなかった(←僕が無知なだけかもしれないが)。

同じく登壇していた民俗学者の野本寛一さんによれば、林は「生やし」と書く。つまり木を植え、生やしていく段階を指す。いっぽう森は「守」とも書く。木がたくさん生えてきた状態を維持できるよう、ひとが「守る」のが「森」であると。

100年が経ち、明治神宮の敷地は林から森になった。
もっと大きなスパンで考えてみれば、日本の森のほぼ全ては「人が手を入れた森」だ(屋久島のごく一部に人の手がまったく入っていない原生林があるけど)。そのなかで、「鎮守の森」と呼ばれる神社仏閣の敷地にある森は、人が管理しつつ、しかし自然の力によって樹種が増えて育っていくような生態系になっている。

驚くべきは、「勝手に育つような森の生態系を設計する」という、森に生きる人達独特の世界観と知恵だと思うんだな。
「産土―懐―」には、そういう知恵を持つ「忘れかけられている日本人」が記録されている。

この映画に登場する人々が本当に「忘れられた日本人」になるかどうかは、僕たちにかかっていると思うよ。

(ミナミさん、ご招待ありがとうございました!荒川さん、トムさん、また会いましょう)

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