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寺田本家 『うふふで醗酵』 アートディレクション

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千葉県神崎町で340年続く酒蔵、寺田本家の調味料ブランドのアートディレクション。
醗酵男子のCOZY TALKを縁に知り合ってからとっても共感している寺田さんたちから「普段の食卓に使える調味料を作りたいんだけど…」と依頼を受けて一緒にデザインしました。

プロデュース:寺田 聡美(寺田本家)
アートディレクション・デザイン:小倉 ヒラク
書:葉山 万里子
商品写真:寺田優(寺田本家)

プロジェクト期間:2015.05〜1015.11

デザインにあたって考えたこと

▶「ちょうどいい売りかた」を見つける

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商品のレシピを考案したのは、寺田本家のキュートな女将、寺田聡美さん。

地域に根付いたものづくりには「ちょうどよく売れる」ということが必要です。
自分たちの理念が伝わるお客さんに、負荷をかけない量を、適切な流通で届ける。投げ売りする必要もなく、注文が殺到しすぎて生産に負荷がかかりすぎることもない。

今回のプロジェクト、依頼があってからしばらくは「寺田本家のようなメーカーにとって、ちょうど良いとは何か?」という定義をつくることに時間を割きました。
つまり、単純にパッケージデザインをするということではなく「どのような方法でこの調味料ブランドが売られていくべきなのか?」という問いを立てることです。

▶販路から逆算してデザインを組み立てる

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お披露目は、大地を守る会さんのイベントにて。

デザインをはじめる前にやったのが、まず販路から先に考えること。
友人を介して食材通販の「大地を守る会」さんに、この商品ブランドを扱ってもらえないかと打診しました。理由は

・品質が担保された、良心的な生産者しか取り扱わない
・一定数以上の顧客基盤があり
・かつ生産量を少量に限定することも可能

の3つ。これにより「寺田さんらしさ」を維持したまま、ある程度まとまった量を一括して流通できるので生産も流通も負荷がかからないのではないか…と仮説を立てました。

こうして「通販サイトで、数量限定で理解のあるお客さんだけに売る」という最初の販路が設計できたところからデザインを逆算していきました。
そして出した結論が「広告的なデザインにする必要はない」ということです。

つまり「売れるデザインにする必要がない」ということなのでした。

▶アジア的なデザインの世界を再び構想してみる

今回のプロジェクトで、僕ははじめて「デザインで課題解決しなくてもいい」という状況に直面しました(販路開発で課題解決しているので)。

さて、では何のためにデザインするのか。

ここからちょっと発想が飛躍しますが、僕はこの機会を「アジア的なデザインの再構築」のトライアルだと捉えることにしました。
かつて中国の雲南省の奥地を旅していた時に、白族や倭族といった少数民族の街で見た「書」の世界の豊穣さに心を打たれたことがありました。そこには簡体字になる前の、アジアの文字文化圏がもっていた「しなやかさ」「多様性」があった。

で。寺田本家と出会った時になぜかその「アジアの書の世界」と「自然酒づくりの世界」がつながってしまったのですね。

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この不思議な味わいの書は、新鋭の書道家葉山万里子さんによるもの。グッジョブ!

寺田本家の日本酒は、数値で測ってみると一般的な日本酒では考えられないような不思議な酸味や旨味を持っています。なので、いわゆる日本酒好きは寺田さんのお酒は飲み慣れない。なんだけど、実は「アジアの酒文化」という文脈でみると、寺田さんのお酒は非常に大陸的な印象があるわけです。水のように澄んで研ぎ澄まされた島国の酒に対して、おおらかで濃厚で奥行きがある。

そして話はデザインに戻ります(しかしポートフォリオのはずなのに僕は何の話をしているんでしょうか、汗)。
日本語の文字は、明治以降に印刷文化が機械化されるにしたがって、今僕たちが新聞で慣れ親しんでいるような書体が、筆で書いた文字にとって変わっていきます。

この新聞で使われるような書体は、四角形のグリッドで区切って配置していく「アルファベットにような整然とした運用」ができます。これでたくさんの文字を効率よくレイアウトすることができ、新聞や書籍をつくりやすくなった。今の日本語エディトリアルデザインの方法論はつまり「日本語を欧文のようにレイアウトする」という発想によるところが大きい。

ところが弊害もある。書のもっていた「しなやかさ=空間の可変性」が失われてしまったのです。江戸時代以前に書かれた巻物を見て欲しいんですが、この文字の連なりは文字同士のつながりによって「空間が伸び縮みする」という特性を持っています。まるで流れる川のように、文字が区切られることなく文を形成していく。そこにはおおらかな美しさがあり、「極限の1点」や「普遍性」に収斂するのではなく、むしろ空間が伸びて拡散していくような楽しさがある。

…とここまでお読み頂いている方はお気づきでしょう。
僕は、寺田本家の世界を「日本的」から「アジア的」に読み換え、それを表象するデザインもまた「アジア的」な方法に読み換えようと思ったのです。そのことによって、文脈を切り替える。寺田本家のものづくりを「アジアの発酵文化の多様性を象徴するもの」として定義してみたかったのです。

「研ぎ澄まされた究極」に向かう傾向のある日本的な美意識(それは酒にもデザインにも言える)の文脈を、もっとおおらかで楽しくて不揃いなものでもいいんじゃないか、という問いかけをしてみる。それが結果的に今回の「無限に文字が溢れだしていくような書の世界」のデザインのかたちを取りました。パッケージを手にとってみるとわかるのですが、ラベルの端で文字が切れちゃっています。これはつまりこの先にも無限に空間が続いているという大陸的な空間を作りたかったのでした(そんな書の取り扱いを提案してくれた葉山さんもスゴい)。

口にした瞬間、無限に喜びが溢れだしていくような寺田本家のものづくりに対す敬意を、僕なりの文法で示してみました。優さん、さっちゃん、本当に良い機会をどうもありがとう。

今回のプロジェクトで、日本の発酵文化が外に開いていくきっかけができればいいなと思っています。

自分にとっての転機になるプロジェクトでした

この『うふふで醗酵』のプロジェクトは、デザインに対する定義を再考する転機となりました。これまで、デザインを「課題を解決するための方法論」として考えてきたのですが、どうもそれだけじゃないのかもしれない…と思うようになったんですね。

ではそれは何か?
課題を解決するのではなく、問いを深める。
既存の価値観を、別の視点で見る。あるいは、忘れられたものの中から美を見だす。

「経済活動の伴走者」ではなく、「自らの手で文化をつくりだす者」。
そんなデザイナーとしてのネクストステップに、これから挑戦していこうと思うのでした。

アジアは発酵でつながっている。そしてきっと、デザインでもつながっている。

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